第109話 魔革隊幹部『セレン』
エデン第三科学研究所監視室。そこに、二対一で睨み合っていました。
「・・・ 少々侮ってたわ。異名付きは伊達じゃないようね・・・」
「人魚がいることはオークが言ってたからな。対策してないわけないだろ。」
「あ~もう、やっぱバカは部下にしない方が良かったわね!!」
彼女は面倒くさそうにその場で帽子を外して頭をかきました。その髪は長く、海のような綺麗な青紫色をしていました。
「いい、私が言うまで妨害を怠ってはダメよ!」
「「「ハイ・・・」」」
彼女はそう最後に指示を言い、二人の方向に振り返って顔が見えるまでの距離に近付きました。そんな彼女には変装のためか仮面はなく、素顔が見えます。その顔はまさに『人魚姫』とでも言えそうな美しい容姿をしていましたが、それと同時にどこか冷たい、キツい目付きをしている女性でした。
「で、お前も契約魔人か?」
「そんなわけないでしょ!! 私は人間に支配されるのが絶対にイヤなの!!」
フィフスが言ったことが彼女の気に障ったのか、その目から更に殺気が強まりました。
「てことは、カオスと同じ・・・」
「あんな新米と一緒にしないで!! 私は魔革隊創設時からのメンバーなんだから!!」
二人は彼女の言った一言が気になりました。
「魔革隊? 『カオスがこの前言っていたのはこのことか!!』」
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「僕の、いや、僕達の目的は一つ・・・」
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「徒党を組んでいた内の一人か。」
彼女は自分の胸を指で差し、大きめの声で自己紹介をしました。
「私は『魔革隊』幹部、『セレン』!! 我らが魔人の世を作り出すため、この場でお前達を消させて貰うわ!!」
するとセレンは口に魔力を溜め、国門戦の魚人の時とは比べものにならない速さで水砲を撃ち出してきました。しかし直線方向に飛んでいったことで二人後ろ斜めに下がることですぐにかわしました。
「速ぇな!」
「でもよけれないほどじゃないわ。」
部屋の入り口が開いたのでセレンはそこに移動します。それによって二人に挟まれた形になっていますが、彼女は威勢を崩さず、目の前にてを構えを取りました。すると彼女と二人の間の空中に水が発生し、細い槍のような形に固められました。
「<水流術 小糠>」
するとその槍は勢い良くフィフス達に飛び込んできました。狭い廊下にそれを高速で撃たれたために二人はかわしきれず、お互い顔にかすってしまいました。
『チッ! 狭い場所に水流術か・・・』
『たとえ今の状態が万全だったとしても、フィフスにはかなり分が悪い相手ね・・・ その分アタシが動かないと・・・』
「どんどんいくわよ。」
セレンはそこから次々と小糠を撃ち出しました。しかし今度はフィフスは変形させたマグナフォンから撃ったレーザーで蒸発させ、グレシアは凍らせて勢いを止めて落としました。
「おお、試しにやってみたが、使えるな、この銃。」
フィフスが信から貰ったスマホに感心していると、セレンはグレシアの方に興味を持ったのか彼女を見ています。
「へ~・・・ そっちの魔女っ子は氷放つんだ。ひょっとして、雪人?」
「・・・ それが何だってのよ?」
彼女が何でそんなことを聞かれたのか疑問を感じていると、セレンはそれにこう言い放ちました。
「いや、なんで人間に滅ぼされた雪人が、こんな所で人間を助けているのかと思ってね」
それを言われてグレシアは痛いところを突かれたように目を見開き、動きが固まってしまいました。当然セレンはそこをつこうと小糠をまた出現させようとしました。
しかしそれはフィフスも同じでした。話に気が向いているセレンに静かに近付き、右手は貫手の構えを取っていました。
そして彼はすぐに雉突きを繰り出し、セレンに直撃させました。
「戦闘中に気を反らしすぎだぞ。
・・・ ?」
フィフスはそのとき、さっきの攻撃にほとんど手応えがないことに気が付いたのです。
『何だこの感覚!? まるで風呂や池に指を突っ込んだような・・・』
彼がそう思っていると、ダメージを受けているはずのセレンがフッと笑い出し、その答えを言い出しました。
「残念ね。私に不意打ちは・・・ いや、お前の攻撃は通用しないわよ。」
そして彼女はフィフスに蹴り飛ばします。すぐに受け身を取って反動で下がるだけですみましたが、そのときに彼は自分の手を見てあることに気が付きました。
『濡れている・・・』
「警戒して距離を取ったわね。ま、意味ないけど!!」
そう言った次の瞬間、彼女はフィフスに向かって右腕を伸ばしました。するとその腕は突然透明になり、普通なら届かないフィフスに当たったのです。
「!?」
「フィフス!!」
予想外の攻撃に彼は受け身を取る羽目になりました。
「クッソ! 腕伸びるとかありかよ!」
今度は後ろからグレシアが氷で作った銃を何発か撃ち込みます。しかし弾丸はことごとく彼女の体を貫通しながらもダメージを与えている様子はありませんでした。
「どうなってんのよ!?」
「どうしたの? 二人揃ってこの程度?」
セレンは余裕そうに二人を罵りました。
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その頃、自分の知らないところで戦闘が起こっていることなど知るよしもない鈴音は、フィフス達が戻ってこないことに心配を感じていました。
「みんな、どうかしたのかな?」
彼らからの言いつけで部屋から出られない彼女は、自分がどうすることも出来ない歯がゆさを感じながら、テーブルの端を握りしめていました。
「彼らなら、しばらくここには戻ってこないよ。」
突然かけられた声に驚き、彼女はその聞き覚えのある声の方向に振り向きました。そこには、いつの間にか窓枠の所に座っているカオスがいました。
「やあ、直に合うのは初めてだったね。ベルリズム・・・ いや、日正鈴音さん。」
「お、お前は・・・」
カオスは、仮面越しでも分かる悪い笑顔を浮かべました。
<魔王国気まぐれ情報屋>
<水流術 小糠>
セレンの得意技。空気中の水蒸気を水に変化させ、それを槍上に固めて相手に飛ばす術。速度が速く、切れ味も鋭い。弱点として、あくまで水で出来ているため一定以上の温度の炎を当てると蒸発してしまうことがある。
前にユニーを足止めしたときも使用。