第127話 泥棒捜し
そうしてフィフス達が鈴音から聞いたことを要約すると、次のようになります。
始まりは今朝のこと。鈴音の友達の一人が部活の朝練を終え、ホームルームの前に汗を拭って着替えておこうと更衣室に向かいました。しかし彼女は扉の前で、部屋の中から聞こえてくる奇っ怪な笑い声が聞こえて来たのです。彼女は不安を抱えながら更衣室の扉を開きます。
ギギッ! ギギィ~・・・!!
彼女がそこに入って初めに目にしたのは、皮のロングコートを着込んでシルクハットを被った大男が、不敵な笑みを浮かべながら彼女の換えの下着を掴んでいる姿でした。
「二~ッシッシ!!・・・」
彼女は異様な光景に一瞬硬直しましたが、すぐに我に返って男を捕まえようとしました。しかし男はすぐにその場から動き、彼女の動きは追い付かずに窓から逃げられてしまいました。
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鈴音の説明を受けながらその事件の現場に到着したフィフス達一行。
「それで、ここが事件現場だって言ってたぞ。」
普通に説明し終わった鈴音に、フィフスが一度不自然なくらいににこやかな笑顔になって彼女にこう言いました。
「うん、鈴音ちゃん。何かちょっとした怪奇現象みたいに言ってるけどね。それってよ~するに・・・
・・・ただの下着泥棒じゃねーーーーーーーーーか!!! こんな事件に魔人への疑いをかけんじゃねえ!!!」
フィフスは途端に怒り顔になって鈴音に突っ込みを入れます。しかし彼女は彼の怒り声に圧倒されながらもすぐに弁解しました。
「待って待って!! 問題はここからだぞ!!」
「「「ここから?」」」
鈴音の言っていることが気になった男性陣は揃って聞き返します。それを受けて彼女は改めて説明します。
「その子が言っていたことだと、男の動き方は彼女の目にも止まらぬ速さだったそうで、気付いた頃には既に窓枠から外に逃げ出したとこだったらしくてな。」
「じゃ何か? 今回の契約者は女の下着を欲しているって言いたいのかよ。」
「同じ契約魔人としてなんとなく悲しくなりますね。それ・・・」
フィフスとルーズがむなしさに顔を暗くしていると、鈴音もマズい事を言ってしまったのかと後悔させました。すると魔人二人に同情しながらもふと思い立った平次が口を挟みました。
「それで、盗まれた数は一つだったのか?」
「う~ん・・・ 後から分かったことだと盗まれたのは朝練に来ていた部員全員だそうだぞ。」
それを聞いて更に魔人二人の顔が沈んでいきます。
「魔人に連続でこんなことさせるって・・・ 下手な襲撃より残酷な仕打ちだなぁ・・・」
「同感です・・・」
『ああぁ・・・ 二人がどんどん沈んでいってしまってます・・・』
瓜が二人を見て心配していると、男子の中で唯一普通の状態だった平次もため息をしました。
「ハァ~・・・ 女子の下着が目的なら、フィフスとルーズだと調査しにくいぞ。こんなときに頼りになりそうなグレシアが倒れてるとは・・・」
「何だよメガネ・・・ まさかお前・・・」
「僕達にも変態になれと言うんですか・・・」
自分に言って真に受けている二人を見て平次も冷や汗を流して反応に困ってしまいました。
『やばいな・・・ 今のコイツらには何を言ってもネガティブに捉えちまいそうだ・・・』
「ううん、二人がこんなんじゃ仕方ないぞ! マッチー、内と一緒にいこ。」
「わ、私・・・ ですか?」
「ほら行くぞ! 男子は頼りにならないし。」
鈴音はスッカリモノクロになってしまっているフィフスとルーズを放っておき、瓜の腕を引っ張って更衣室の中に入っていきました。更衣室内は意外と整頓されています。それを見回しながら、鈴音はふと話し始めました。
「いや~・・・ まさか、クラスメイトに魔人がいるなんて、つい最近まで思わなかったぞ。」
「アハハ・・・ それは・・・ いろ、いろと・・・」
「小馬ッチから事情は聞いてるぞ。友達が欲しかったって。」
「は、恥ずか・・・ しい・・・」
「そんなことないぞ。友達を作るのって、簡単なようで凄く難しいからな。でも・・・」
鈴音はクルッと瓜の方に体を向けてにこやかにこんなことを言いました。
「こんなふうに、いつの間にか出来てることもある! そうして考えるとヘンテコなもんだぞ。」
「鈴音さん・・・」
瓜は鈴音がしれっと自分を『友達』だと言った事に感慨を受けていました。すると鈴音はまた何かの手がかりがないかと注意深く見てみます。
一通り二人が見たところ、周囲の壁や床などには全く傷が無く、ピンポイントで下着を入れていた袋や鞄だけ破られていました。
「なんか器用な奴だなぁ・・・」
するとそれを見ていた瓜があることに気が付きました。
「これって!」
「? どうかしたか?」
「まるで・・・ 猫の爪・・・ みたい。」
鈴音が瓜の言うことを聞いて改めて破られた袋や鞄を見てみると、確かに全てまるで猫の爪で引っかかれたかのような引っかかれ後が見つかりました。
「本当だ! じゃあ・・・ この前ルーズから聞いた『化け猫』って奴の仕業か?」
「それは・・・ なんとも・・・」
瓜は鈴音に詰め寄られると自信をなくして言葉を失ってしまいました。
そしてその様子を窓の外から覗かれていたことに気付いていなかった二人。その相手は、彼女達が探している下着泥棒でした。
「あれが噂の契約者達か・・・」
するとその場から飛び去っていきました。
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そうして結局手がかりはそれ以上見つからなかった一行は、トボトボと帰路につきました。相変わらず契約魔人二人は真っ白になっています。
・日正家
「まだ落ち込んでいるのか!!」
「そりゃあ・・・ 自分はやりたくも無いことをやらされた上、それで周りから白い目で見られると思うと・・・」
・町田家
「同じ存在としてはかなり来るんだよ・・・ 下手したら自分もそうなってたんじゃ無いかってな・・・」
『そう言われましても、困ります・・・』
するとそれぞれが家に帰り、干していた洗濯物を取り込もうとしました。すると・・・
「あれ?」
「どうかしたか、瓜?」
「無い・・・」
「何が無いんですか、お嬢様?」
すると二人の口からとんでもないことが言われてしまいました。
『私の下着がありません!!』
「ウチの下着が無いんだぞ!!」
「「・ ・ ・ あぁ?」」
契約者のその言葉を聞いて、真っ白になっていた魔人二人は一気にその形相を変えました。
<魔王国気まぐれ情報屋>
・その頃のグレシア
自室のベッドにくるまって雪女のくせに寒がっている
グレシア「ウウウ・・・ アタシ『雪人』なのに・・・ なんだかお腹が痛いわ・・・」
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