表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
144/344

第141話 砂かけばばあ

 面と向かったフィフスとお婆さん。さっきカップルに向けた攻撃のことで、彼はお婆さんの正体に勘付いていました。しかしそれを言おうとした前に、先にお婆さんが口を開きます。


 「ほお、お前さんが噂に聞いてた魔王子の赤鬼さんかい? 確か人間にこき使われてる間抜けだとか言ってたかのぉ?」

 「いきなり酷い悪口だなあ。そっちだって同じ穴の狢だろ。」

 「ふふふ・・・ 今時の若いもんは威勢がいいのお。本当に痛いところを・・・ ゆうてくれるわい!!」


 お婆さんは会話の切ると同時に左手を前に出し、そこから砂を発生させてフィフスに向かって放ちました。彼はそれをよけ、確信に変わったお婆さんの正体を口にします。


 「この技、やっぱ『砂人(さじん)』か。」


 フィフスの言うことにお婆さんこと砂人は小さく笑って見せました。


 「いかにも・・・ まあこの世界では、『砂かけばばあ』とか呼ばれとるらしいがの。」


 フィフスはまた態勢を整えると、再び迫ってくる砂をよけ続けながら話を続けます。


 「しっかし、よくこんな経験の豊富そうな婆さんが、こんな秘密組織に入るなんて。その上、今の言葉からして人間のことが嫌いなんじゃねえのか?」


 その質問については、砂人が攻撃の手をとどめないままに答えます。


 「なぁに、歳を取ると物事に対して寛大になるもんなんじゃよ。たとえ憎い人間の下につくことになっても、後に我らの得があるならば乗るもんなんじゃ!!」

 「へえ、意外とやらしいことで・・・」


 すると砂人の攻撃が少しましになり、次第に収まりました。フィフスはここだと攻めに入りますが、今度はこれを砂塵が見事に回避し、さっきの話の続きをしゃべり出します。


 「じゃが、確かにいつまでも人間に縛られるのはごめんじゃな。だから・・・」


 砂人は両腕を前に組み、フィフスはそこに仕掛けようとしますが、その前に砂人が動きました。


 「この町のもん達はこれで終わりじゃ!!」

 「!?」


 そして砂人が横一直線に手を広げ、フィフスは咄嗟に身構えました。すると砂人を中心に集められた砂が竜巻状になって高速で広がりだし、近くにいたフィフスは思わず目を閉じてしまいました。


 凄まじい砂の量に吹き飛ばされるかとフィフスは身構えていましたが、しばらくしてその暴風音が収まり、彼が目を開けると、さっきの攻撃が嘘のような変化のない光景があり、そして砂人がその場から消えていました。


 「逃げたのか? チッ・・・ さっきのはこけおどしかよ。」


 こうなってはどうしようもないと彼はスマホで信に報告を入れ、自分は教室にへと戻っていきました。しかし内心では、一つ気になっていることがありました。それは、砂人が最後に行った捨て台詞です。


 『どうにもさっきの婆さんの言葉、ハッタリにしては自信があったっぽかったが・・・ なんかもやつくなぁ・・・』



____________________



 そうして授業時間ギリギリで教室に着いたフィフスは、その後特に何の異常もなく午前中を終えました。それから昼休みになると、彼はいつもの面々に説明しておこうと屋上に招集しました。


 「じゃあ、砂人のやろうとしてたことは分からずじまいって事?」


 グレシアからの遠慮のない言葉にフィフスはムッとしつつ反論します。


 「仕方ねえだろ、逃がしちまったんだしよ。俺達も足止めのためにこれ以上は休めないしな。」

 「てことは万事休すかよ・・・」

 「心配ない、既にユニーに追わせてある。ついでにドクターにも連絡した。あれだけ動きが派手なら、時期見つかるだろう。報告があるまでは、しばらく待ちだ。」


 魔人の出現とそれを取り逃がしたこともあり、どこか辛気臭い空気が流れ始めます。それを瓜は、皆とは別の理由で受けていました。


 『ど、どうしよう・・・ こんな状況の中じゃ・・・』


 皆には見えないように字瓶の後ろに隠していましたが、彼女はこの場に例の紙袋を持ってきていたのです。しかし聞いたことにより今渡すのは完全にマズいと思います。


 すると、そんな彼女の肩をポンッと叩く手を感じました。彼女がそっちを向くと、その当人の鈴音が耳元で囁いてきました。


 「どうしたんだマッチー? こう言うときこそチャンスだぞ。」

 「そ、そうでしょうか・・・」

 「そうだぞ! いいか、男っていうのはこういう落ち込んだ時に声をかけてくれた女子に『キュン』と来るもんなんだぞ!」

 「どこ情報ですか? それ・・・」

 「漫画に載ってた!!」


 自慢げにグーサインを向ける鈴音に瓜は冷や汗を流して困惑します。


 「まあどうにしろ、何かしに事には始まんないぞ。ここはガツンと! な!」

 「う、うぅ~・・・」


 瓜は少々鈴音に押されながらも、彼女の言葉にも一理あると思い、やってみることにしました。


 「それでアイツは・・・」

 「そう言ったって・・・」


 「あの、フィフスさん!」


 珍しく彼女が直接声をかけてきたことで、フィフスは話を止めて振り向きました。


 「ん、何だ?」

 「その・・・ こんなときに・・・ 迷惑かも・・・ しれない・・・ かも・・・」

 『頑張れマッチー!』


 後ろで鈴音が応援を送ります。それを受けながら、瓜は震えながら後ろに隠し持っていた紙袋を前に出しました。


 「その・・・ これ!!」


 瓜はとうとう紙袋を見せ、それにフィフスを始め他の皆、特に平次が驚いていました。


 「ま、町田さ!!!?・・・」

 「瓜・・・」


 フィフスはそれに無言になって手を差し伸べました。そして・・・












 バシッ!!・・・





 次の瞬間、フィフスはその伸ばした手で彼女の紙袋をはたき落としていました。それを見た残りの皆は次々にフィフスに詰め寄り始めました。


 「ちょっと何してんのよアンタ!!!」

 「最低だぞ小馬ッチ!!!」

 「オイこらてめえ!! 何やったか分かってんのか!!! 謝れ!! 絶対に許さんが町田さんに一万回土下座しろ!!!!」


 いきなり攻め立てられるフィフスですが、当の本人は・・・


 「待て待て!! 俺ちゃんt・・・ ちゃんとゴミ箱に捨ててこい! そんな生ゴミ!!」


 瓜はフィフスから来た言葉に一瞬目を丸くし、震えていた手を力をなくしてしまいました。




 これが、悲劇のバレンタインの始まりでした。

<魔王国気まぐれ情報屋>


魔人のモチーフ


・グレ男

 『雪の女王』より『少年カイ』



・砂人

 『舌切り雀』より『いじわる婆さん』




 よろしければ、『ブックマーク』、『評価』をよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ