第165話 ぬいぐるみ魔王子
経義が枕返しを倒した影響は、すぐに広がりました。
その経義からその場に待つように指示されていた弁。
「しかし・・・ この置物、一体何が?」
実は彼の主人からは腕輪からの緊急信号を受け取ってきただけで、どういう状況かは伝わっていなかったのです。結果今の彼に分かるのは、何故か気絶している自分の教え子と、へんてこりんな置物が有ると言うことだけでした。しかし次の瞬間・・・
ピカンッ!!・・・
「ッン!!?」
突然、弁が見張っていた置物が強く光り輝き出したのです。
「これは!!・・・」
その光は置物から離れ出て、気絶していた静の体に入っていきました。そして、彼女はぱっちりと目を覚まし、そしていきなり飛び上がりました。
「元に戻りましたぁーーーーーーーーー!!!」
「ウオッ!!?」
弁は突然彼女が目を覚ましたことに驚き、体を震わして若干引いてます。
「あああ! 弁さん!? いきなりすいません・・・」
「お、おぉ・・・ 若様の言っていたのはこのことでしたか・・・」
弁は細い目をぱちくりして驚きました。
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そして緊迫状態の町田家では、全員がぬいぐるみが動き出したことに驚いていました。
「ぬ、ぬいぐるみが・・・ 動いた?」
「一体・・・ 何が?」
そして、当の本人はというと・・・
『やっべぇーーーーー!!! 完全にやらかしちまったぁ!! でもさっきはああしないとそれこそ謝礼鳴らない展開に・・・ つ~かこれはこれでまずい展開な気が・・・』
痛みが応えた男は手の力が弱まり、魔法陣が描かれた紙を落としてしまい、それにいち早く気付いた瓜が回収しました。男はそれを見て震えながら叫び、ジタバタと動き出します。
「か、返せ!!」
しかし次の瞬間、彼にとっては都合が悪く、ぬいぐるみとフィフスの体が同時に光り輝きました。
「ナッ!!?」
「こ! 何だ!? 」
驚いてあたふたしている男に畳み掛けるようにその光はそれぞれの体から離れだしていき、その途端にフィフスの体は生気が抜けたように白目を向いてその場に倒れてしまいました。
そして中身がなくなって開いたその体に、ぬいぐるみの中から飛び出て来た光が入っていきました。そして・・・
「ウッ! ウゥ~ン・・・ って、イッタァーーーーーーーーー!!!!!」
唐突な叫び声と共に、フィフスの体は起き上がりました。近くで聞いてた瓜とユニーはお互いにビクッ!!とします。
「アタタタタ・・・ いきなり意識が飛んだと思ったら急な痛みって、次から次へと何なんだよ・・・ って、んん!!?」
そのとき、彼は反射的に腕を動かして頭を触ったことで、自分が動けていることに気が付きました。
「もしや・・・」
そして彼は両腕を目の前に持ってきて見てみます。するとそこに映ったのは、ぬいぐるみではなく、人の腕でした。
「オ! オオォ!! 戻った! 戻ったーーーーーーーーー!!!」
フィフスは自分が元の体に戻ったことに大声を出して喜びました。しかし次には・・・
「ア~イタタタタ・・・ 自分の攻撃ってマジで食らうとこんなに強烈なのかよ。」
と、頬を抑えて痛がってしまいます。すぐ近くに困惑する目線二つがあることを忘れて・・・
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丁度同時刻、枕返しが入ったマンションでは、倒れ込んでいた男が目を覚まし、上半身を起こして周りを見ます。
「ここは!? そうか・・・ 戻ってしまったんだな・・・ クッソ~! あのぬいぐるみめぇ~・・・ 次会ったときは邪魔させずにぎったぎたにして・・・」
「ぬいぐるみが何だって?」
「え?」
男は自分の死角から知らない男が出て来たことに気が付きます。
「だ、誰だお前!?」
「大体の筋書きは知っている。大人しくして貰おうか。」
経義の一声でその部屋はエデンの構成員に囲まれ、男は有無を言わさずに取り押さえられました。
「アガッ!! な、何で・・・」
「邪な願いはほどほどにするんだな。」
男は悔しそうな顔をしながら事情徴収のために連行されて行きました。
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ようやく体を自由に動かせるようになったことでテンションが上がっているフィフスに、警戒しながらも瓜が聞いて来ました。
「その・・・ フィフスさん・・・ ですか?」
テンションの上がっていた彼は、くだらないことを言いながら自己紹介しました。
「はーい! 異世界から来た魔王子の『フィフス』、十六歳です! センスのかけらもない友人と毎日御伽高校に通ってま~す・・・」
すると彼はそこで当のセンスのかけらもない友人を見たことで、ようやく我に返りました。すると彼はぬいぐるみのときにしでかしてしまったことがフラッシュバックし、全身から大量の汗を噴き出します。
「あぁ・・・ 瓜・・・ その・・・」
「本物・・・ なんですね・・・」
フィフスは彼女の意外な言葉に困惑し、声のトーンが変になりながら話します。
「あ、当たり前だろ! おおお、俺みたいなのが何人もいてたまるかってんだ!!」
後ろを向いて赤面した顔を隠すフィフス。このままセクハラの件はトンズラをここうと歩き出しますが、それは彼女の手によって防がれてしまいました。なんせ・・・
ギュ・・・
「!!・・・」
彼女は怒るどころか、突然後ろから抱きついてきたのです。あまりのことにフィフスは気が動転してしまいます。
「う、瓜!!?」
「良かった・・・ 良かったです・・・」
フィフスは後ろの彼女の姿は見えませんでしたが、着ている服が濡れる感覚を感じ、彼女が泣いていることを察しました。
「お前・・・」
「ずっと側にいてくれてたんですね!! なのに、私・・・」
フィフスは彼女の力が弱まったと同時に身を反転させます。しかしそこからどうしていいのか悩んでいると、机の上のユニーが目線を細めて前足を動かし合図を送ってきます。その意味が分かった彼は、また恥ずかしくなりましたが、実践してみました。
「瓜。」
「はい・・・」
フィフスは瓜が顔を離すのを見計らい、彼女の頭を優しく撫でました。
「フィフスさん・・・」
「ああ・・・ その・・・ 心配かけたな、すまなかった。」
「いいんです・・・ 帰ってきてくれたんですから・・・」
フィフスはしばらくして手を離し、瓜も腕を下げました。そして彼はまた後ろを向きながら話します。
「じゃ、じゃあそういうことだし、俺は風呂には行って寝させてもらうわ。ぬいぐるみ生活で結構疲れたし・・・」
「はい、ゆっくりしてしてきてください。」
そこからフィフスはリビングから離れていった。一人になった瓜は、自然と顔が緩んでしまいます。
「本当に良かった・・・ でもまさか、ぬいぐるみになっていただなんて・・・
・・・ん? ぬいぐるみ?」
瓜はそこでようやく昨日の事を思い出しました。
「それって・・・ もしかして・・・!!!」
着替えを取って脱衣所に向かうフィフス。
「ハ~疲れた。ホント瓜に殺されるかと思ったぁ・・・」
「フィフスさん!!!!!」
「!!?」
フィフスは瓜が大声を出したことにまさかと思うと、後ろから彼女が目を回して椅子を持ってこっちに迫ってきている様子が見えました。
「昨日からのことは忘れてくださーーーーーーーーーい!!!!!」
「やばいあれ殺す気だ!!!」
フィフスはダッシュで家から飛び出し、瓜もそれを追いかけます。街灯が照らす夜の住宅街の中、二人の追いかけっこは続きました。
「結局最後はこうなんのかよーーーーーーーーー!!!!!」
フィフスは自分の災難は彼女の暴力で終わることを痛感しました。
<魔王国気まぐれ情報屋>
マッチ坊やのぬいぐるみはこれ以降も瓜が大事にしています。
瓜『フフッ、やっぱり可愛いです!』
フィフス『気に入ってくれてよかった。』
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