第9話 マッチ売りのお父さん
フィフス「異世界にいる親父、おふくろ、兄貴、姉貴、お元気ですか? 俺が日本に来て何だかんだで年末になっちゃいました。そして今・・・」
ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ ゴ・・・
現在、とある一人の男からの強烈な圧力を受けていました。
『俺、死ぬかもしれません・・・』
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数刻前・・・
「わあ、懐かしい。」
年の瀬の大掃除の中、瓜は物の整理中にある物を見つけ、それににんまりとしています。そこに・・・
「どおした? そんなにニヤついて。」
「ワァ!!」
瓜はフィフスから急に声をかけられたことに驚き、持っていた物をタンスの上の奥に投げてしまいました。
「あわわ!! せっかくの写真が・・・」
「写真だあ?」
顔を見ると今にも泣きそうな様子な瓜を見て、フィフスは慌て出します。
「あああ すまねえ、今取ってくるから泣くな。な!」
フィフスはジャンプをして取り出そうとしましたが、かなり奥の方にあったので届きそうに無ありませんでした。
「う~む弱ったな。 術を使っても写真なら燃やしちまうし・・・」
『あの・・・ これ、使いませんか?』
瓜はリビングに脚立を持ってきました。
「お、俺の部屋にあるはしごだ。」
『はしごじゃ無いんですけど・・・』
早速その脚立を瓜が下を支えて使ってみます。
その頃、二人の家に近づく足音が一人・・・
「よし、せっかく年末にケリがついて帰ってこれたんだ。きっと今にも待ち遠しくしているぞ~」
駅に着いた男は急ぎ足になっていた。
「待っててくれよ~ 愛する我が娘よーーーーーー!!」
彼の名は<町田 桃太> 瓜の実の父親である。
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当の娘、現在も脚立をお支え中。
『あの、どうでしょうか。届きますか?』
「あ~、もう少しで手がつきそうなんだが・・・ この!」
フィフスは脚立の上でバランスの悪い態勢になることで更に奥まで右腕を伸ばします。
『あわわ、危ないですよ。』
「大丈夫だ、ホントあと少しなんだよ・・・」
そしてフィフスが数分間悪戦苦闘した後、ついに・・・
パシッ!!
「よし、掴んだ!!」
『本当ですか!!』
それを聞いた瓜は嬉しくなりました。ですが、丁度そのタイミングにもう一つの音がしました。扉の鍵を開ける音です。それに気づき瓜がまさかと思うと、嫌な予感は的中しました。
ガチャ!!
「ただいま~ 瓜ちゃん!! 久々にパパが帰ってきたよ~」
『お父さん!? 何で!!?』
瓜は驚いた勢いで支えていた手を離してしまいました。
「ちょ、瓜!? アアアーーーーーー!!」
そしてそれによってバランスを崩したフィフスは脚立から崩れ落ちてしまい、それによって大きな音が響き渡りました。
ドシーーーーーーーーーーン!!!
「何だ今の音、瓜!! 大丈夫か!!!」
それを聞いて心配になった桃太がリビングまで急いで突入ますと、そこには・・・
「あああ・・・・」
「あああ・・・・」
己の愛娘がどこの馬の骨ともわからない男に思いっきりの床ドンをされている様子がありました。
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・・・そして現在に至る訳です。
『何だよこの状況・・・ 何なんだよこの圧力・・・ 何だこのどこぞのパワハラ会議みたいな感じ!! ちょっと待て!! 俺は鬼だが○○の鬼じゃねえんだぞ!!! 』
己の置かれている状況に現実逃避しようとしたフィフスだが、それもむなしくとうとう桃太からの質問が来ました。
「それで、君、名前は?」
その内容にフィフスは内心いきなり焦っています。
『予想はしていたがいきなりの難所だ・・・ 普通に答えたらおそらく・・・』
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<予想>
「フィフスっす、異世界で魔王子やってます。」
「うん、今すぐ出てって入院してきなさい。」
ガシッ!! ポイッ・・・ ガシャン!!
そうして追い出されるフィフスの絵面・・・
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『どう考えても誤魔化すしか無い!!』
考え込んでいるフィフスに、頭の中から声が聞こえてきました。
『スミマセン! フィフスさん。 私の伝え忘れのせいです・・・』
『お前のせいじゃねえよ。ここ数日忙しかったしな。まあここは誤魔化す手立てが出来ている。』
『誤魔化す・・・ 手立て?』
さすがにだまり続けているフィフスに桃太が追撃してきました。
「どうした? 自分の名も言えないのか!!」
圧をかけ続ける桃太だったが、フィフスは顔を上げて答えます。
「初めまして、自分、<小馬 五郎>って言います。娘さんのご厚意で、この家で居候させてもらってます!」
『私に振って誤魔化した!!』
瓜には完全にとばっちりです。
「瓜ちゃん、この人に何か恩があるのかい?」
『ど、どう言えば良いのやら・・・』
瓜がフィフスの方を見ると、フィフスは目が血走った状態でこちらを凝視していました。
『うう・・・ どうにかしろ!! ですか・・・』
仕方なく瓜はこう言いました。
「お父さん、彼は前に私が不良に絡まれた時に助けてくれたんです。何か恩返しが出来ないかと聞いたら、行くところが無いらしくてそれでうちにと・・・」
『なるほど、嘘はついてないな。』
娘の言う事を聞いた桃太は、疑問に思ったことを言います。
「五郎くん、だったね。親御さんは心配しないのかい?」
『そりゃお袋は心配してるだろうが帰れねえしな・・・ ここではすまないがこう言うか。』
「実は・・・ こないだ、親はどっちとも事故で・・・ それで、親戚もいなくて途方に暮れていたんです・・・」
『こっちは百パーセント嘘ですね・・・』
ペラペラと嘘を言いながら、悲しそうな顔をしてフィフスが続けると、桃太は止めました。
「も、もう良い、君の事は理解した。別に私はかまわないよ・・・」
「あ、ありがとうございます!!」
「ただ、・・・」
『ただ?』
次の瞬間、桃太が鬼の形相になって言います。
「君と私の娘はどういう関係なんだい? まさか、あれじゃないよね?」
『おい、またスゲー圧力が・・・』
「お、お父さん、そんなわけ無いじゃ無いですか!!」
「そ、そうっすよ、自分らは、ただの友達ですよ。」
そう言うが、桃太はフィフスをにらみ付けます。
「本当かい? ただの友達を、家に招き入れるものか?」
『『確かに!!』』
「い、いえ、しかし、私はあのままでは、ずっと搾取されてたんです。そこから救ってくれたフィ・・・」
「フィ?」
「小馬くんの為になりたかったのです!! お願いします、お父さん!!」
そう言って瓜は桃太の手を握りました。さすがの彼も、久々に会った愛娘の必死な頼みにとうとう・・・
「う~む、瓜ちゃんがそんなに言うなら仕方ないな。」
それを聞いて瓜の顔が明るくなり、フィフスの緊張が少しほぐれました。
「ありがとうございます。」
「本当にスミマセン。お父さん。」
しかし気が緩んだせいでフィフスは台詞で地雷を踏んでしまいましだ。
「ん?」
『しまった!! この状況でお父さんはまずい!!』
しかし時既に遅かったのです。
「誰が、お義父さんだって?」
「やばい・・・ 俺死ぬ・・・」
しかしそこに救いの手が現れました。
「いい加減にしてくださいお父さん!!」
「瓜!?」
「瓜ちゃん!?」
「こ、これ以上小馬くんをいじめるなら・・・」
「「いじめるなら?」」
「そんなお父さんはは、もう嫌いです!!」
少し間が開いた。そしてフィフスは思いました。
『いや、そんなんで通じるわけねえだろーーーーーーーーーー!!!!!』
フィフスは完全に<死>を覚悟した。しかし・・・
「そ、それだけはイヤだ!!」
「・・・はい?」
次の瞬間桃太は瓜に深い土下座をしました。
「頼む!! それだけはやめてくれ!!! わかった、今のは聞かなかったことにするから!!!! お願いだーーーーーー!!!!!」
『え~~~~~、まさかの効果抜群!?』
そうしてしばらくの間頭突きの音が響き渡りましたが、どうにか一落ち着きし、桃太は立ち上がってとぼとぼ自室に歩いて行きました。
『話が落ち着いたのはいいけど、この人、娘に甘過ぎだろ・・・』
心の底からそう思ったフィフスでした。
<魔王国気まぐれ情報屋>
フィフスは来客がきたときや、買い物をしやすくするためなどのために、普段は「擬態変化」で人間の姿になっています。
「変化しちまえば魔力消費もねえしな。」
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