第161話 機嫌が悪い!!
それから少しの間会話をし、それが終わると、男の方はどこか嬉しそうに浮き足だってカラオケルームに戻って行きました。それを見送ったカオスは、一人になると小さな声で独り言を呟きました。
「ありゃダメだな・・・ せっかく枕返しにも砂人と同じ事を伝えたのに・・・」
すると、カラオケの床の隙間から突然水があふれ出し、その一部が口の形になってカオスに話しかけました。
「話は済んだの?」
「おっと、セレン様。ええ、まあとりあえず。」
水たまりの正体は体を変形させたセレンのようです。
「なら帰ってきなさい。アンタは放っておくと何するかわかんないんだから。」
「はーい。」
セレンの指示を素直に聞いたカオスは、次の瞬間にはその場から姿を消しました。
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その日の夕方。経義を始めとしたエデンコーポレーションの捜索隊は、フィフスの捜索に全力を注いでいましたが、未だに成果は上げられませんでした。
近くのベンチに座り、静が届けてきてくれたサンドイッチを食べる経義。その顔には少し焦りが見えます。
「・・・ 人狼の奴、本当にこの辺りにいたのか?」
「若様、少し無理をしすぎでは・・・」
「俺は大丈夫だ。この程度で倒れるほどやわなつもりはない。」
静はここまで経義が動くことに気になります、
「何故そこまでするんですか?」
「あ? ああ・・・ 昨日、小馬の契約者の女に約束しちまったからな。」
経義からの返答に静は眉間にしわを寄せながら不満そうな顔をしました。
「どうした?」
「若様、まさか瓜さんに好意を持っているのでは!?」
経義は静から突然言われた事に「ハァ!?」とでも言いたそうな顔になった。
「何言ってんだお前? 俺は前にアイツに借りがあるから返したいだけだ。牛若家の者たるなら、借りを作るのは恥だからな。」
「そ、そおだったんですか!! すみません、勘違いしちゃって・・・」
静は安心して笑顔になり、経義に寄りつきます。すると経義は・・・
「ま、アイツが面白い奴なのは確かだがな。」
「ナッ!!・・・」
静は経義が無意識に瓜に引かれていることを察してカクカクとなってしまいました。それで離れてしまった経義は振り返って彼女を見ます。
「何してんだお前、ついてくるならはやくしろ。小馬がどこにいるのか分からないんだからなぁ・・・」
突然彼の言葉が意識が離れたようになったことに静が体を元に戻して気になると、いつの間にか彼は自分から目線を外していることに気が付きました。
「若様?」
すると経義が向こうを指で指し、彼女はそれに合わせて後ろを見ると、そこには・・・
「フ フフ~フフ~ン!!・・・」
気分良く鼻歌を歌いながらスキップしているフィフスがいました。
『『いたーーーーーーーーー!!! めっちゃ近くにいたーーーーーーーーー!!!』』
あまりのことに二人揃ってまん丸に目を開いて驚きますが、すぐに戻して彼のもとに走って行き、声をかけました。
「オイ! お前!!」
「ん?」
彼の方は何だと首を傾げて彼らを見て来ます。そこに経義は続けました。
「小馬!! お前今までどこに行ってた!!?」
「おうま?」
男の方は何のことだか分かってない様子です。それどころか彼は経義の後ろにいた静に目が行きました。
「ン~・・・!?」
男は声をかける経義を無視して彼女に近付き、唐突に彼女の手を握りました。
「ねえ君! こんな男放っておいて、俺と一緒に遊ばな~い? こんな無愛想な男には出来ないようなこと色々教えてあげるよぉ~?」
「どどどどどうしたんですか五郎さん!!? あなたこんなことしない人では!!?」
男が止めずに口説きにかかると、経義がその手を放した。さっきの態度に対してかなり怒っています。
「あ、何?」
「ふざけているなら今すぐ止めろ! お前、散々アイツに心配させて、その実くだらないナンパで消えていたのか!!」
「な、何だよ初対面に向かって・・・」
「牛若だ! 何を言ってるんだお前は!?」
「え? えぇ~・・・」
男の方は本当に何も分かっていないような顔をしています。経義はこのことに違和感を覚えると、次の瞬間に彼は・・・
「ッン! シズ、身を引け!!」
「え?」
気付いていない静の服の襟を持って自分と共に後ろに下がりました。すると二人と男の間の空間に影が入り、そこに枕返しが飛び降りて歩道を陥没させました。
「シィ~・・・」
「魔人だと!?」
「何故ここに!?」
そこから枕返しが立ち上がると、後ろを向いて男に詰め寄ります。
「油を売ってないでさっさと行け!! こっちは早く終わらせたいんだ!!!」
「ハ! ハイィーーー!!」
枕返しの言葉に怯えた彼は震えました。一方経義は、動揺を抑えて静を下がらせつつ相手を睨む目付きになります。そして男に向かって叫びました。
「オイ小馬!! よく分からんがとりあえず行くぞ!!!」
そして経義が再度彼の方を見ると、彼の姿はそこにはなく、少し目線を横にずらした先に情けなく恐れて走っている状態がありました。
「ハァ!!? オイ!! 何してんだ!!!」
そこに枕返しの攻撃が始まり、牛若は静を反対方向に突き飛ばしながらそれを避けた。
「若様!!」
「アイツ、魔人を目の前にして逃げ出しやがって!! クッソ! 召着!!」
経義は腕輪のボタンを押してスーツを着込み、背中に背負っていた大剣を抜きました。それを見た枕返しは、興味がわいた反応をします。
「ほお、カオスが言っていた変な鎧の人間ってのはお前か!」
経義は大剣の先端をすぐ横の地面に刺し、左手の人差し指を枕返しに指していつものように言います。
「先に言っておく! 今俺は、非常に機嫌が悪い!! 覚悟しろ!!!」
それを言い終わると経義は地面から大剣を引き抜き、構える枕返しに正面から向かっていきました。
<魔王国気まぐれ情報屋>
モチーフ紹介
・枕返し
『くるみ割り人形』より『ネズミ』
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