第146話 混乱の紐解き
前触れも無く突然現れたルーズの存在に、鈴音は驚いています。
「ル・・・ 思念!! 腹治ったのか!?」
「ええ、時間はかかりましたが・・・」
ルーズは掴んでいた手を鈴音に当たらない方向に振り放し、彼女にチラッと顔を向けて話し出しました。
「大体のことはドクターから聞いています。とりあえず、この場を納めますか。」
振りほどかれ、睨まれながらもなお止まろうとせず、完全に暴徒化して襲いかかって来る男子生徒達をルーズは見事に捌きます。しかし数が多く、その上今いる場所が狭い廊下の行き止まりだったこともあって、入れ替わり立ち替わりで同じように別の男子生徒が襲って来るだけでした。
『クッ!・・・ 切りがない。どうにか次の手に繋がる糸口があれば・・・』
するとルーズは後ろの方向からある小さい音が聞こえました。もしやと顔だけ後ろを向くと、鈴音の後ろには閉まっている窓がありました。敢えて後ろに下がってそこから下を覗くと、彼は少し安心したそぶりを見せてまた前に出ました。
「ど、どうかしたのか?」
「手立てが立ちました。少し強引ですが、我慢してください。」
「?」
するとルーズはまた突然鈴音の近くまでバックし、そして彼女が驚いている間に抱え上げ、お姫様抱っこをしました。
「ちょっ!! ルーズ!!?」
「ご無礼をお許しください、お嬢様。行きますよ!」
「行くって!?・・・ って!!・・・」
困惑している鈴音を気にせずにルーズは方向転換をし、真後ろにあった窓枠に飛び乗ります。そしてそれを蹴り飛ばし、それと同時に身を翻して窓の上の出っ張り部分に足を乗せました。
「ワァーーーーーーーーー!!!」
鈴音がふと下を見ると、これでもなお自分を追いかけて窓の外に飛び出していく男子生徒達がそのまま学校から落ちていく姿を見つけ、すぐにルーズに伝えます。
「ルーズ! あのままじゃ!!」
「分かっています。ご安心を。」
そして彼は今足を乗せているそれを蹴り飛ばすと同時に鈴音を支えている手に印を組ませ、男子生徒達の落下速度を魔術を発生させて軽減させ、そのまま屋上の塀を跳び越えて入りました。
「ウオワッ!!」
鈴音は数秒間の事ながら普通の学校生活では絶対に味わえないこの事態に必死にしがみついて体感しました。そうして屋上でルーズの腕から降ろされると、すぐに塀から顔を覗かせて落ちていった人達の無事を確認します。
「彼らは!!?」
すると、その生徒達は安全な速度で二月のプールの中に落ちて行っていました。
バシャーン!!・・・ バシャーン!!・・・
「あわわわ・・・ いくら助けるためだからって、二月のプールに落として大丈夫なのか!?」
「ついでに目も覚めますし、大丈夫でしょう。」
『思いの他ドSだぞ。ウチの執事・・・』
ルーズがそう冷めた態度を取っていると、彼の耳に下のプールに落ちた人達の声が聞こえてきました。
「うう、さっむ!! あれ・・・ 俺、何してたっけ?」
聞こえて来た事に彼がどういうことか気になってしまうと、隣の鈴音が急に大声を出してきました。
「ルーズ!! 上見て!!!」
言われてルーズが彼女の指さす上方向を見ると、丁度男子生徒達の真上の空中に、かなりの量の砂のようなものが集まっていました。すると次の瞬間、それは屋上で見てくる二人に向かって一目散に近付いてきました。
「こっちに来る!!」
「ッン!!」
それが二人に触れるよりも少し前にルーズが先手を打ち、風渦膜に阻まれて近付くことが出来ませんでした。
「お嬢様には触れさせません!!」
さっきだった目で睨み付けるル-ズに負けじとその物体はしばらくそれはぶつかりながらもそれを止めようとしませんでしたが、それが不可能なのを悟ったのか離れていき、それは学校から去って行きました。一安心した鈴音は息を抜いて崩れ落ちます。
「フゥ~・・・ ビックリしたぞ・・・ ルーズ、今のは・・・」
「どうやら、既に仕込まれていたようですね。しかし何故離れて・・・」
ルーズは再びプールを見てまさかと感じます。そして鈴音に優しく声をかけました。
「お嬢様。」
「ん? 何だ?」
「も言うひと頑張り、お願いして良いでしょうか?」
「・・・?」
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その頃、グレシアは丁度信からの電話を受けていました。
「え! それホント!?」
「確証はないけど説明はつく。問題はそれをどう対処するかだが・・・」
「それは・・・」
すると後ろの瓜が突然自分のスマホをの画面を見せてきました。そこには鈴音からの着信、そしてそのメッセージが書かれていました。
「これって・・・」
無言で頷く瓜を見てグレシアはニッとします。
「ドクター、どうやら心配はないみたいよ。確認方法が出来たわ。」
「本当かい!?」
「ええ、多分そっちにも送られてるはずだから、電話切って確認して。こっちは捜索を続けるわ。」
グレシアは電話を切り、自分のスマホをスカートのポケットの中にしまうと、それと同時に彼女はハッと驚いた顔になります。彼女に見える視界が一瞬がらりと変わったのです。そこには電撃に苦しみ続けているフィフスが見えました。
「志歌さん?」
「どうやらこっちも見つけたようね。」
「えっ?」
グレシアは視界が戻ると、瓜の方を見て説明します。
「ガルーダがフィフスを見つけたの。これで場所は分かったわ。瓜、行くわよ!」
「ハイ!!」
グレシアは再び前を向き、箒に力を込めてガルーダの氷像獣が指す場所にへと全速力で向かっていきました。
<魔王国気まぐれ情報屋>
このルーズが起こした一件以降、バレンタインデーで敗者になった男子生徒達がプールに飛び込むという謎の風潮が広がったとか・・・
「僕は敗者じゃありませーーーーーーーーーーん!!!!」
ルーズ「何かおしなことになりました・・・」
鈴音「体冷やして風邪引かないか心配だぞ・・・」
グレシア「それ以前の問題でしょうが・・・」
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