第154話 喫茶店デート
思わぬサードの登場に、瓜はともかく平次は内心焦る気持ちがありました。
『マジかよ!! たしかこの人、赤鬼の姉ちゃんじゃ・・・』
「こ、こんな所で奇遇ですね、えっと・・・」
平次は彼女とはあまり接したことがなかったので、ふと名前をど忘れしてしまいます。するとその事にサードの方も気付いたようで、あまり興味が無いのかさらっと名乗りました。
「『サード』、まあこの世界では『三琴』って呼んでちょうだい。」
「あ、すんません・・・ 三琴さん。」
彼女が現れたことで、瓜は自然と彼より親しいサードに話しかけていきました。筆談なのは変わりませんでしたが・・・
「どうしてここに?」
「バイトよ。こないだ始めたの。」
「そうなんですか。」
つけいる隙が無くなったことに平次がドギマギしていると、偶然にもサードの方から話をふっかけてきました。
「それよりウリーちゃん、今日は珍しいことするわね~・・・ こういうところにはてっきりフィフスと来る物かと思っていたけど。」
それに平次はビクッとします。大して瓜は少し恥ずかしそうにしながらこう返しました。
「いつまでも頼りきりはいけませんし
自分から友達作りに動かないとと思いまして。」
「ふ~ん・・・」
唯一この場の全体が見えていたサードは、今の瓜の言葉が素直なことはもちろん、その隣にいる平次が彼女とそれ以上の関係になりたがっていることもなんとなく察しました。しかしサードは敢えてそれを言わないでおきました。
「ま、いいわ。それじゃ二人とも、ゆっくりしていってね。」
サードは後ろを向いて二人に手を振りながらそう言って仕事に戻って行きました。二人に見えていない死角に顔が入ると、サードは表情を少ししかめました。
『あの愚弟・・・ このままだとウリーちゃんを取られちゃうわよ・・・』
サードが去り、自分の頼んでいた紅茶が先に来た瓜は、平次にことわりの一礼してからそれを手に取って一口飲みました。少し熱いのか、ゆっくりとしています。
平次はそんな彼女の様子を見て、何故か周りの他の客が見えなくなり、代わりに瓜の周りにバラの茂みがあるような優雅で美しい景色が広がって見えました。
『なるほど・・・ これが女神の休日というやつか・・・』
などと勝手に納得していると、視線に気付いた瓜が首を傾げながら見て来ます。
「?」
「あ、いや・・・」
瓜が少し紅茶を冷まそうとテーブルにティーカップを置くと、それと同じくして別の店員が平次のレモンティーを運んで来ました。
「お! 来た来た! では早速!!」
平次はさっき不自然に瓜を見たことを誤魔化すために、彼はテーブルに着いたのとほぼ同時にティーカップを手に取ってすぐに口に付け、紅茶を飲みました。
「あれ?」
飲んだ途端に、彼は頼んでいた物にしては、どうにも味がまったりとしていました。注文を間違えたのかと彼が不機嫌な顔をすると、何故か前方の瓜が口をぽかんと開けていました。
「ん? どうしたの?」
「それは・・・」
彼女が手を伸ばして止めようとしているのが見え、改めて自分が持っているティーカップの中を見ると、そこにはレモンティーではなくミルクティーが入っていました。その事に平次は目を丸くします。
『これは・・・ まさか・・・』
「それ・・・ 私のですぅ・・・」
小さい声でしたが、内容が内容なためにその言葉は平次の耳に真っ直ぐに入っていき、彼はまたかけているメガネが割れたような衝撃が走りました。
『なななな、何だとぉーーーーーーーーー!!!
つつつつ、つまり・・・ いぃいぃ今ので、町田さんと、かかかか、間接・・・ 間接・・・
間接・・・ k・・・』
「あの・・・ 本当に・・・ 大丈夫ですか?」
また瓜から心配の言葉が来ましたが、今回の平次は今までよりも明らかに興奮し、発する言葉を間違えてしまいました。
「いいや!! ありがとうございます!!!」
「あ、ありがとう?」
再び言われてようやく割れに返った平次は、もう手遅れながら彼女に謝罪しました。
「ご、ごめん!! あ、新しいの、俺が弁償するから!!」
ガタンッ!!・・・
と立ち上がった拍子に、平次はテーブルに膝をぶつけてしまい、それで揺れたティーカップから紅茶がこぼれて彼のズボンの膝部分を濡らしてしまいました。
「熱っ!!」
「石導君!!」
それを見た瓜は慌てて自分のスカートのポケットからハンカチを取り出し、そのズボンにこぼれた紅茶を拭き取ってくれました。
「ま、町田さん!!?」
「すぐ済みますので!!」
しかしそのとき平次は紅茶がこぼれたことなどすっかり忘れ、それ以上に目の前の至近距離にある大きな膨らみに視線が釘付けになってしまいました。
『やっぱり、大きい・・・ というか、顔、さっきより近くて・・・』
こぼれてすぐだったので、紅茶はシミにならずに拭き取ることが出来ました。瓜はホッとして態勢を変えると、本人も気が付かない間に一瞬その大きな膨らみが固まっていた平次の右手に当たってしまいました。
『い、今のは・・・ 今のは!!!!・・・』
「これで・・・ 大丈夫。」
瓜が平次の顔を見ると、彼の顔は湯気が出るほど真っ赤になっていました。
「石導君?」
「ま、町田さん・・・」
「はい。」
「ちょっとトイレェーーーーーーーーー!ーーーーーー!!!!!」
「!!?」
気まずさに耐えかねた平次は、喫茶店の中のトイレに全速力で入り、便座に座り込んでしまいました。
『な な なんだこれーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!
込んだこの幸運の連続は!! 下手したら一生分の運を使っちまったんじゃないか!!!
お、落ち着け俺! アクシデント続きとはいえ、これは今までに無いチャンスだ。これを機に更に距離を詰めれば・・・』
平次の頭の中に瓜の妄想が広がります。
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「平次君・・・ 好きです!!」
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「なぁんてことになっちゃったりしてぇ!!!
あーーーーハッハッハ!!!! なーーーーハッハッハ!!!!」
平次は途中から声に出してしゃべっていることに気が付かず、その付近にいた他の客や店員達は、あまりの気持ち悪さに若干引きました。
その中のサードはこう思いました。
『うん、考えすぎだったようね。』
<魔王国気まぐれ情報屋>
・その直後の平次
妄想が進みすぎて現在第四章『子育て』までいっていた。
平次「グヘへ・・・ 三人の子供と仲良くピクニック・・・」
瓜『なんだかゾクッとします・・・』
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