第156話 フラ薬
次に平次が目を開くと、そこは周りに塀が見え、さっきまでとは全然違う建物の上に来ていました。
「ウッ!・・・ ウゥ~・・・ ここは?」
彼は突然状況が変わって自分が今どこにいるのか当たりをキョロキョロと見渡します。すると、こちらを心配そうに見ている瓜がいました。
「町田さん!」
「よかった、大丈夫ですね・・・」
彼女の安心した顔を見て、彼はさっきのことを思いましました。しかしならば何故自分が無事かと思い、もしやと遠くを見ると、少し離れた所にいるフィフスを見つけました。
「よお、危なかったな。」
平次は少しおぼろげな状態のままでフィフスに話しかけます。
「赤鬼・・・ まさかお前が?」
「せっかく逃がしてやったのに、タイミングの悪い奴だな。」
聞いた話によると、平次が車にはねられそうになった直前、ユニーがフィフスにテレパシーを送り、彼は例の瞬間移動を使って早々と切り上げてきたようです。
「咄嗟だったから、思いの他遠くまで来ちまってこの様だがな。」
「あの技ってお前もコントロールできてないのか?」
「ん? あぁ・・・ 説明すんの面倒くさいからパス。」
「オイ!」
すると今度は瓜の方からフィフスに聞いて来ました。
『そもそも、あの場所へはどうして・・・』
「それもユニーのおかげ、ていうかせいだな。突然召喚された。」
「エッ!?」
彼女が少し驚くと、ユニーが鞄から出て彼女の右肩に上がってきました。
「ま、人前でユニーが暴れるとそれこそ大騒動になるからな。そいつなりの配慮って事だ。」
「ユニーさん・・・」
ユニーは「自分偉いでしょ!!」とでもいい多様な胸を張った態度を見せ、鼻から息を吹き出していました。瓜はそれを見て微苦笑しながら汗を流します。
そして大体の詳細が分かった平次は、ゆっくりと立ち上がりながらため息をこぼしました。
「ハァ~・・・ 散々アクシデントを起こした挙げ句、結局最後はお前に助けられたって事かよ・・・」
しかし、これを受けていつも通りフィフスに馬鹿にされるのかと思っていました。事実瓜に乗っかっているユニーの方は、完全に彼を見下すような目線で見ていましたが、次に来た彼の言葉は・・・
「・・・ありがとうな。」
「・・・は?」
平次は一瞬フィフスが何を言っているのか理解するのに時間がかかりました。そしてもう一度彼に聞いてしまいます。
「おい、今何て言った?」
あまりのことにふと聞き返してしまう平次に、フィフスの方は若干苛ついたそうな顔を浮かべながら答えてくれました。
「礼を言ったんだよ。一回で聞け!!」
改めてそれを聞いて、平次は一瞬身震いをしました。
「な、何だよ! お前が褒めるなんて気持ち悪い・・・」
「あ~・・・ やっぱ前言撤回しようかな~・・・」
フィフスは怒りマークを沈めてから彼をさっきの言葉をかけた理由を話しました。
「前に瓜には言ったとおり、俺とユニーはお互いにお互いを召喚することが出来る。だが、その転送速度は体積がでかいほどかかるもんでな。ここに来るまでに少し時間がかかったんだ。」
それを言われて、瓜もユニーと共に呼び出されたときに、いつもユニーよりも少し後に到着していたことを思い出しました。
「どういう形にしろ、お前はその間の時間稼ぎをしてくれたんだ。見てて激しくかっこ悪かったがな。」
「ウグッ・・・ 嫌なこと言いやがって・・・」
「お前、案外凄い奴だな。」
平次がフィフスからの言葉に戸惑っていると、フィフスは瓜にテレパシーで何かを伝えたようで、瓜は恥ずかしそうに顔を赤くして平次の耳元にその顔を近付けてきました。そして・・・
「ありがとうございます・・・
平次君。」
ドッキィ!!!・・・
平次は瓜から自分の名を言われたことに大きく動揺し、同時に飛ぶようなうれしさに満ち足りました。そうして彼は実際に飛び上がり、ふらふらとのろけて歩き出しました。
「い、いや~それ程でも~!! ま、確かに、あの時俺のおかげで町田さんは救われた訳だけどぉ~・・・」
テンパった平次が建物の端まで行き、柵の一部にもたれかかりました。すると・・・
バキッ!!・・・
「へ?」
平次が嫌な音に振り替えると、その寄りかかっていた柵が見事に割れ、そのまま彼は建物から真っ逆さまに落ちていってしまいました。
「アァーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!」
「平次君!!!」
「アイツ・・・ ホント色々スゲえな・・・」
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その頃の石導家。美照がお気に入りの少女漫画を読んでいると、そこにグレシアの叫び声が聞こえて来ました。
「エェーーーーーーーーー!!!・・・」
声に驚いた美照がグレシアの元に行くと、分厚い本を読んで大きくショックを受けた様子の彼女がいました。表紙の文字を見る感じ、異世界の本のようです。
「アァ~最悪・・・」
「どしたのグレ姉?」
「さっき平次に飲ませた薬、どうやら過去に開発されてたらしいの。」
「えぇ!!? で、どんな薬だったの?」
「これよ!」
グレシアは本に書かれていた絵を美照に見せました。
「『フラ薬』、どうにもこれを飲んだ人は、ただ歩いているだけで自分に都合の良いフラグが次々起こるとか・・・」
「何その薬!? 運命決めれちゃうって事!!?」
「でも、その代償にその後何かしらで怪我するらしいわよ。死にはしないみたいだけど・・・」
「じゃあ、今頃お兄は・・・」
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ピーポー!! ピーポー!!
到着した救急車のサイレンが鳴り響く中、大怪我を負った平次は担架に乗せられてその車に運ばれていきました。
「あああ、平次君・・・」
「イヤ、お前ってやっぱ凄いわ。ホントに人間かよ。」
フィフスはあの高さから落ちて平次が生きていることに感心していました。
「なんで・・・
最後はこうなるんだよぉーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!」
平次の大きな叫び声が、夕方の空に鳴り響きました。
<魔王国気まぐれ情報屋>
・その後 平次の入った病室
モアイ像のような顔になったグレシアと美照が見舞いに来る。
平次「オッ! 来たか。いや、すまん、こんなことになって・・・」
二人「「ごめん・・・」」
平次「は? 何で謝んの?」
二人「「ごめん・・・」」
事情を知らない平次に、二人はただただ謝罪した。
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