第13話 グレシア
前回、追い詰められて動けないでいる瓜。お互いに硬直状態のままでいました。
『どうしたんでしょう。この人、さっきから固まって動かないんですけど・・・』
『マズイマズイマズイマズイ・・・ いくら台詞を考えてもあの顔を見た途端に全部吹っ飛んでしまう。だがしかし、せっかくのチャンスを無下にはしない。
俺は、ここで決めるんだ!!!』
どこかしょうも無い覚悟を決めた平次はついに瓜と面を向かいました。
「あ、あの! 町田 瓜さん!!」
「は、はいっ!!」
唐突のことに驚く瓜。そのとき彼女は、目の前の少年に何かの覇気を感じました。
『な、何でしょう・・・ なんだかわからないけど凄そうです・・・ 』
覇気に衝撃を受けている瓜。そこにたたみかける平次。決めるようであります。
「俺は・・・ 俺は君の事が・・・
・・・っス・・・
「ドーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン!!」
次の瞬間、平次は突如出現した足に頭から蹴り飛ばされました。
「グホーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!」
「石導君!?」
目の前の状況に瓜にキョロキョロしていると、自分のすぐ横に擬態したフィフスが黒焦げになって立っていた。見るからに怒っています。
「フィ・・・ 小馬君!?」
「おい、探したぞ。」
『どうしてここに・・・』
瓜の言葉を聞き、フィフスはがん開きの目で振り返りました。
「こっちの台詞だ。教室にいろって言ったはずだが?」
『そ、それは・・・』
「おかげで黒焦げなんだが!!」
『あ、いや・・・ その・・・』
「こちとらせっかく良いとこまでいったってのによ~」
『ス、スミマセン・・・』
言葉を切るごとに圧を強めるフィフス。そこに、顔が腫れながらも復活した平次が戻ってきます。
「おい転校生、何でお前がここにいんだ!?」
さっき蹴った相手にフィフスは目を細めて振り返りました。
「なんだ、まだいたのか。で、お前誰?」
ブチッ!!
「石導 平次だ!! 教室に来たとき自己紹介したろ!!」
「ああ、そういやそんな奴いたなぁ。モブだと思って忘れてたわ。」
『メタいですよフィフスさん!!』
平次は凹んだ顔をそのままに続けます。
「おい転校生! お前、町田さんの何なんだ!?」
「何って、一応友達だが・・・」
『い、一応・・・』
「と、友達だと!? お前、今日転校してきたばっかだろ。人見知りの町田さんがそんな奴とつるむ訳ないだろ!!」
言われてしまったと思う二人。しかしそこに仲裁が入ってきました。
「急に消えたと思ったら、こんな所にいたの?」
「さすが、速いな。 ・・・俺程じゃ無いけど。」
やって来たのは擬態を解いたままの志歌でした。当然瓜はその姿に疑問を抱きます。
「奥山さん!? でも、姿が・・・」
フィフスと瓜の距離の近さに、志歌は察しました。
「ハハ~ン、なるほどね。その子があんたの契約者ってことね、フィフス。」
志歌がフィフスのことをその名で呼んだことに、瓜はハッっとなりました。
「フィフス? この方、もしかして・・・」
そこにフィフスから説明が入ります。
「ご察しの通りだ。こいつの名は『グレシア』。半年前に行方不明になっていた、俺と修業時代からの腐れ縁の雪人だ。」
「フンッ!!」
グレシアはそっぽを向きました。
「せつじん?」
「こっちの世界で言う、『雪女』って奴だ。」
「雪女!?」
瓜は自分のクラスメイトの中に既に魔人がいたことに衝撃を受け、少し動きが固まってしまった。
「お~い、大丈夫かお前。」
「なるほどね。あんたがどうしてわざわざ体育館裏に来たかが大体わかったわ。」
ため息をつくグレシアに、すかさずフィフスは聞きます。
「で、そういうお前は何でここにいんだ?」
「あんたが急に消えるからじゃろがい!! で・・・」
するとグレシアは、よろめきながら自分の隣に来た平次の右足を思いっ切り踏んだ。
「イッターーーーーーーーーーーーーーー!!!」
攻撃を食らった平次は右足を抱えてケンケンしていました。
「アンタは何やってんのよ!! せっかくのチャンスを台無しにして。」
「予想外の奴が入ってきたんだ。こっちも訳わかんねえんだよ!!」
「うっさいわよ!! ホント、アンタはいつになったらやってくれる訳!!?」
二人の様子をじいっと無言で見ているフィフス。それにグレシアが気付いて、しまったというような状態である。遠目に見ていた二人は既に察していました。
「ほ~ん・・・ グレシア、お前この眼鏡坊主と契約してんのか。男嫌いのお前が笑えるなあwww」
「め、眼鏡坊主!?」
それを聞き、グレシアはギロッとフィフスに目を向けます。
「何よ!! アンタだって人のこといえないでしょうが!! それもその様子、距離制限があるんでしょ!?」
フィフスは話に疑問を抱いきました。
「何だ? お前はそれが無いのか?」
グレシアは顔を横に振って答えました。
「そんなの無いわ。」
「・・・ は!!?」
フィフス自分の不利な状況に気付いてあんぐりしました。
「はあっ!? アンタ知らないで来たの!!?」
「その事を聞く感じ、お前行方不明になったのはわざとか。まさか、こないだの土蜘蛛とグルって事はないよな?」
「土蜘蛛? あんた、もしかして連中と一戦交えたの!?」
「お前、やっぱ何か知ってるな。」
「勘違いしないで! アタシは任務でここに来たの。」
「それ、どういうことだ?」
「ちょっと待て!!」
話がこじれかけたそのとき、平次が割って入りました。
「そんなことより、とにかく今は小馬! お前、俺に謝れ!!」
「・・・何を?」
「何を? じゃねえよ!! せっかくの一大イベント台無しにしたうえに思いっ切り蹴りやがって。どう落とし前つけるつもりだ!!」
怒り心頭の平次に、フィフスは鼻をほじって答えました。
「何言ってんだおい、俺は瓜に用があったから来ただけだ。後は知らん!!」
「清々しいレベルにむかつくな。こいつ・・・」
「前からこういう奴なのよ。そのに何考えてんのかわかんないから、イマイチ信用しにくいのよ。」
隣のグレシアが呆れている中、フィフスはしれっと話を元に戻します。
「御託は良い、お前が知ってること全部言え。俺らの世界に何が起こってる!?」
さっきまでと違い、真剣な物言いで聞くフィフス。ですが、グレシアは・・・
「・・・ イヤよ!!」
「何でだ!?」
予想外の返しに驚くフィフスと瓜。思わず身を乗り出します。そこにグレシアは、冷静に理由を話しました。
「さっきも言ったけど、アタシはまだあんたを信用してないのよ。元々知り合いだったからって、刺客に使われた可能性は拭えないわ。」
その言葉に平次は反論します。
「おいおいグレシア、いくら何でも友達に対してそれは・・・」
「友達なんかじゃ無いわ!!!」
場が一瞬硬直します。
「え、奥山さんは・・・ フィフスさんとは・・・」
いつもながらの小声で聞く瓜。それに対し大声で答えるグレシア。
「ライバルよ!!! 修業時代からのね。」
瓜はフィフスの方に聞く。
『と、言ってますがどうなんですか?』
「あいつが勝手に言ってるだけだ。俺のことも嫌ってるしな。」
全く同意しないフィフスに、グレシアはムカついてビシッと指を指した。
「ほんっと相変わらずねその態度! そういう眼中に見ないところが嫌いなのよ~!!」
そこに、フィフスは火に油を注いでしまいます。
「お前も相変わらず、その胸と同じくらいの器の小ささだな。」
「ナァ!! 胸は関係無いでしょうが胸は!!!」
「な、キレ症だろだろ。」
「そ、そうですかね?」
『気にしてるんだ・・・』
「と・に・か・く アタシの口から情報を聞きたいなら、せめてでも一つ条件をつけるわ。」
「「「条件?」」」
グレシア以外のの三人が同時に首をかしげました。
「アタシと一つ勝負をしなさい。それに勝ったら、認めてあげる。」
「勝負?」
「そう、それであんたが勝ったら情報をあげるわ。その代わりこっちが勝ったら・・・」
「勝ったら?」
「こちらの願いを一つ叶えてもらうわ。どんな命令でも、文句はなしよ。」
「却下だ。俺にとってメリットが少なすぎる。そもそもそんなことすんのが面倒くさい。じゃ。」
と言ってしまい、そのままフィフスは去ろうとしました。
「ま、待ちなさいよ!! このアタシとの久々の勝負よ。やりたくないの?」
「さあ瓜、とっとと帰るか。」
「ちょ! 待ってよお!!」
断られた事にもはや涙目になっているグレシア。
「わ、わかったわ。ならそっちが勝ったら、もう一つ何か言うこと聞くから。ね、いいでしょ!!」
「・・・」
やけくそになって懇願する彼女の様子に、瓜は流石に可愛そうに思い、フィフスの腕を引っ張って引き留めた。
『やってあげたらどうでしょうか?』
「瓜、お前まで、こいつとの勝負はやり飽きたんだよ。もう良い。」
『願いも二つ叶えてくれるみたいですし・・・』
「しかしなあ・・・ 『ん、待てよ・・・ ここで瓜の友達を増やしたら、俺の自由に一歩近づくのか。なら・・・』」
フィフスはグレシアの方を振り向きます。
「よしいいだろう。その勝負受けてやる。」
グレシアの顔がわかりやすく明るくなった。
「い、良い度胸ね。絶対勝つから、覚悟しなさい!!」
『どの口で言ってんだ・・・』
グレシアは意地悪く笑いました。そして次回、いよいよ決闘開始!!
<魔王国気まぐれ情報屋>
<平次の契約の魔道書>
・水色の表紙が描かれている魔道書。
・瓜の物とは違い古びておらず、ぼろけている部分も無い。
・平次は瓜と違い、普段は魔道書を家に置いている。
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