第121話 人狼の顔
「ル、ルーズ?」
「遅れてすみません、お嬢様。」
ルーズはそのまま手を離すと同時に左足を素早く上げて男を蹴り飛ばし、近くの家の塀に軽くぶつけてしまいました。男は腹にダメージを受けて痛がって吐きながら、彼の怒声をかけます。
「ガハッ!!・・・ カハッ!!・・・ オイてめえ・・・ 何もんだ!!?」
「この御方の執事です。」
「ど、どうしてここが?」
解放されながらも息を荒くしている鈴音がオロオロしながら聞いて来たことにルーズは彼女に向かって優しい顔を見せながら答えました。
「お嬢様、僕は『人狼』ですよ。人間より遙かに鼻も耳も敏感ですし、おまけに夜目も利きます。捜索なんて朝飯前ですよ。」
「そ、そうなのか・・・」
二人が会話している間に、鈴音を襲った男はそこから再びナイフを構え、尚も鈴音を睨み付けて襲いかかりました。
「ガァ!! 死ね、ベルリズム!!!」
しかしそれもまたルーズの返り討ちに遭いました。
「いい加減にしてください・・・ まだお嬢様を苦しめるつもりですか!?」
「うるせえ!! これは復讐だ!! 俺を苦しめたコイツに! それ以上の苦しみを味あわせんだよ・・・」
男の言い分に、鈴音は訳の分からない様子です。しかしルーズはそれにこう言いました。
「・・・ たかがしょうもない逆恨みでですか?」
「・・・なんだと?」
そこからルーズはこんなことを説明し始めました。
「貴方の調べはついています。迷惑系配信者『ドドドンパ』、人気配信者に無理矢理なコラボを詰め寄り、迷惑行為をかけて再生数を稼いでいたようですね。」
男ことドドドンパは彼にそう言われて反論します。
「だから何だってんだよ! 世の中はこういう動画をほしがってる奴もいんだ!! 俺は視聴者のために動いてんだよ。そこの女と違ってな・・・」
彼は鈴音に指を差し、更に言い分を続けます。
「そこの女はな・・・ クズなんだよ! 親のすねをかじって動画撮ってるくせに、顔が良いってだけで人気になりやがって・・・
俺は家族も捨てて、命張って動画撮ってんだよ!! だからせこい手使って人気になっているそのアマに天罰を下してやったんだよ!!!」
それを全て聞いた鈴音は、両親が襲われた理由を知ってしまったことで、絶望のあまりにその瞳を乾かさせて足を震えさせ、立ち上がっていたその場に力無く崩れ落ちてしまいました。
「そんなことで・・・ パパや・・・ ママが・・・」
彼女のそんな姿を見ても、ドドドンパは一切悪びれることもせず未だに罵倒を続けます。
「当たり前だろ!! クソビッチに協力した奴らもクソなんだよ!! しばきですんだだけありがたく思えって・・・」
バゴッ!!!
「グハッ!!!・・・」
ドドドンパがその文句を言い終える前に、無言のルーズによる鉄拳を顔に思いっ切り食らいました。
「イ、痛ぇ!!! 痛ぇ!!!」
「さっきの蹴りは多少手を抜いていました。反省する予知があるのか見定めるためだったんですが・・・」
ドドドンパは鼻を曲げて歯が折れた顔になって立ち上がり、怒りに文句を言います。
「てめえ・・・ 何度も殴りやがって!!」
「そんな傷しばらくすれば治るでしょう・・・ お嬢様やそのご家族が受けた苦しみは・・・
・・・こんなもの軽く越えている!!!」
すると怒り心頭のルーズの顔が途端に形を変えだし、それが整うと、そこには人ではなくオオカミの顔がありました。
「な、なんだ・・・ 何なんだお前!!? あ、アァーーーーー!!」
ドドドンパは目の前に異形の存在が現れたことで膝を震えだし、その場から一目散に逃げ出そうとしました。しかしルーズがそれを許すわけがなく、素早い動きで間合いに近づいて腕を掴んでみせました。
「アァ・・・ アァーーーーー!!!」
ドドドンパはヤケになってナイフを振り回しましが、それも彼のオオカミ化した手によって掴まれ、軽々と握り潰されてしまいました。
「ヒッ! ヒィーーーーーーー!!!」
「いいか! お前がやっていたことはくだらん逆恨みだ。そんなふざけた理由で、彼女やたくさんの人を傷つけた罪は重い!!」
声のトーンが低くなり、口調の代わったル-ズにドドドンパは完全に怯えています。
「ば、化け物が・・・」
「俺には・・・ お前の方が化け物に見えるぞ、ゴミが!!!」
ルーズは己の片手でドドドンパの首を掴み上げ、もう一方の拳を後ろに引きました。そしてそれを勢い良く相手の顔に振り出しました。
「アァーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!」
ドドドンパが断末魔を上げて怯え上がりますが、ルーズはその拳を彼の顔の直前で止めました。
「・・・この世界のルールに免じて、今回は見逃してやる。だが、次同じ事をするならば・・・
・・・その顔、跡形もなく砕くから覚えておけ!!!」
「アガッ!! あぁぁ・・・」
ドドドンパはルーズへの恐怖のあまり、そのままの状態で泡を吹いて気を失ってしまいました。するとルーズは男を離し、顔や腕を元の姿に戻して鈴音の方を振り返りました。
「申し訳ありません、お嬢様・・・ 嫌なものを見せてしまいました。」
「・・・」
『話もしない。僕がもっと速く来て上げれれば・・・』
ルーズが悔やみながら拳を握りしめると、鈴音は小さな声でこんなことを言い出しました。
「ウチが・・・ 全部悪いのかな・・・」
それを聞いたルーズはすぐに反論しました。
「何を言っているのですか!! あれはあの男の口からの出任せで・・・」
「でも!! ウチが動画なんて撮ってたからパパやママはああなったんでしょ!!!」
「お嬢様・・・」
鈴音はそこからも自分への卑下を止めようとしません。
「そうだ・・・ ウチが軽い気持ちでそんなことやらなかったら・・・ いや、そもそもウチなんかがいなかったら・・・ 二人は・・・ ウチさえいなければ!!!」
その鈴音の卑下は、唐突にルーズに抱きしめられたことのによって驚き、止まってしまいました。
「ル、ルーズ!!?」
「自分がいなければなんて・・・ 言わないでください・・・ それは、自分がより辛くなるだけです。」
彼の優しい声を受けて、鈴音は目から大粒の涙が再びあふれ出し、ルーズはそんな彼女の頭をポンポンと手で触れながら慰めていました。
「泣いてください・・・ 辛いときは、泣いていいんです・・・」
「アァ~・・・!! アァァ~・・・!!!」
暗くなった道の中で、彼女の悲痛な泣き声が響き渡りました。
<魔王国気まぐれ情報屋>
・ルーズの変化
ルーズ達『人狼』は、一定以上の疲労や身体を狼化させると気が高ぶり、性格も少々荒っぽくなってしまいます。
魔王国篇で時折見せていた怒り顔は、これによるものです。
よろしければ、『ブックマーク』、『評価』をよろしくお願いします。