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第101話 悩みも洗い流しましょ

 フィフスが仮眠室で眠っているのを確認し、言われた用事を終わらせたグレシアは、自分も昨晩の疲れを少しは回復させようと、信から聞きつけたシャワールームに行きました。


 そこにつくと、グレシアは事前に持ってきておいた着替えを置いて着ていた服を脱ぎ、個別のシャワールームに入りました。


 「へ~・・・ 結構綺麗ね。あ、シャンプーにボディーソープ、トリートメントまで。気が利いてるわね~・・・」


 グレシアが蛇口を捻り、そこにあったシャンプーで髪を洗っていると、かのじょがいる隣のシャワールームに誰かが入ってきました。彼女は一瞬こんな朝早くに誰かと気にしましたが、その答えは、相手の声が聞こえたことですぐに分かりました。


 「・・・ シカシカ?」

 「あれ? 鈴音!? もう起き上がったの!!?」

 「ウン、あれから少しして、大分調子が良くなって・・・」


 グレシアはシャンプーの泡を頭に広げながら考えます。


 『聞いたことの無い症状だから断定は出来ないけど、これもフィフスの持っていた剣の力・・・ なのかしら。』

 「シカシカ?」

 「ああ、ううん。何でもないわ。それで、調子はどう? ・・・って、聞くのも悪いか・・・」


 グレシアと鈴音のシャワールームの間にはカーテンががへだたれてシルエットしか見えませんでしたが、それでも彼女は鈴音が今どんな顔をしているのかは大体予想がつきました。


 そこから数分間は二人とも沈黙したまま髪を洗い、二人揃ってボディーソープで体を洗い始めたときでした。ようやく鈴音の方から口を開いたのです。


 「シカシカは、小馬ッチのこと、どう思う?」

 「エッ!? ななな、何言うのよいきなり!!?」


 彼女からきた予想の斜め上の質問にグレシアはドギマギしました。すると鈴音は訂正しました。


 「・・・ なんで小馬ッチは、ウチを怒らなかったんだろうと思って・・・」

 「あ、ああ~・・・ そういうことね。」


 グレシアは勘違いで焦ったことを誤魔化そうとシャワーの勢いを強めて体に残った泡を一気に洗い流し、会話がしやすいように間を仕切っていたカーテンをしまいました。それによって彼女は鈴音のバディを余すところなく見えました。


 『ウッワ、この子も思ってたよりあるわね・・・ うんん! じゃなくて・・・』

 「?」


 グレシアは一度よぎった思考を振り払い、鈴音に聞きました。


 「どうしてそんなことを?」

 「だって、小馬ッチは魔道書を使おうとしたウチを止めようとしてくれた。その上、そんな彼をウチは何度も攻撃して・・・ さっきのだって、本当は・・・」


 鈴音はフィフスの疲労が自分のせいであると思っているのです。暗いトーンで心配そうに言う鈴音を見て、グレシアは軽々しくそれに答えました。


 「ああ、大丈夫大丈夫。アイツの打たれ強さは折り紙付きだから。」

 「ええ・・・」


 鈴音は彼女がケロッと言ってのけたことに冷や汗を流して困惑します。


 「まあでも、アイツが鈴音を止めたことは、なんとなく分かる気がするけど・・・」

 「それって・・・」


 話の内容が気になって手が止まっている鈴音を横目にグレシアは泡だらけの体をシャワーの水で洗い流しながら話を続けます。


 「アイツ・・・ 過去に一つのことに焦って、皆を巻き込む大事を起こしたことがあったの。」


 グレシアが語ったのは、異世界で起こった獄炎鬼の事件のことでした。


 「それでアイツは酷く後悔してたわ。それを貴方にまで受けて欲しくないんだと思う。」

 「・・・」


 二人揃ってシャワーを終えると、使う前の状態に戻して脱衣所に向かいます。


 『小馬ッチも、何かあったから・・・ でも、なんでそれをシカシカが?』


 移動中に気になった鈴音は、タオルで体を拭くときにグレシアに聞いてみました。


 「ねえ、さっきから聞いてて思ったんだけど・・・ シカシカって、どうしてそんなに小馬ッチのことを知ってるの? 異世界出身ったって、小馬ッチはこの前学校に来ばっかだし・・・」

 「アハハ・・・ アタシとアイツは子供時代からの修業仲間なの。小さい頃はアタシ達二人と、『ルーズ』っていう人狼の男子の三人で良く一緒に動いていたものよ。」


 グレシアの言うことに鈴音はビックリした顔を見せて聞いて来ました。


 「あの男嫌いのシカシカが!?」

 「ああ~・・・ あの時はまだそんなにアレルギーじみてなかったから・・・」

 「じゃあ、いつから?」


 鈴音の何気ない質問にグレシアは見て分かるほどに肩をビクッと揺らして反応してしまいました。


 「え!? あ、いや、それは・・・」


 グレシアはそんなことを聞かれると思っていなかったようで、どう彼女に答えようか返答に迷います。


 『あんなことがあっただなんてとても言えないわ・・・』


 そのとき、グレシアは自分が男子嫌いになったきっかけを思い出していました。


 それは子供時代のある日、師匠(先生)を中心にパーティーを開いていたときに起こった事です。そのとき、何か嬉しいことがあったのか人一倍テンションが上がっていたフィフスが、お茶と間違えて近くにあった師匠(先生)のお酒に手に持ってしまったのです。


 それを飲んだフィフスは、例のごとくの酒乱が発動し、ヘラヘラと笑って机に脚をぶつけてしまいます。それを心配に思ったグレシアが彼の近くに行くと、彼はそんな彼女を無理矢理引き寄せ・・・







 思いっ切りディープキスをしてきたのです。






 「ギャーーーーーーーーーーーーー!!!!」

 「シカシカ!?」


 グレシアは思い出したことに憎悪を感じ、叫びだしてしまいました。


 「な、何でもないわ・・・」

 「そ、そうなのか?」


 グレシアは結局、このことを鈴音に話すことはやめました。そして同時に思い出したことがあったので、誤魔化しもかねて鈴音にこんなことを言います。


 「あ! そうだった!!・・・」

 「こ、今度はどうしたのだ!?」

 「貴方に渡すものがあったんだわ!!」

 「・・・?」


 鈴音はそれを聞いて何だったかと考えますが、ここ数日のこともあって中々思い付きませんでした。

<魔王国気まぐれ情報屋>


グレシアがフィフスから受けたディープキスは、彼女にとってのファーストキスでした。



これ以外にもフィフスは酒乱によって色々やらかしてしまっていたことから、一部からは『キス泥棒』なんて呼ばれていたことがあったそうです。

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