第138話 バレンタインデー
都市街の人が密集するスクランブル交差点。どうにも今日はカップルやおしどり夫婦の姿が多く見えます。
それを高層ビルの屋上から見ている人影が二つ。こちらも一組の男女でしたが、下にいる人達とは違い、その人達を楽しんでみている者とそれを監視している者でした。オークの件以来行方が分からなくなっていた、カオスとセレンの二人です。
「なんであなたまでついてくるんですか? 視線を感じると緊張してやりずらいですよ。」
カオスから早速来た文句にセレンは嫌そうな顔で返答しました。
「リーダーの指示なんだから拒否権なんてないわ。イヤなら、これまで魔人を無駄に死なせてきた自分を恨む事ね。」
セレンはこの自分で言ったその言葉を思い返して、一つため息をつきました。
「ハァ・・・ もどかしいものね。人間の支配する世界を滅ぼすためには魔人の兵力が必要。でもその兵力を集めるために魔人の生け贄が必要だなんて。」
そんな彼女の悲しそうな話に、カオスはいつも通りヘラヘラとしながら返します。
「そう都合よく何事もいかないって事ですよ。別案がいくつかあるとはいえ、これが一番効率的ですし・・・」
「効率的って、そもそも魔力持ちの人間を見定めれるのはアンタだけだけなのよ。その上せっかく見つけても、結局あの赤鬼達に倒されてるし。 挙げ句のはてに一度契約をかけたやつは、その後エデンとかいう変な組織に管理されてるし・・・
アンタが見つけた大当たりの女にいたっては、赤鬼の執事が身近についたようよ。」
「『ホワイト』からの情報ですか? 相変わらず仕事熱心なことで。」
するとカオスは自身の持っている黒い魔道書を広げ、彼女に見せました。その本の周りには、国門戦の時などに見えた邪気が湧き出ていました。
「でも、邪気の方は順調に集まってきています。最悪こっちがあればなんとかなります。」
「・・・ だといいけど。」
二人が会話を止めて少しすると、カオスが「オッ!」っと嬉しそうな声を上げました。
「見つけたの?」
「ハイ・・・ では早速行ってきま~す!!」
すると一瞬の内にカオスの姿がその場から消え去ってしまいました。
「全く、アイツのあの能力さえなければ、とっくにリーダーに始末されてるでしょうに・・・」
セレンは一人になったと見て、ポロッと一言愚痴をこぼしました。
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さて、先程も言ったとおり、今は二月の中旬。そしてカップルやおしどり夫婦が盛り上がる日といえば、皆さんもお気づきのことでしょう。
「そう、『バレンタインデー』!! それは学園において勝者と敗者が決定づけられる一大イベント!! 俺は今年こそその日に勝利を収める!!!」
「バカ騒ぎね。アホらし。」
「うっせえ!! お前にモテねえ男子の気持ちが分かってたまるか!!」
「顔近付けないで唾が飛ぶわ。」
コホン・・・ 少々お騒がせしました。ということで、今日は『バレンタインデー』、例外はありますが、女子がチョコレートをあげるイベントです。
しかし、この文化はあくまでこの世界であるイベントです。即ち、異世界から来て日が浅い二人の男は、このことを知らなかったのです。そのため、この日フィフスが登校して感じたのは・・・
「小馬く~ん! チョコ貰って~!!」
「ちょっと! 私の方が先よ!!」
「アタシのも受け取って~!!」
学校に着いてからのチョコ、チョコ、チョコの圧でした。
「何これ? なんなのこれ?」
本人は訳も分からず受け取り続け、教室に着く頃には既に両手に抱えてようやく持てるほどのありったけのチョコレートを貰っていました。
教室に先に来ていた平次。他の男子達とたわいもない会話で盛り上がっていました。
「なあ、お前らもう貰ったか?」
「おれ朝に母ちゃんから貰った。」
「それって実質ゼロじゃね?」
すると、教室の扉にふと目が行った平次があんぐりをしました。
「アガッ!!?・・・」
「ど、どうした石導!?」
平次が指を差し、残りの人もそれを見ると、同じようにあんぐりしてしまいました。そこには、顔が見えなくなるほど大量のチョコレートを抱えたフィフスが入ってきました。彼は自分の席に着き、ドッサリと鞄より先にチョコレートの山を机の上に置きました。
「フゥ・・・ 朝っぱらから疲れた~・・・」
既に来ていた他のクラスメイト達は、その山を見てざわついています。
「おい、何だあの量・・・」
「凄い数・・・」
「流石というか、当然というか・・・」
フィフスはそれから息をついて鞄を机横の引っかけにかけ、教科書を入れようと机の下のスペースを覗くと、そこにもギッシリとチョコが詰まっていました。
「あ~・・・」
フィフスは完全に参り、仕方なく時間が空いていたために貰ったチョコの一つを食べながら、見てヘンテコな顔をしていた平次の所に歩いて行きました。
「よぉ~メガネ、どうした? そんな古典的な漫画のような驚き方して・・・」
ビキッ!!・・・
「お~ま~え~・・・ 気付いていないのか~・・・?」
フィフスは自分の食べているチョコに目が行っている事に気が付き、それに何の気なしに答えました。
「なんだ、お前も欲しいのか? めちゃくちゃ数あるからいくつか持ってっていいぞ。」
「「「「「ああん!!!?」」」」」
彼の悪気のない言葉に、その場にいた男子全員が眉間にしわを寄せてフィフスのことを睨み付けました。
「ん、どうかしたか?」
「「「「「殺す!!!」」」」」
次の瞬間、その男達はフィフスに襲いかかってきました。
「え、ちょ、何! 怖いんですけど!! あ、アァーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!」
『バレンタインデー』。それは男女の仲がより深まるイベント。そして何人もの人がそれに嫉妬を起こす日でもあります。今回はそのせいで、フィフスが被害に遭うお話しです。
<魔王国気まぐれ情報屋>
フィフスの机に置かれたチョコレートはこの後全て美味しくいただきました。
フィフス「オロロロロロロロロロ・・・・・・」
流石にチョコの食べ過ぎで参ったようではありましたが・・・
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