第10話 親子のお正月
前回、桃太は自室に入ってから、一切フィフスと会わずに翌日を迎えた。そしてぎこちないままで迎えた新年。そのままの雰囲気で黙々とおせちを食べる三人。
「・・・」
「・・・」
二人のテレパシー内・・・
『おい、いつまで俺たちはこの重っ苦しい状況の中にいなきゃいけねえんだ?』
『スミマセン、おそらくお父さんはまだフィフスさんのことを疑っているんだと思います。前からどこか用心深いところがありまして・・・』
『つったって、俺はここ以外行く当てなんてねえし、第一俺はお前から離れられないんだぞ。ここはどうにかして、このおやっさんと和解するしか選択肢はねえんだ。』
『しかし、どうやって? 見たところ大分警戒されてるみたいですが。』
『そうは思うんだが、このおっさん、本当にこの世界の人間なのか? 圧が尋常じゃ無いんだが・・・』
「なあ、瓜ちゃん。」
「は、ハイ!?」
急に話しかけてきたことに驚いた瓜。そのことに疑問を抱いた桃太でしたが、特に気にすることも無く話を進めました。
「こないだ、一緒に出かけに行こうって言ったの、覚えてるかな?」
「え? あ、はい!! 覚えてます。」
『白々しいな。』
『最近忙しかったので・・・』
「良かったら、初詣ついでにこれからどうだい?」
唐突のこととはいえ、最近ろくなイベントばかりだった瓜にとっては嬉しいことだった。
「ハイ、良いですね。では、小馬くんも・・・」
「いや、俺は遠慮する。」
「エッ・・・ それは・・・」
フィフスが言ったことに驚き、それは彼がかわいそうと思った瓜だったが、次のフィフスの返答は意外なものだった。
「いいですよ、たまには親子水入らずで楽しんできてくださいな。」
「しかし・・・」
「瓜、彼もこう言っているんだし、な・・・」
「う~む、しかし・・・」
そこから二人はバレないようにまたテレパシーを送り合った。
『フィフスさん、あなたは確か私から五十メートル以上離れられないのでは無いんですか?』
『それについても安心しろ。手なら考えてるよ。それに・・・』
『それに?』
『いや、何でも無い。』
結局その場の瓜は二人に無理矢理納められ、桃太と親子二人で行くことになった。
「それじゃあ、」
「いってきます。」
「うっす、楽しんできて下せエ。」
フィフスはその場で手を振り、二人を送っていった。瓜は彼に対しまだ申し訳なさを感じたが、そのまま駅へ向かっていき、ショッピングモールについた。
「・・・」
「小馬くんの事かい? 彼の親切を無下にするのも失礼だろう。さ、行こう。」
「はい・・・」
そうして親子二人は店に入っていった。少し後ろの人影に気づかずに。
「さて、俺も俺で行くとするか。」
そこには留守番をしているはずのフィフスがいつもとは違う格好でいた。
『俺はこの馬鹿でかい建物の事を何一つ知らねえからな。瓜に質問しまくって水を差すのもなんだし、それでおやっさんに俺の正体がバレたらしゃれになんねえ。』
ということで二人に隠れてついてきたフィフス。この状態はまごう事なき<ストーカー>だが、本人はその事には気付いてないようだ。
こうして始まった外出。二人が店に入ると、フィフスも気付かれないように即座に入っていった。
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<服屋>
「う~ん、どれにしましょうか・・・」
たくさん並んでいる服に、どれを買うか瓜は悩んでいた。フィフスはコッソリそのシャツ類を覗いてみると、
『うん、軽く予想はしていたが・・・』
そこにあったTシャツ。
「古今東西」 「夜は焼き肉」 「つ~ら~れ~た~」 などの文字Tの嵐だった。
『ダッセーーーーーーーーーーーーー!!! それはいくら何でもねえよお前・・・』
そんな娘の様子に父が駆け寄る。
「う~む、瓜、これは・・・」
『そうだおやっさん、文句言え、頼みの綱はあんたしかいねえっす。』
しかし・・・
「どれも良いじゃないか。せっかくだし買ってやろう。」
「本当ですか!!」
『おやっさーーーーーーーーーーーーーーん!!!!』
フィフスの期待もむなしく、その後、瓜の両手には大量の服の入った袋を持ち、ウキウキのなっていた。
『クッソ、盲点だった。センスのなさは父譲りだったのか。』
フィフスは後悔しながら親指を噛んだ。そう思っている彼は知らずのうちに子供服エリアにいた。
「ママ、あのお兄ちゃん・・・」
「シッ!! 見ちゃダメよ!!」
<電気屋>
「そろそろドライヤー替え時だったな。」
「どれにしましょうか・・・」
二人が家電ゾーンを見ている中、フィフスはまた知らずのうちに玩具売り場にきて商品を見ていた。とうの本人はそれがおもちゃとわかっていないようだが・・・
「ほ~、この世界ではえらく武器が進化してんだな~。鎧を着るのもベルトだけで出来るのか・・・」
「ね~まま、あのお兄ちゃんずっと遊んでる。」
「むこうにいきましょ、坊や。」
<ゲームセンター>
そこを通り過ぎようとした瓜だったが、ふと一台のクレーンゲームが目に入り、足を止めた。
『・・・ このぬいぐるみ、かわいい!!』
何か察したのか、桃太は聞いた。
「それ、欲しいのかい?」
瓜が無言でコクコクと頷くと、桃太は機械にお金を入れてやり始めた。
一方その頃のフィフス、別のクレーンゲーム機の前で、中にあるアニメキャラのフィギュアを見ていた。
「ほうほう、こっちの世界じゃ、人形の形もえらく複雑になってんだなあ。 ・・・ッン?」
そのフィフスの隣で、若い男性が丁度ゲームをクリヤし、美少女フィギュアを手に入れていた。
「フフフ、捕らわれてて寂しかったね。ハニー。」
そう言って去って行った男を見て、フィフスはこう思った。
『・・・ この世界では人形と結婚できんのか・・・』
衝撃にフィフスは少しの間固まっていた。
<ランチ>
丁度お昼時になり、フードコートにて、それぞれ食べたいものを運んで席に座る二人。その少し離れた所で座っているフィフス。金が無いため給水所の水を利用。
『いいとこだな~、こんなに手軽に水が飲めるとは・・・』
大分ほのぼのとしていたフィフス。 それに対して向こうの二人は腹を割って話をしていた。
「それで、瓜ちゃん、最近は調子はどうだい?」
「どう? とは・・・」
「前に言ってたお友達とは、その後どうなんだい?」
瓜はドキッとなった。桃太には、その友達とは既に絶交したこと。現在は友達はフィフス一人しかいないということを言ってなかったのだ。その頃のフィフス、こちらの事には一切気付かず、こんな事を考えていた。
『つ~か、こういうのって友人とするもんじゃねえのか? ま、あいつには無理か。』
「あ~、いや、それは・・・」
「もう別れたんだろう。」
ギクッ!!
「な、なぜ・・・」
「久しぶりとはいえ、娘の変わりように気付かない程酷い父親ではないよ。」
「私の、変わりよう?」
桃太はフッと笑いながら続けた。
「ああ、前よりも生き生きとしているよ。」
「生き生きと?」
『前に帰ったときは、どうにも暗い顔をしていたけど、今はどこか楽しそうだな。それもこれも彼のおかげかな?』
どうにも瓜には自覚が無いようで、頭を悩まして混乱していたが、そこに桃太は声を上げた。
「そこにいるんだろ、いい加減出て来たらどうだい? 」
その言葉を聞いてドキッとしたフィフスだが、このまま黙り込んでいても意味が無いと思い、大人しく姿を現した。
「いつから気付いてたんですかい? おやっさん。」
「割と最初から、隠密をするならもう少しうまく気配を消した方が良いよ。」
『フィフスさん!?』
桃太は瓜の反応を面白がっていたが、再びフィフスの方を見て、落ち着いた様子のままで続けた。
「よくは知らないが、君がうちの子にいろいろしてくれたんだろう。父として、礼を言わせてくれ。」
そう言い、頭を下げる桃太に二人は驚いた。特にフィフスは内心汗まみれになっていた。
『やばい、なんか知らんけど、これ見られたら殺されそうな気がする・・・』
「かかか、顔を上げてくださいっすおやっさん。礼を言われるようなことはして無いっすよ。」
「いや、唐突のこととはいえ、行き場の無い子にこんな苦労をさせてしまい、申し訳なく思う。」
「おやっさん・・・」
その様子を見て心底驚いているフィフスに対し、瓜は心にチクッと痛みが走った。事情は違うとはいえ、自分は異世界でのフィフスの暮らしを理不尽に奪ってしまったということに。
『・・・そうですよね、 彼には、向こうにたくさんの友達もいれば、家族もいるんです。
・・・私の身勝手で、許されることじゃない・・・』
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その後、食事を済ませた三人は、駅まできた。ここから桃太はまた仕事に戻るようだ。
「すまないね、また忙しくなりそうだ。」
「いいんです、それよりお仕事頑張ってきてください。」
少しの間沈黙が流れた。そして、桃太はフィフスに近づき、その手を握った。
「ど、どうしたんすか!?」
「小馬くん、私のいない間、娘を頼んだよ。」
「!!」
そして桃太は手を離し、手を振りながら階段を降りていった。
「じゃあ、体に気をつけて。」
「はい。」
「おやっさんこそ、お気をつけて~」
そうして桃太の姿は見えなくなった。そこにフィフスはボソッと呟いた。
「いい父親だな。」
「エッ?」
「ここまで娘の様子を心配する親、中々いねえだろ。」
『そ、そうなんですかね・・・』
苦笑いをしている瓜を横目にフィフスが一つ気になった。
『にしてもあのおっさん、しれっと気配を隠した俺の居場所を軽く見つけやがった。瓜は天然のようだが、こいつの親父、一体何もんだ?』
瓜が会話のためにフィフスの方を見ると、いつの間にか彼の服の袖にメモが貼り付けられていた。
『あの、フィフスさん。袖に何かがついてますよ。』
「あ、いつの間に・・・」
言われて気づいたフィフスはそれを取り、広げて見た。
「どれどれ、さてはさっきの感謝の続きか?」
しかしそこに書いていたのは・・・
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家賃月50,000円、きっちり払ってね。
払ってなかったら家から出てもらうからよろしく。
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・・・ ブチッ!!
瓜は隣のフィフスが突然怒りのオーラが噴き出しているのが目に見えた。
『フィ、フィフスさん!?』
「お~の~れ~・・・
あのクソおっさんがーーーーーーーーーーーーーー!!!」
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その少し後のこと、桃太は職場に戻っていた。そこには、一人の男が机の前に座って、パソコンを素早く操作をしていた。
「お、帰ってきたんですね。先輩。」
「正月も帰らずに仕事してたのか。熱心なものだな。」
「別に僕は予定はないので、で、どうでした? 突っついた感想は・・・」
「得にはない。ただ、まだ信用はしきれないな・・・
・・・ あの鬼の少年。」
それを聞き、座っている男は椅子の向きを桃太の方に向けて言った。
「それじゃあ、このまま監視は継続って事で。よろしいですね?」
「ああ、できるだけ穏便にしろ。娘を『こと』に巻き込みたくはないからな。」
「了解です。」
そうして会話を終えると、桃太は更に奥の方へと進んでいった。
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家に帰った二人。フィフスはふと思い立ったことを事を瓜に質問した。
「そ~いや、昨日言ってた写真って、何なんだ?」
瓜もそれを聞いてハッとなった。
『すみません。今持ってきますね。』
瓜はアルバムにしまっていたそれを、しわがつかないよう丁寧に取りだし、フィフスの前に持ってきた。
「おお、これは・・・」
それは、桃太と小さい瓜、そしてもう一人の大人の女性が映っていた。
『家族写真なんです。私が小さい頃に、遊園地に行きまして・・・ そのときに。』
写真に映っていた三人は、皆満面の笑みで幸せそうにしていた。それを見せる今の瓜もとても幸せそうな表情をしている。
「・・・ てことは、この人が・・・」
フィフスは写真の女性に指を指す。
『ハイ! お母さんです。この頃は元気でしたので・・・』
フィフスはその顔を見て少し笑うと、それから続いた瓜の思い出話を、彼も身を寄せながら聞いていた。
<魔王国気まぐれ情報屋>
・キャラクター紹介
{町田 瓜}
種族 人間
年齢 16歳
誕生日 7月7日
身長 155cm
性格 人見知り 天然
家族構成 父 母(故人)
契約魔人 フィフス
好きな物・こと 服集め(父以外に共感者がいない)
童話
伝記
苦手な物・こと いきなり距離が近い人
意地悪な人
好きなタイプ や、優しい人です・・・
将来の夢 特になし
実は・・・ 料理はフィフスの方が上手い
モチーフ 『マッチ売りの少女』より少女
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