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第119話 完璧執事

 翌朝、ようやく騒動が終わって一落ち着きしたいにも関わらず、被害者である鈴音以外は休みを手を打ってもらえずに学校へ登校していました。


 「「はぁ~・・・」」


 同時にため息をついて頭を机に伏せている二人を見て、平次が呟きます。


 「なんか、随分と疲れてるな。」

 「許可が下りなかったのよ・・・ 学生の本分は勉強でしょうって・・・」

 『意外とブラックなんですね・・・ エデンコーポレーション。』


 すると瓜はふと一つ気になり、フィフスに聞いてみました。


 『あの、鈴音さんは・・・』

 「休み。流石にあのドクターも心的疲労は許すらしい・・・」


 彼の言葉を聞き、一気に空気が重くなります。


 「やっぱり、かなりきてるのか?」

 「これが原因になったからか、動画更新も止まってるわ。」

 「「「「・・・」」」」


 少しの間四人全員が黙り込みました。


 「心の整理がつくまでそっとしておいた方がいいだろ。今はアイツに任せる。」

 『アイツ?』


 瓜はその事を聞いていなかったので、キョトンとしました。


____________________



 そして当の『アイツ』ことルーズ。彼が来てからの鈴音の生活は見違えるほどに変わっていました。


 朝起きればタグがついていないのがおかしいほど綺麗に畳まれて肌心地も良い服が用意され、三食の食事は全て一般家庭の材料費とは思えないほどの豪華料理がテーブルに並ばれていました。


 「さあ、召し上がってください。」

 「い、いただきます・・・」


 更に当然のごとく家の中は常にピカピカ、炭に指を当ててもホコリの一つもつかないほどでした。そして何より鈴音が疲れたのは、出かけるたびに彼が後ろをついてくることでした。


 信の指示で心の整理がつくまで学校は休めるようにして貰っていたので登校はありませんでしたが、それでも買い物のたびに知り合って間もない相手についてこられると流石に気が休まりません。そこで彼女はあるタイミングにふと聞いてみました。


 「なあ、ルーズ・・・さん?」

 「呼び捨てで結構です。」

 「じゃあルーズ、なんで毎度毎度ウチの後ろを付いて回るのだ? これじゃ落ち着かないぞ。」


 そのため息と共に出た文句にルーズは丁寧に答えます。


 「申し訳ありませんお嬢様。しかし、主人の三を守は執事の役目です。これはなにとぞ・・・」

 「ウチはル-ズの主人じゃないぞ。だからその『お嬢様』呼びも止めてくれ!」


 ルーズはそう言われたことに戸惑います。


 「しかし、僕は執事として・・・」

 「ウチは執事なんて求めてないぞ!!」


 家に帰ってからも口論は続きました。手を洗って片付けをすると、ルーズが早速キッチンに向かっていきます。


 「では、お夕飯の支度を・・・」


 しかし、鈴音は彼の行く手を防ぎました。


 「今日はウチがやる!!」


 ルーズは鈴音が突然言った事に戸惑います。


 「エッ!? しかし・・・」

 「いいの! ウチだってこのぐらい・・・」


 しかしルーズがどこか嫌な予感をしていると、その後キッチンから黒い煙が彼のいるリビングに流れ込んできました。そしてその次に鈴音の声が聞こえてきます。


 「ギャーーーー!!!」

 「お嬢様!?」


 ルーズが駆けつけると、見事に料理を焦がしている彼女が慌てふためいているよう様子がありました。


 「こ、これは一体? 何を作ろうと・・・」

 「い、いや・・・ 買ってきた材料でオムライスをと・・・」


 彼は冷や汗をかきながら火を止めたフライパンの上を見ます。するとそこには、元が卵だったとは思えないほどの禍々しい物体がこべりついていました。


 「う~む、これは・・・」

 「た、たまたま!! たまたま今日は失敗しただけだから!!」

 「そ、そうですか? 疲れているのかもしれないですし、今日は休んでください。夕食は作っておきますので・・・」


 すると鈴音が膨れた顔をし、今度は・・・


 「ム~・・・ だったら掃除よ!!」

 「エッ!?」


 そこからの鈴音はとにかく自分でやろうと家事をし始めます。しかし・・・


 掃除機を使えばカーペットを吸い込み、洗濯を畳めばどうやったらこうなるのかと言えるほどぐちゃぐちゃになり、挙げ句の果て食器洗いでも次々と皿を割っていく始末でした。


 「うぅぅ・・・ なんで・・・」

 『まさかここまで家事が出来ないとは・・・ 何というか、逆に凄いですね・・・』


 するとルーズは全て上手くいかないことに涙目になっている鈴音の隣に立ち、しれっと彼女のミスの累々を瞬く間に元に戻してしまいました。流石に割れた皿は元に戻せないので、安全にまとめて袋に詰めて部屋の端に置きます。


 異世界にきてたった一日とは思えないほど機敏に動けている彼の動きに鈴音は完全に圧倒されてしまいました。


 少し時間がたつと、ボロボロに散らかっていた部屋は彼の手によって綺麗に元に戻っていました。


 「さてと、一通り片付きましたし、改めてお食事としますか。」


 そうしてルーズがキッチンに向かい、手際よく料理をしている姿を見て、鈴音は、元気だった母親の姿を重ね合わせて見てしまいました。


 「・・・」


 次に彼女は後ろにあったソファを見ます。するとそこには仕事で疲れた父が座るいつもの光景が思い浮かびました。


 「パパ・・・ ママ・・・」


 突然頭にこみ上げてくるものを感じた彼女は、その場でやるせない思いになってしまいました。そして彼女は、暗い声でルーズにこう言いました。


 「ごめん、夕飯はテーブルに置いといて・・・」

 「鈴音様?」


 すると彼が振り向いた頃にはリビングから鈴音の姿は消え、代わりに家の扉が閉まる音が聞こえてきました。




 そうしていきなり外に飛び出してしまった鈴音。日も沈んでいき、暗くなってきた道をトボトボ歩いて行く彼女に、物陰から見ている影がありました。


 「ベルリズム・・・」

<魔王国気まぐれ情報屋>


・この世界にやって来たルーズが大きく驚いていること


 現代人の生活を強く支える電化製品達


ルーズ「異世界にいた頃より明らかに家事が楽になりました!! ※泣」



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