第132話 あ~そ~ぼ!
その日、泥棒騒動が終わってソックを首根っこを掴みながら自宅に帰った平次。ドタバタに疲れ、あくびをかいて玄関の扉を開けます。
「フワァ~・・・ ただいま~・・・ って、オイ!!」
平次とソックが自宅に入って最初に見たのは、不自然に開いたグレシアの部屋の扉と、その近くの壁際で目を回して座り込んでいる美照がいました。
「美照!!」
「嬢ちゃん!!」
二人はすぐに彼女に駆け寄り、平次が軽く頬を叩くと、彼女は目を覚ましました。
「うぅ~・・・ あれ、お兄、帰ってたの?」
「そんなことより、何があった!?」
平次の真剣な声に美照は正気に戻り、ハッとなりました。
「そうだ!! お兄、グレ姉が!!」
平次は美照から話を聞き、開いていた扉からグレシアの部屋に入りました。するとそこは壁や床、挙げ句の果て天井までもが凍り付き、ベッドの上で彼女が気を失って倒れていました。
「何だよこれ!?」
立ち上がった美照やソックも部屋に入り、すぐにグレシアに近付きました。
「グレ姉! グレ姉大丈夫!!?」
するとグレシアも皆の大きな声に目を覚まし、弱々しくこんなことを言いました。
「あの子を・・・ あの子を・・・ 止め・・・ て・・・」
「あの子?」
すると平次が後ろからトコトコとした足音が聞こえて来ました。直後に緊張が走って体が震え、兄妹二人は硬い動きで後ろへ振り返ります。すると・・・
「ギャーーーーーーーーー!!!」
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翌日、学校への登校中のグレシアへの心配をしている瓜と、考え事をしているフィフス。しかし彼は自分のことは二の次に瓜に聞いて来ました。
「心配か? グレシアのこと。」
『フィフスさんは?』
「今回は流石に初めての例だからなあ・・・ ま、帰りに果物でも持って行くか。」
『はい、そうですね。』
そう会話をしていると、二人の後ろから足音が聞こえ、次の瞬間、フィフスはその足音の主にぶつかってしまいました。
「ウゴッ!!・・・ 何だ!?」
フィフスが驚いて振り返ると、そこには丁度五歳児くらいの少年が、大きな布を羽織って立っていました。
「あ~そ~ぼ!!」
「一体何だ!?」
フィフスは若干不機嫌になりながらまた振り返ると、さっきよりも目線が下に下がったことで、声の正体である少年がいました。彼に続いて瓜も子供を見つけ、二人でしゃがんで目線を合わせます。
『子供、ですね?』
「迷子か? オイ坊主、お前親は?」
フィフスの質問に対し、少年は何度も同じ台詞を繰り返して言って答えてくれません。これに瓜がどうすればと汗を流して困ると、少年の顔を観察していたフィフスがあることに気が付きました。
「・・・何か、コイツの髪色どっかで見たことあるような・・・」
その少年の髪は、この世界の人間にしては明るい色、というか外国人でも見ないような綺麗な水色でした。
「まあいいや。坊主、兄ちゃん達はこれから行くとこがあるんだ。交番に連れてってやるから、遊ぶのは勘弁してくれ。」
すると少年が頬をプ~っと膨らまし、分かりやすく不機嫌になりました。それでもフィフスは立ち上がって少年を交番へと連れて行こうとすると・・・
「じゃ、行くとする・・・」
バァーーーーーーーーー!!
カチカチカチカチ・・・
少年は突然口から冷気を噴き出し、フィフスが差し出した手を軽く凍らせてしまいました。
「「・・・ え?」」
二人が一瞬起った事態に止まってしまうと、少年はまた口から冷気を噴き出してきました。
「おいおい!!」
今度は直前に気が付いたフィフスによって瓜も引っ張られてバックステップをし、何も凍ることはありませんでした。
『あ、あの子はまさか・・・』
「雪人だろうな。髪色で気付くべきだった・・・」
そこからも少年は容赦無く冷気を放ち初め、二人はその猪突猛進ぶりに押され、そこから逃げるのに走り出しました。
『何でこんなことにーーーーーーーーー!!!』
「おそらくさっき遊びを断ったからだろう! 多分アイツの気が済むまで続くぞこれ!!」
そこから二人は雪人から逃げ回る鬼ごっこが始まってしまいました。
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その頃、いつもの合流地点にフィフス達がいなかったために先に学校に来ていたルーズと鈴音。
「う~ん・・・ やっぱもうちょっと待っといた方が良かったか?」
「それでお嬢様が遅刻なされては元も子もありませんよ。」
「ううむ・・・」
ルーズにそう言われて鈴音は黙ってしまいました。するとそこに、近付いてくる男が一人、平次です。
「よ、よお・・・」
「ギャ!!」
平次の姿を見て二人はビックリしました。その体は各地に氷が張り付き、本人もかなり寒がっている様子です。
「お前らだけか。町田さんと赤鬼は?」
「その前に・・・」
「一体何があったのだ!!?」
「これについては二人が合流してからで・・・」
「お、噂をすれば・・・」
ルーズはその聴覚で、聞き慣れていたフィフスの声を聞き取りました。しかしそれによってあることに気が付きます。
「あれ? この感じ、何かマズいような気が・・・」
ルーズがそう感じていると、校門の正面方向からフィフスと瓜がとんでもないダッシュでこっちに向かってくる様子が見えました。
「「ダァーーーーーーーーー!!!」」
「な、何が起こって!!?」
「後ろに霧のようなものが見えますが・・・」
「それって・・・ まさか・・・」
平次は何か予想がつき、再び酷く寒気を感じました。
「メガネ君!?」
「お前ら、今すぐ逃げろ。」
「「エッ?」」
しかし時既に遅く、二人はその冷気を引き連れて学校に飛び込んでしまい、鈴音はルーズがすかさず抱えて回避しましたが、平次の方は完全に巻き込まれてしまいました。
「ギャーーーーーーーーー!!! じゃねえわボケ!!!」
平次は凍らされる前に咄嗟にその原因の頭をポカッとげんこつを落とし、その動きを止めました。それにより、ひたすらここまで走り続けていた二人がようやく止まることが出来ました。
「ガァーー! 朝っぱらから無駄に疲れた~・・・」
『バテバテです~・・・』
それに対し更に体に氷の数を増やした平次。再びふてくされている少年の着ている布の端を掴み、持ち上げました。
「おら、ようやく捕まえたぞ!」
「だ~! だぁーー!!」
しれっと執事におんぶされて避難していた鈴音が降ろされると、早速気になったことを彼に聞きました。
「あれ? メガネさん、その子のこと知ってんの?」
「アンタまでも・・・ まあいいや。コイツは・・・」
次に平次が言った事に、面々は揃って冷気を受けていないのに一瞬凍り付いてしまいました。
「・・・グレシアの子供だ。」
「「「「・ ・ ・ ハァーーーーーーーーー!!!?」」」」
<魔王国気まぐれ情報屋>
フィフス「ん? てかお前、さっきしれっと俺と並走してなかったか?」
瓜『そ、そうなんですか? 無我夢中だったので気が付きませんでした・・・』
創作作品においての人間の身体能力はときに魔人をも越えてしまう。その事に突っ込んではいけない・・・
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