第99話 再び研究所へ
その後、フィフス達は再び信の研究所に行くことになり、鈴音は事情を聞いた信の計らいによってやって来た女性隊員がベットに乗せて運んでいきました。
剣の力を使ったしわ寄せでまたフィフスは動けなくなり、トラック内で運ばれている時から倒れてグデてしまいました。
「うぅ~・・・ やっぱ来るな、あれは・・・」
彼と違ってスーツの損傷だけで済んでいた経義は、真正面のソファで倒れているフィフスを呆れて見ながら対面のソファに座っています。ここで切りつけようかと考えもよぎりましたが、さっきのこともあってそれはやめておきました。
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そして車が着いてから二人は降ろされます。しばらく休憩をした後、フィフスは学校が終わった時間を見計らってグレシアを呼びつけました。鈴音の体に魔力があるのかを調べるためです。
「・・・ 大丈夫よ、もう彼女には魔力はないわ。最低でも、この水晶が反応しないほどにはね。」
「そうか・・・ 悪いな、わざわざ学校帰りに。」
「事が事だからね。最初あんたの連絡を聞いて驚いたし。」
次にフィフスは調子を変えてグレシアに聞きます。
「それで、ここに瓜は呼んでないんだろうな?」
「ええ、クチが軽そうだから平次もね。」
「助かる。このことを聞いたら間違いなくパニックになるだろうからな。」
同時並行に、信の研究室での経義と信の会話が続きました。
「願いを叶えた人間が、魔人になる・・・ か・・・」
「信じたくないが見てしまったからな。こうなれば、認めざる終えない。」
<フィフスサイド>
「じゃあ瓜が王妃の矢を持てたのも・・・」
「俺の魔力がアイツに流れていたなら説明がつく。それなら間接的にお袋の魔力が入るからな。」
<経義サイド>
「どうする? ようはこの世界の中で、いつ敵が増えるのか分からないって事だぞ。」
「これはマズいね・・・ だが気になるな。」
<フィフスサイド>
「どうしてお前の『水晶』で、鈴音の正体が見えなかったんだ?」
「生憎これは人間が作った物。だから魔人にしか反応しないのよ。」
「意外と縛りがあるのか、それ・・・」
フィフスはため息をつきます。するとそのときふとカオスの言っていたことを思い出しました。
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「魔人が支配する世界を作り出すこと。そのためにこの世界の人間には下辺になって貰おうと思ってね。」
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それをグレシアに話すと、彼女も一度驚いた後にフィフスと同じ表情になります。
「そう、カオスがそんなことを・・・」
「その感じ、お前も気付いたか。」
「代弁して言うわ。アイツがナンデそんなまどろっこしいことしているのか気になる。でしょ。」
「・・・正解だ。」
<経義サイド>
「まどろっこしい?」
「そうだろ? 魔人を増やしたいのなら、無理矢理にでも向こうの人間を使えば事足りる。五郎君に聞いた話じゃ、催眠術を使える奴もいるそうだし。」
「確かに、それなら何故わざわざこっちの世界に・・・」
「そのカオスだっけ? まだ何か隠してるんじゃないかなぁ・・・」
信はそう疑いながら、テーブルの上のコーヒーを自身の口に運びました。
<フィフスサイド>
段々空気が暗くなっていくのを感じたグレシアは、話を切り替えて誤魔化そうとしました。
「ま、まあ・・・ その事は後々考えるとして・・・ 曲がりなりにもオークは倒せたし、鈴音も救えたんだから、今回は一件落着って事で良いんじゃない?」
グレシアの作り笑顔でのコメントに、フィフスは冷たくこう言い出しました。
「果たしてそれもどうだろうなぁ・・・」
「え?」
<経義サイド>
こちらでは今度は信が驚いています。
「オークの件は終わったんじゃないのかい!?」
「そう思いたいんだが、いくつか気になることがあってな。」
「気になることかい?」
経義は壁にもたれさせていた体を起こして話します。
「そもそもアイツが前に俺が倒した奴と同一人物なら、顔が三つあるキメラだったはずだ。だがあの場に来たのは顔が一つになっていた。」
<フィフスサイド>
「それに、いくら鈴音を覚醒させるためとはいえ、せっかく見つけた契約者を無下にするように仮面野郎はおーくを見殺しにした。」
「まあ、確かに。」
「そして、今回襲われているのは秘密主義の配信者。そんな奴らの居所を、おーくはどうやってしったんだ?」
それを聞くグレシアはむず痒い顔をします。
「つまり、どういうことよ?」
「どうにも、事件はまだ終わっていない気がする・・・」
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そのころ、今朝にフィフス達がいた病院にて・・・
静まり返ったこの場所に、またカオスが戻ってきました。そこで彼はキョロキョロと庭を見渡します。そしてどこか落胆しました。
「あらら、どうやら解決しちゃたようだね。この世界では『二兎を追う者は一兎をも得ず』って言葉を聞いたけどまさにそれだな~・・・」
カオスが気落ちしていると、彼の目の前の空間に小さな渦のようなものが発生しました。それは自分自身で宙を浮いて変形することですぐに塊のようになり、それはそこからまた形を変えます。
「おっと、こっちは順調にいったようだね。」
それはまとまった形に落ち着きます。そしてそれは独りでに動き出し、叫び出しました。
「・・・ ウゥーーーーオォーーーーーーーーー!!!!」
それは、キマイラに吹き飛ばされたはずの『オーク』でした。
<魔王国気まぐれ情報屋>
・火炎術 爆破裂 98話より使用
拳を握りしめて魔力を溜め、相手に突き出したときに開くことで小さな空気弾を作り出し、爆発させる技。
攻撃、威嚇、奇襲のしかけなど、様々な用途に応用可能。
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