第133話 グレ男
朝っぱらの校庭、そこで平次の放った衝撃の一言に、フィフス達はそこに風が吹き抜けてもなお動きが止まっています。数分して、ようやく鈴音が話しました。
「え? ちょっと待って・・・ その子が? シカシカの・・・」
「子供だ。」
もう一度平次はハッキリとそう言いました。それに対して一周回って動けるようになったフィフスが反論しました。
「ハハハ! 何を言っているんだいジョージ!?」
「誰がジョージだ。」
「事態が飲み込めなくて思考が混乱しているぞ。」
「あのね、カトリーヌが子供なんて産むわけないじゃないか。なあマイケル。」
「僕は岡見です。あまりのことに相当頭が逝ってるようで・・・」
するとフィフスはその調子のままに突拍子の無いことを言い出しました。
「そ、そうか!! アイツはいつまで経っても胸が平らなままだったから、それに比例して妊娠しても全く変わらないように見えてたんだな~!! ハーーーハッハーーー!!!」
グサッ!!・・・
直後、フィフスは突然後頭部に飛んできた氷柱に刺さり、パタンと血を流して倒れてしまいました。
『フィフスさん!!?』
「誰の何が平らですって?」
フィフスが倒れた直後にそう声が聞こえ、残りの全員がその向きを見ると、調子の悪かったはずのグレシアが睨み付ける目付きで歩いてきていました。
「シカシカ!!」
「お、お風邪は・・・」
「ああ、デトックス効果ってやつかもね。なんだか倒れる前よりも調子がいいわ。」
皆が倒れていると思っていた彼女の登場に焦ります。すると丁度周りに来ていたクラスメイト達が、久しぶりにやって来たグレシアに駆け寄っていきました。
「奥山さん!!」
「体調回復したの!?」
「無理してない?」
流石はクラスの人気者、あっという間に人だかりが出来、一番近くにいた平次は下敷きにされてしまいました。
「アガガガガガ!!・・・」
次々と寄ってくるクラスメイトにグレシア自身の対策に困ってしまっていると、クラスメイトの内の一人がとうとう少年の方に目が向いてしまい、当然ながらそれについて聞いて来ます。
「あれ? 奥山さん、その子は?」
「何か変な髪色ね。」
皆がそれでマズいと思っていると、攻撃から立ち上がったフィフスがその集団に割って入りました。そしてこう言います。
「そいつは・・・ グレ・・・ 奥山の弟だ。」
「ちょ! 小馬君、後頭部から血が出てるけど・・・」
「それは気にするな。」
フィフスは頭に手を当てて無理矢理出血を抑えます。そうして何人かのクラスメイト達(グレシアへのポイントを稼ぎたい男子)が少年に詰め寄ります。
「へ~、奥山さんの弟。」
「確かに似ています。奥山さんのかわいさがこっちにもにじみ出て・・・」
「ああ・・ ああああ・・・」
「僕、名前は?」
「な ま え?」
少年は聞き慣れない単語に首を傾げています。対していつものメンバーは、二人を覗いて集まりました。
「そういや、名前どうすんだ。」
「どうするも何も、いきなり現れた少年に名前付けろって無茶ぶりが過ぎますよ。」
「かといって、このままだと色々マズいぞ。何か・・・ そうだ! シカシカから連想するのはどうだ?」
「「連想?」」
「奥山・・・ 志歌・・・ グレシア・・・」
「そ、そうです! グレ男!!」
瓜は咄嗟に思い付いた名を大声で叫んでしまいました。
「「「グレ男!?」」」
「瓜、お前いくら何でもセンスなさ過ぎだろ・・・」
瓜の声を聞いた生徒達は、また口々に少年に話しかけます。
「へ~ グレ男君って言うんだ。」
「グレ男君! 何かあったらいつでもお兄さんに相談しなさい!!」
「ナッ! お前ポイント稼ごうとすんな!!」
「てめえこそ前に出すぎなんだよ!! グレ君がビビるだろ!!」
「何だとてめーーー!!」
知らぬ間にグレシアファンの男子生徒達による取っ組み合いが始まってしまい、グレシアはその隙にグレ男を連れて人混みの渦から逃げ出し、フィフス達もそれに続いてその場から離れました。
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避難もかねて、いつも集まる屋上に来た一行。グレ男は平次と遊び、その間に残りの人はグレシアを中心にして話しています。
「で、あの坊主は何だ? 本当にお前の子供なのか?」
「・・・言いようによってはそうなのかも。体が急に寒くなったと思ったらお腹が光り出して、気が付いたらあんなのになってたわ。」
「勢いに任せて誰かとやっちまったのか?」
「酒に酔ったアンタじゃ無いんだから、アタシはまだまだ清らかよ!」
会話しながらも何も分からなかった二人に、瓜がこう言いました。
『もしかして、『雪ん子』でしょうか?』
「ん? 瓜、今なんて言った?」
すると瓜は高速の指捌きでスマホのキーボードを打ち込み、周りの全員に同じメールを送信しました。
『『雪ん子』 雪女が連れてくる子供です。一説にはその妖分けた力を分けた分身体で、父親は存在しないとか。』
「つまりあれはグレシアからあふれ出た魔力の固まりって事か。」
そのとき、フィフスにあることが思い浮かんできました。
「もしや・・・ あの時のオーク戦でコイツが久々にフルパワーを出したから・・・」
「枷が外れて飛び出て来たのかもしれませんね。」
『ま、まあ、雪女は冬の妖怪と言われてましたし、元々力が上がってたのでは無いでしょうか。』
魔人達がそう仮説を立てていると、後ろから鈴音が聞いて来ます。
「それで、結局どうすればいいのだ?」
『一説には、雪ん子はいっぱい遊んだ後、辺りに雪を降らせながらどこかに消えていくと聞きましたが・・・』
「それであの時散々『あ~そ~ぼ』とかいってたのか。納得した。てかお前、やけに詳しいな。」
『童話の関連で、小さい頃からこういうのはよく調べてたんです。エヘヘ・・・』
「エヘヘって・・・」
瓜は少し恥ずかしそうにして頬を赤らめます。
「じゃあそうと決まったら、準備をせねば。今は時間も時間ですし、放課後辺りにゆっくりと・・・」
そう言いかけたルーズの目の先には、棒立ちになった平次だけが映っていました。
「あれ? メガネ君。グレ男はどこへ?」
「その名前定着させるのか!?」
フィフスがそう突っ込むのも聞かず、ルーズは平次に近付き,その肩に手を当てました。すると何故か彼は反射的に手を離してしまいます。
「冷たっ!!・・・ まさか・・・」
ルーズが平次の前面を見ると、既に冷気を受けて顔を青ざめて立ったまま固まっていました。それともう一つルーズは周りを見てあることに気が付き、彼はフィフス達から見える位置に立って呼びかけてきました。
「王子・・・」
「何だ?」
「・・・わんぱく少年が、野に放たれてしまったようです・・・」
全員それを聞いて目を大きく丸くさせ、それが充血するほど無言の驚きを見せました。
<魔王国気まぐれ情報屋>
・雪ん子
異世界に存在する雪人がその力の上がる時に生み出される分身隊。基本的に子供の姿をしており、やんちゃに遊び回ってしばらく時が経つと雪を降らせながらどこかに消えていく存在でもある。
しかしグレシアから生まれたグレ男は彼女の諸事情によって普通の雪ん子より魔力量が多く、魔人の戦士であるフィフス立ちですら手こずってしまう程です。
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