第139話 モテるって辛い
その後、例のごとく軽く攻撃をかいくぐったフィフスは、逃走するために廊下に出て手に持っているチョコを食べ続けていました。
「朝から元気なもんだな~・・・ こっちはチョコの波に潰されそうになってるってのに・・・」
一箱分食べ終わり、一息をつくと、今度は目の前に・・・
「いた! 小馬君!!」
血相を変え、その手にそれぞれチョコを持っている女子生徒達がこちらを凝視していました。
「・・・ え?」
すると女子達はそこから女豹が肉を食べるかのようにフィフスに迫り始め、次々とチョコを胸にぶつけてきました。
「小馬君! これ受け取って!!」
「デパートで買ってきた高級品よ! 私のから食べて~!!」
「アタシは手作りよ! 一番美味しいから!!」
「ギャーーーーーーーーー!!! 潰されるーーーーーーーーー!!!」
その場は人がごった返し、なんとかもみくちゃになっている集団の足下からほふく前進で抜け出して静かに逃げました。そうして人気の無い所にまで来ることは出来ましたが、既に彼の体はバテバテです。
「何なんだよ・・・ ホンッと、どこ世界でも『女』は怖いもんだ・・・」
すると彼は右肩にポンッと手を置かれた感触を感じました。彼がビクッとしてまたあんな目に遭うのかと思うと、後ろから聞き慣れた特徴的な口調が聞こえて来ました。
「小馬ッチ、小馬ッチ!」
まさかとフィフスが振り返ると、そこには鈴音が一人立っていました。
「鈴音。」
「やっと見つけたぞ。ほら、こっち来て!」
フィフスは鈴音に右腕を引かれ、誰も入ってこないような空き教室に身を隠しました。そこで彼女からの説明を聞きます。
「『ばれんたいんでー』・・・ この世界にはそんなイベントがあったのか?」
疲れ切り、猫背になりながら彼は暗くそう言うと、鈴音はそれに同情の言葉をかけました。
「お、お疲れさんだぞ・・・」
「全く、向こうでも王子ってだけで大量の女から詰め寄られたが、日本でも大して変わらんな。」
「い、イケメンにはイケメンの苦労があるんだな。アハハ・・・」
ようやく落ち着いたフィフスは、次にあることに気が付き、その事を鈴音に聞きます。
「あれ、そういやルーズのやつはどうした? 一緒にいると思ったが。」
「ああ、アイツは今日休んだぞ。朝からお腹下しちゃってな・・・」
「アイツが腹痛なんて珍しいな。変な物でも食わせたか?」
「まさか! 今朝はまだ朝ご飯しか食べてないぞ。まぁ、チョコは渡したけど・・・」
鈴音が恥ずかしそうにそう言うと、フィフスは『っん?』と違和感を感じた。
「鈴音、そのチョコどこで手に入れた?」
「? サプライズしようと、昨日隠れて手作りしたぞ。」
「あぁ~・・・」
フィフスは以前ルーズから聞いた鈴音の家事力のことを思い出し、彼の腹痛の原因を察して自分の胸に手を当てました。
『哀れなり我が執事よ、せめて安らかに眠れ・・・』
「どうかしたか小馬ッチ?」
鈴音自身は無自覚のようで、一度首を傾げた後、今度は彼女の方から聞いて来ました。
「小馬ッチこそ、てっきりマッチーから聞いているものだと思ってたぞ。」
「いいや、アイツからは何も聞いてないぞ。今朝にいたっては、用事があるからって俺より早く家を出てたし。」
「ほお、そうなのか。」
『あれ、それってもしかして・・・』
鈴音は瓜が朝早くからしていることが大体予想できました。
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その噂されている彼女。寄り道をしていたためにいつもより遅れ、多少急ぎ足で学校に向かっていました。その手には、小さな紙袋が握られています。
「ハァ、ハァ・・・ 間に合うといいですが・・・」
彼女は少し前の、自分がこうなった経緯を思い浮かべました。
それはサードの家にて・・・
「はい、これね。」
瓜が家を早く出た理由。それは、サードに預けていたある物を取りに来るためでした。瓜は例のごとく筆談をし、サードは勉強したことでひらがななら理解できるようにはなっていました。
『すみません、預かって貰っちゃって・・・』
「いいのよぉ~、なんたってウリーちゃんからの頼みなんだし。そんなことより、最近どうなの?」
『え? 最近、とは?』
「ウリーちゃんの近況に決まってるじゃない! それで、どうなの!? ねえ!!」
「エッ!? あ・・・ ちょ・・・」
そのまま瓜は押し切られてしまい、サードの世間話に付き合わされ、現在にいたっているわけでした。
その後なんとか校門をくぐり、教室へと向かっていき、チャイムギリギリで到着しました。
「ハァ~・・・ 間に合いました~・・・」
彼女はこれにホッとし、一度自分の持つ紙袋を見て頬を少し赤らめました。
「・・・」
『受け取ってくれると・・・ いいのですが・・・』
瓜は内心どこか不安な気持ちを抱えて、走って教室にへと向かって行きました。
そんな彼女が特に意識もせず通り過ぎた物陰に、また一組の男女が甘い雰囲気を漂わせていました。どうやらカップルのようで、彼女の方が持っていたチョコレートを彼氏に渡そうとしています。
「あの、これ・・・」
「お、俺に!? ありがと・・・」
男子はそれを受け取って袋を開け、中にあったチョコレートを一口食べた。
「う、美味いよ!」
「ほ、ホント!? 嬉しい・・・」
カップルの間にある甘い空気がより一層深くなり、端から見たらなんとなくイラッとしそうな程でした。しかし、その空気は突如聞こえて来た一言にかき消されました。
「おお、若い子は盛んですなあ・・・」
カップルが同時に驚いて首を横に向けると、そこにはどこから来たのか分からないお婆さんが二人をニコニコとしながら見ていました。彼氏の方が、さいにその人に対応します。
「あの~お婆さん、ここ、学校なんだけど・・・ もしかして、道に迷った?」
するとお婆さんは朗らかな空気を流しながら答えました。
「おや~、親切にしてくれてありがとね~・・・ でも大丈夫よ。」
「えっ?」
「わしのご主人様がな、お前さんらを別れさせて欲しいって言っててな。すまんのお・・・」
するとお婆さんは両腕を前に出し、にこやかにしていた目を開けてニヤつきました。
「吹っ飛べ。」
次の瞬間、カップルの前方から大量の砂が突撃し、二人はそれに飲み込まれてしまいました。
「ウワッ!!」
「イヤァーーーーーーーーーーーーー!!」
前進を砂で包まれてしまった彼らに、お婆さんは声をかけました。
「ま、遠距離恋愛でもするんじゃな。」
そしてお婆さんは両腕を左右に広げ、それに共鳴するように二つの砂の固まりは学校外の遙か遠くへと吹っ飛ばされてしまいました。
残ったお婆さんは、また目を閉じて元の笑顔に戻ります。
「さてこれで一組か・・・ フゥ、中々骨が折れる仕事じゃわい。
・・・ 次は学校まるごとやってやろうかの。」
お婆さんはさっきまでとは違う不気味な笑顔を浮かべて、上の階にある教室の群を見ていました。
<魔王国気まぐれ情報屋>
・童和市
フィフス達が日本で住む町。近くにエデンコーポレーションの拠点の一つがあり、かなり発展している。
・御伽高等学校
フィフス達が日本で通っている学校。割と校則が緩く、髪の色、持ち物などにある程度の自由がある。魔人関係の話をするときは基本聞かれにくい屋上でしている。
フィフス「えらく今更な情報だな。おい・・・」
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