第137話 またね、ママ
そこから少し時間が経ち、エデンの部隊によってグレシアも救助され、そのまま流れるように信のいるラボにへと向かって行くことになりました。
そして彼女は信の元につくと、今回の件の責任をとっていきなり彼に向かって頭を下げます。
「ごめんなさい!」
「事情は五郎君から聞いてるよ。頭を上げてくれ。」
信からの言葉を受けて、グレシアは言われた通りに頭を上げます。そこに信はこう付け加えました。
「幸い、その少年のやったことのほとんどは五郎君がすぐに処理してくれている。電波塔の件についてはしばらく時間はいるだろうが、それさえあれば火消しも済むだろう。それより、今僕が君に聞きたいのは・・・」
「ダァ!!」
「この少年は何でまだいるんだい?」
信の目線の先には、散々遊んだはずなのに全く消滅する気配のないグレ男がはしゃいでいました。それにグレシアは一言、
「アタシも分かりません・・・」
と答えました。するとグレ男は彼女の足下にくっついてきました。
「ダァ! ママ!!」
元気よく彼は抱っこをせがんできます。そこに信はふとこう言ってきました。
「にしても無茶したもんだね~・・・ 君はこういう行為はやらない物かと思っていたけど。」
「何というか、気が付いたら体が勝手に動いてたのよ・・・ どうにかしてこの子を助けたいと思って・・・」
グレシアが下を見ると、変わらず何度も抱っこをせがんでくるグレ男が見えます。見かねた彼女は自分の膝を曲げて彼に背丈を合わせて両手を伸ばし、抱え上げました。
グレ男はキャッキャと嬉しそうにし、それを見たグレシアも自然とその口をにんまりさせてしまいます。
「フフッ、不思議な形だけど、やっぱ『母性』ってやつなのかな~・・・」
そのとき、一瞬だけグレ男が首を振ったことに二人は気が付きませんでした。
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ラボ内の別室にてエデンコーポレーション名物の当たり外れのあるコーヒーを飲みながら人一服していた一行。一口コーヒーを飲んだ鈴音が話し始めます。
「う~ん・・・ なんでグレ男は消えなかっただろうな? マッチーに言われた通りにやったのに・・・」
その質問には、魔人二人が交代して言います。
「推測だが、さっきも言ったとおりグレシアの魔力量は俺らより・・・ というか、大抵の魔人よりも多いんでな。」
「そこから分身で生まれたグレ男も、それだけ魔力量が多く、一度や二度はしゃいだところで、体を構成している魔力は無くなりきらないんでしょうね・・・」
それを聞いて、瓜はふとフィフスにこう返してみました。
『その・・・ どうして志歌さんの魔力量は、フィフスさん達より多いんですか?』
すると途端にフィフスとルーズの表情が険しくなり、それを見た瓜はさっきのことを撤回しようとします。
『あ! いあ、言いたくなければ! 別に・・・』
しかし彼女のその遠慮を受けても、フィフスは静かにこう言いました。
「アイツは・・・ 目の前で仲間が殺されるのを、見て来たからな・・・」
「それって!!・・・」
「魔人の魔力量は、幼少期の経験によって左右される。特に悪い思い出のあるやつは、それだけ魔力を生み出してんだ。イヤな話だがな・・・
もしかしたらアイツがグレ男を助けようとしたのも、せっかく出来た仲間を死なせたくなかったからかもな。」
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そうしてグレ男をあやしているグレシアを目の前で見て、信は少し考え事をしていました。
『親子の愛情か・・・ 何というか、懐かしいな。』
信はそのとき、自分の幼少期のことを思い出していました。幼い頃、まだ生きていた両親に甘えていた日のことを・・・
グレ男は静かな部屋になってさっきより更に眠気を感じて、本格的にウトウトとし始めてしまいました。すると・・・
ピカッ!!
次の瞬間、しんみりしていた空気の中に、突然大きな変化が起こりました。抱きかかえられていた彼の体が、突然光り出したのです。
「な、何!?」
「まさか、消えようとしているのか!?」
二人は驚き、人はすぐにフィフス隊を部屋の中に呼び込みました。扉の開く音が響き、彼らが走って部屋に入ると、グレシアが既に涙目になっていました。
「これは・・・」
『もう雪になってしまうって事でしょうか!?』
グレシアは光り輝くグレ男を直視し、悲しい声を上げます。
「待って・・・ 消えないで・・・」
「マ~マ・・・」
グレシアの呼びかけもむなしく、グレ男の語りは刻一刻と消えていっていました。
「せっかく出来た、仲間なのに・・・」
グレシアが一粒涙をこぼしてしまいます。するとグレ男は小さな声でこう彼女に告げました。
「マ~マ・・・ お休み・・・ またね。」
それを言い終わると、とうとう彼の体は光の固まりに変わり、そしてグレシアのお腹に入り込んでしまいました。
「・・・ グレ男・・・」
グレシアは悲しそうにお腹を抱えて崩れ落ちてしまいました。そこにフィフスが近付きます。
「グレシア・・・」
「せっかく、仲間が出来たと・・・ 思ったのに・・・」
落ち込みきっている彼女に、フィフスが優しく口を開いてこう言いました。
「あいつ、『またね』って言ってたじゃねえか。」
「・・・ エッ?」
顔を上げるグレシアに、フィフスは続けてこう言います。
「それってさ、いつかまた会おうって事じゃねえの? 知らんけど。」
自分で行っていて恥ずかしくなったのか、フィフスは顔の向きを横にして素っ気なく誤魔化して言いました。グレシアはそれを聞いて、同じようにツンと答えてしまいます。
「・・・ 何よ、ハッキリしないわね、バカッ!!」
「バカで結構で~す。」
フィフスはそっぽ向いたままそう言って話を切りました。
しかし、彼女の顔はやはり沈んだままです。それを見て周りの皆はなんて声をかけたらいいのか分からなくなりました。
翌日・・・
「なあオイ! グレシア!!」
「グレ姉! どういうことこれ!?」
「あの子は消えたんじゃなかったんか姐さん!!?」
焦って聞いてくる二人と一匹の体は所々が氷で固められています。その理由は彼女の胸の中に飛び込んできました
「ダァ!! ママ、あ~そ~ぼ!!」
「はいはい。今度は周りに迷惑かけないでね。わかった?」
「うん。」
これ以降、グレ男は彼の気分次第でグレシアのお腹から出てくるようになったようです。
<魔王国気まぐれ情報屋>
次回からは長編を再び再開します。今度はこれまでと違いギャグ多めでいこうと思いますので、面白ければ嬉しいです。
どんな題材かは既に過去の回で何度かヒントを出しているので、ぜひ探してみてください。
これからもこの作品をよろしくお願いします。
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