第120話 魔の手は終わらない
そうして飛び出すように家を出て来てしまった鈴音は、どこかに寄り道することもなく吸い込まれるかのように彼女は両親の入院する病院に流れ着きました。
病院の職員に聞いてみたところ、まだお見舞いは出来る時間帯だったので面会の許可を貰い、そのまま両親の病室に行きました。
そこには当然ながら父も母も、未だに目が覚めず呼吸器を付けて眠っていました。分かってはいたものの、今の彼女にはそれがとても酷に感じます。
「・・・ そうだよな。そんな急に人が目が覚ますなんて、あるわけ・・・ 無いよな・・・」
彼女は自分の心を中では分かっていながらも、やるせない思いを抱えて触れていた手すりを強く握りしめました。しかし彼女はせめてもとその手を緩め、眠り続けている二人に、優しい声で語りかけました。
「パパ、ママ・・・ あのね・・・ あれから色々あったんだけど、とりあえず、ウチは元気にしているよ! 今は家に家政婦さん・・・ というか、執事さん? がやって来て、ありがたいことに、家事も全てやってくれてるんだ。情けない事にウチ、全然そういうのが出来なくて・・・ アハハ・・・」
すると彼女の手元にいつの間にか、どこから出て来たのか分からない水滴が一粒ついていました。これは何だろうと思っていると、次の瞬間にすぐにその答えは分かりました。なぜなら、当の自分の目元からあふれ出て、ポロポロこぼれ落ちていたからでした。
「あれ・・・ いつの間に・・・ ウチ・・・」
彼女は今は眠っている状態とはいえ、こんな自分の涙目の顔を両親に見せようとはとても思えず、その病室から足早に立ち去ってしまいました。その途中にたまたますれ違った看護師が、善意で気軽に声をかけてきてくれます。
「あれ? もうお帰りですか?」
しかしまた暗い気分になっている今の彼女にはそんな言葉など耳に入らず、一言の会話をすることもなくそこから先のエレベーターに乗ってその扉を閉めました。下の階に降りていくエレベーターに静かな空間が生まれます。そして・・・
「ウゥ・・・ ウゥ~・・・ アァアーーーーーーーーー!!!」
その狭い一人の空間の中で、鈴音はとうとう泣き崩れてしまいました。
「パパ!! ママァ!! 何で!! 何でなの!!・・・
アアアーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!」
そうして彼女がエレベーターを出る頃には、周りに見られたくない一心であふれ続ける涙を無理矢理抑え、目元を赤くしながら病院を出て行きました。
「ハハッ・・・ ホント、色々ありすぎだぞ・・・」
全然気は晴れきってはいませんでしたが、これ以上さまよっているとルーズが心配するだろうと思った鈴音は、一度その場で伸びをしてから家に向かって真っ直ぐ歩き始めました。
そうしてしばらく時が過ぎ、彼女が帰りしなにある公園を通り過ぎようとしたときでした。
バサッ!!
「ッン!?・・・」
次の瞬間、鈴音は突然公園の奥にある木の陰から飛び出した男によって取り押さえられてしまったのです。突然のことに事態を飲み込めない彼女は、詰まりながら声を出しました。
「な、何!?・・・」
対する男は、どこか嬉しそうに息を荒げながら興奮して口も開きます。
「ハァ・・・ ハァ・・・ ようやく追い詰めだぞ! ベルリズム!!」
「だ、誰!!?」
それは黒いジャンパーを着て、ボサボサのひげを生やした男でした。何故か彼は鈴音に対して怒った表情を見せています。
「誰なの、あなた・・・」
「うるせえ!! 手間をかけさせやがって!! お前のせいで!! 俺は・・・」
「一体何なの!!? イヤ!!」
鈴音は訳が分からないまま男の手を振り払い逃げました。しかし運が悪く、咄嗟に逃げた先には行き止まりがあり、挙げ句の果てには周りに人もいませんでした。
「そんな・・・」
「よかった・・・ 今からでもコラボする気があるんだな?」
鈴音は男の言うことに引っかかりました。
「コラボ!? 何のことだ!!?」
「俺は動画配信者として様々な奴とコラボしてきた。皆親切にしてくれたってのにお前は・・・」
男はポケットからナイフを取りだし、彼女にその刃を向けてきます。
「ヒッ!!・・・」
「安心しろ殺しはしねえ・・・ ちょぉっと言うことを聞いて貰いたいだけだから・・・」
男はナイフを突き付け、それを目の前にして彼女の怯える顔を楽しそうに見ています。
「ここまでやってくれたんだ・・・ どうせなら派手な血しぶきで再生数取らせて貰うぜ!! タイトルはそうだな・・・ 『人気配信者ベルリズムの恐怖の素顔』ってか!!」
「や、やめて・・・」
「うるせえ!!」
男はそのままナイフを前に据え、狂った勢いのままに突撃してきました。鈴音ももうダメかと恐怖のあまりに目をつぶり、現実逃避をしようとします。
『誰か! 助けて!!』
すると・・・
バシッ!!
「ガッ!!? な、何だ!!?」
「・・・ その汚い手で、お嬢様に触るな!!」
いつの間にかナイフを持っていた男の腕は、別の誰かによって掴まれていました。鈴音が目を開けると、そこには家にいるときとは明らかに表情の違うルーズがいました。
「ル、ルーズ?」
「遅れてすみません、お嬢様。」
<魔王国気まぐれ情報屋>
フィフス「この作品の悪役って変態がヤケに多くねえか?」
作者『・・・ 確かに!!』
書いているウチに気が付いた誤算・・・
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