第157話 初任給
さて、前回までの事から一週間ほど経ち、特に事件という事件もなく過ごしていた一行。そんな中、フィフスは放課後、一人信のラボにやって来ていました。
「いきなり呼び付けて何のようっすかドクター。」
「そう警戒しないでくれよ・・・ 何か悲しくなっちゃう。今日は君のための呼びつけなのに・・・」
「俺のため?」
すると信は机の引き出しからある物を取り出し、フィフスに放りました。彼は受け取ったそれを見て見慣れないために首を傾げます。
「何だこれ?」
「通帳。それとカード。」
信はこの世界での給料の入り方、そして取り出し方を説明しました。
「ほうほう、この世界ではそうして金を手に入れるのか。向こうじゃ銀行に機械なんてないからなぁ~・・・ ってことは、まさか・・・」
フィフスはここに呼ばれた本題を理解しました。
「そ、君が僕と契約して一ヶ月、初任給だよ。話の感じだとかなりが家賃に持ってかれるみたいだけど・・・」
「それを言わないでくれ・・・」
「ま、余った分で何か買ってみたらどうだい。それだけでも楽しめるはずだよ。」
「・・・」
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それから早速ATMからいくらか取り出して町を当てもなく歩いていました。
『何か買って楽しむ・・・ か・・・』
フィフスはそれを意識して周りを見渡すと、店の窓から見えていたある物に目が行きました。
「あれは・・・」
彼が近付いて行った先には、丁度ギュッと抱けそうなぬいぐるみが置かれていました。まるでマッチをゆるキャラ化したような風貌で、正直あまり可愛くありません。ですが、彼はこれに少し思うことがありました。
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それはこの前買い物で瓜とここに立ち寄ったとき。ふと彼女がいつにもなくじっとこれを見ていたので、彼がそこに行きました。
「何してんだ?」
「あ! いや・・・」
フィフスは瓜がそのぬいぐるみを見ていたことに気付いていました。
「それがどうかしたか?」
『可愛い! です!!』
「可愛いって、これがか?」
フィフスもそれを見ましたが、例のごとく思った事は・・・
「お前・・・ 相変わらず変なセンスしてんな。」
『え! そんな!!』
しかしそれでも瓜はぬいぐるみを見て目を輝かせていました。
『でも、やっぱり可愛いです!!』
「はぁ・・・」
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「ありがとうございました~」
フィフスはその店でぬいぐるみを買い、紙袋を入れて出てきました。
『バレンタインのときに友チョコとやらを貰ったし、その礼って事でありかもな。何か店員に押されて手紙まで書いちまったが・・・』
フィフスは紙袋からぬいぐるみを取り出し、一周ぐるりと見てみました。
「う~ん、どう見てもそんな可愛いとは思わないが・・・ っん?」
彼はぬいぐるみのタグに名前がついているのが見え、それを目元に近付けると、このぬいぐるみの名前が書いていました。
「『マッチ坊や』か・・・ まんまな名前だな。」
少し微笑んだフィフスでしたが、次の瞬間、突然顔色を変えて足を止めました。
「ったく、平和なときは長く続かねえもんだな。」
そこから少し離れた場所。突然現れた魔人が暴れ、周囲の人達が逃げ惑っていました。そしてそれに遅れた一人の男が、体勢を崩して転んでしまい、魔人はそこに詰め寄ります。
「おお! これなら御の字だろ。では早速・・・」
「ドロップキィィィッッック」
次の瞬間、魔人は瞬間移動で現れたフィフスのドロップキックを受けて吹っ飛んでしまいました。
「ウゴォーーーーーーーーー!!!?」
フィフスはそこから綺麗に着地し、倒れていた男に声をかけました。
「今のうちに逃げろ。」
「あ、ありがとうございます!!」
男はすぐに逃げ、周囲も散らかりながらフィフスと、蹴られた魔人だけがその場に残りました。
「て、てめぇ・・・」
「またわっかりやすい悪役面だなぁ。まあいい、この後予定が出来たんで、とっとと片付けるか。」
フィフスがそう言って構えると、相手の方は彼に興味を抱いているように見て来ました。
「お? なんだか知らねえが、さっきよりも良さそうな奴だ。」
「あ? 何のことだ?」
「こっちの話だ、気にするな。」
相手の魔人は、何やら気分が良さそうに両手を合わせ、何か独特な形の何かを取り出します。
「せっかくのいい獲物だ! 俺の契約者の犠牲になって貰うぞ!!」
『契約者の犠牲? よく分からんが俺狙いか!?』
フィフスはとりあえず今相手から繰り出されそうな技をどうにかしようと腕に向けて放射炎を放ちました。しかし魔人はそれをすれすれでよけますが、その反動で体勢を崩してしまいました。
「クソッ! だがこの程度でやられる俺ではない!!」
「あ?」
フィフスが相手を見ると、その魔人は近くにあった石を投げつけてきました。
「イッテ!!」
「今だ!!」
魔人は一瞬フィフスがひるんだのを見ると、とうとう魔術を発動させました。
「受けてみろ! 我らが種族秘伝の特殊術を!! ハァーーーー!!!」
そのとき、魔人は持っていた何かを彼から見て左方向に反転させました。それを見たフィフスは、次の瞬間突然意識が遠のく感覚を感じました。
『!! 何だ!?・・・ 急に・・・ 意識が・・・』
彼はその場で気を失い、持っていた紙袋を落として倒れてしまった。枕返しはその近くにまで歩いてきた。
「フン! たわいもない。」
すると彼はさっき投げつけた石を拾い、何故かそれを握り潰しました。
「よおし、後は・・・」
魔人は倒れたフィフスの姿を見て、ニヤッと不気味に笑いました。
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それからしばらくして、フィフスは目を覚ましました。
『ウッ! ウゥ~・・・ 俺は一体・・・』
目覚めたばかりで意識がもうろうとしている彼は気分を悪くしながら、目の前を見ます。するとそこは、見慣れた家の壁が見えました。
『ん? いつの間に家に帰ったんだ・・・』
そしてある程度意識がハッキリしてくると、彼は目の前で瓜、そして経義が会話をしている様子が見えました。何故か妙に高い位置にいます。
『牛若? こんな所に何を・・・ それに瓜の奴、なんか、暗い顔をしてやがる・・・ 一体何が?』
彼は耳を澄まして二人の会話を聞いてみました。
「それで、見つかったのは、これだけだった。手紙が着いていたから、多分、プレゼントだったんだと思う。」
「そうですか・・・」
「すまない。エデンを方でも捜索しておく。心配するな、すぐ見つかる。」
経義は家を出て行き、瓜は彼に向かって深く礼をしました。
『捜索・・・ 何の話だ?』
すると、人が去った後の瓜の目元に涙が浮かび出しました。
『え、何!? なんで泣いてんの!! おおい瓜!!
・・・ って、あれ?』
フィフスは、そのときに初めて自分が喋れなくなっていることに気が付きました。
『おい! これどうなってんだ!!? なんで・・・』
すると彼は、瓜よりも奥にある鏡に目が行きました。しかし彼が今いる位置に、さっき買ったぬいぐるみが映っていました。
『これって・・・ まさか・・・』
フィフスが自分の身に何が起こったのかを予想すると、瓜がそのぬいぐるみを拾い上げたことで、それが確信に変わりました。
『ぬいぐるみになってるぅぅぅぅぅぅーーーーーーーーーーーーー!!!!!!』
フィフスは、ぬいぐるみになっていました。
<魔王国気まぐれ情報屋>
・マッチ坊や
瓜が溺愛するマスコット。マッチの赤い部分に顔が付き、気の部分に手足が生えたような姿をしており、正直そこまで可愛くは無い。
知名度もかなりマイナーで、例のごとく彼女のセンスのなさがうかがえる。
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