第118話 歯がゆい決着
所変わってセレンと戦闘中のサード。属性適には有利なはずにも関わらず、意外にも相手もしぶとく耐えていました。膠着状態が続きます。
「へえ、見てくれ通りにふにゃふにゃしてると思ったけど、案外やるじゃない。」
「伊達に組織の幹部はやってるわけじゃないの。それに、仕掛けは整ったしね。」
そう言われてサードは初めて、自分がいつの間にか大粒のすいて金囲まれていたことに気が付きました。
『しまった!!・・・』
「ここで雷鳴術を使えば、そっちもタダじゃすまないわよ。」
そしてサードが動けなくなったところにセレンがとどめに術の印をしようとした瞬間でした。
「そこまでだ。」
そこにサードの聞き覚えのない声が聞こえていました。それにつられ、セレンは動きを止める。すると彼女の後ろにあった窓の外が突然輝き、その次の瞬間に割れてしまいました。
そしてその窓の外から入ってきた男は、全身に甲冑を着込み、カオスとはまた違った仮面で顔を隠した長身の男でした。
「何のよう、フログ・・・」
「貴方の部下は既に敗北した。これ以上の戦闘は無意味だ。」
「チッ、分かったわ・・・」
セレンは状況を察して途端に顔色を変え、印の形を変えて周囲の水滴を霧に変えてしまいました。かろうじてまだ姿が見えたときにサードは声を上げます。
「ナッ! 勝負ほっぽり出して逃げるつもり!?」
「こっちだって暇じゃないの。続きはまた今度ね、海賊姫。」
セレンはそう言い残し、霧の中を去って行きました。霧が晴れ、一人残ったサードはかなり苛ついています。
「ウゥ~・・・ もやつく! 消化不良だわこんなの。」
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セレンがいなくなったことで、監視室にいた職員達が目が覚め、自分たちが何をしていたのか覚えておらず、頭をかいたり辺りを無造作に見回しています。
ラボの方でこれを見た信も、ようやく作業していた両手を止めることが出来ました。
「フゥ~・・・ ようやく終わったかぁ~・・・ 疲れた~!!」
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更にサイドが変わって弁とカオス。カオスの方は眉間の近くに銃が突き付けられている状態ながら、密かに窓の外から聞こえて来た音に感付いていました。
『オッと・・・ さっきの音はフログの雷鳴術だな。アイツが来たって事は、オークは全滅したってことか・・・』
すると彼はさっきまで降参の意思を示して手を上げていた両手を下ろしました。そして弱気な様子を全く見せず、同じ調子のまま唐突に弁に向かってこう言い出しました。
「んじゃ、ことは失敗しちゃったみたいだし、僕もそろそろ帰るわ・・・」
あまりに突拍子のない台詞に弁は帰って驚きます。
「何を言っているのですか!? 貴方は身柄は我らが・・・」
「ざ~んねん・・・ ま、君の事は覚えておくよ。お爺ちゃん。」
すると弁が瞬きする一瞬の間にカオスはそこから影も形も消えて無くなってしまいました。
「!? どこへ・・・」
焦る彼は周りを見渡しますが、しばらくしても結局彼を見つけることは出来ませんでした。
「クッ・・・ 逃げられてしまいましたか・・・」
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その直後のオーク戦を終わらせた魔人三人組と経義。フィフスのスマホが鳴り出し、画面を見ると信からの電話でした。
「もしもし、何だ?」
「事は全て終わったようだよ。少々歯がゆいがね。」
「そうか・・・」
電話を切ると、そこにグレシアが詰め寄ってきました。
「誰から?」
「ドクター、残りの敵は逃げたらしい。」
「!? なら追わないと!」
「当てのないのを捜索したって意味が無いだろ。オークは全滅した。今回はこれで終わりだ。」
「・・・ そう。分かったわ。」
グレシアは悔しそうな顔をしながらも納得しました。それを離れた所からルーズと経義が見ています。
「何話してんだアイツら。」
「どうやら今回の件は終わったようですね。」
「聞こえるのか!?」
「人狼ですので。」
「・・・」
経義は納得したようなしてないような顔で、一応彼のことを信じてスーツを解除しました。
時間はあっという間に過ぎるというもので、エデンの事後処理部隊が駆けつけて研究所の修繕をしてる間に夕方になってしまい、そこでようやく事情徴収を受け終わった戦士一行は解放されました。
「あ~・・・ 疲れた。」
「同じ質問何回もしてきてたわね。」
「修業時代よりかはましでしょう。」
「お前らの修業時代ってどんなレベルだったんだ?」
研究所を出ると、出入り口に鈴音が待っていました。
「・・・ 終わったのか?」
「そんなことより俺に言う事があるだろ。お前、また魔道書を使ったな。」
「それは・・・」
鈴音は後ろめたそうに目線をそらします。しかしフィフスも彼女の事情が分かっていたので、それ以上は攻めれませんでした。そこで話の話題を変えます。
「ハァ~・・・ 修理の終わった家に戻るそうだな。」
「う、うん・・・」
「このこと怒らない代わりに今から俺の言うことは聞け。」
彼のそのときの悪い目付きで笑い、圧のかかった言い回しに鈴音は身が震えます。大して隣のグレシアは呆れて見ていました。
「な、何だぞ!!?」
「と言うわけで、今日から日正家に住まわせていただきます、『ルーズ』です。以後よろしくお願いします、鈴音お嬢様。」
「よ、よろしく・・・ だぞ・・・」
てことでルーズは日正家の居候になりました。
<魔王国気まぐれ情報屋>
・フィフス達の修行の一環
一人に対して十人で質問し、それを正確に答えられるまで続ける。
あまりのキツさにノイローゼになりかけた弟子も多かったという・・・
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