第98話 救いの剣
スーツの壊れた経義、目の前のオークにただ襲いかかる鈴音、そして何故か突然怒り狂いだしたフィフス。この絶望的な状況の彼らに、ある一筋光明が突然差してきました。それに最初に気付いたのは、他の二人から少し距離が離れていた経義でした。
『何だ!?・・・ 鬼の剣が・・・』
経義が見た光明。それは、感情のままに動いているフィフスの腰に差されている剣が、鞘から漏れ出すほどに光り輝いている様子でした。
「・・・」
すると、あれだけ感情的になっていたフィフスの目の色が変わり、元の色に戻ったのです。それと同時に、彼の様子にも変化が起こりました。
「・・・ッン? 俺は一体・・・ って!!」
我に返ったフィフスは自分が何をしようとしているのかに気付き、急いでその手を止めました。
『鬼の動きが止まった。正気に戻ったのか?』
『何しようとしたんだ俺は・・・ ウッ!・・・ さっきの数分間の記憶がない・・・』
フィフスはその後頭痛を感じましたが、目の前でひるんでいる鈴音を見つけて自分が何をやったのかをなんとなく察しました。
『そうか・・・ 俺が・・・ しかし何故止まった?』
するとフィフスは再び奮起して殴りかかってきた鈴音をかわし、何故自分が正気に戻ったのかを考え、辺りを見回します。すると彼は、自身の剣がまた光り輝いていることに気付きました。
『まさか、剣が!? 俺を?・・・』
フィフスはすぐに鞘から剣を引き抜きます。改めて見ると、やはり剣は化けゴウモリのときやノギの時と同じように光り輝いています。
『これが俺を正気にしたのか?』
フィフスはそのとき、ふとある一つの考えを思い立ちます。
『もしかして、これなら・・・』
フィフスは時間もなかったこともあり、それに賭けてみようと思い立ち、またやってくる鈴音の攻撃をまたかわし、彼女に当たらないように角度を調整して火花弾を撃ちました。それ反応した彼女は、より一層フィフスに意識を向け、彼に誘われるがままに病院方面から離れながら彼を攻めました。
『よし、上手く乗ってくれたな。』
その方面は、スーツが壊れて動けない経義にも配慮されていました。
『アイツ、魔人を病院から離してる。俺にまで配慮して揺動しているのか!』
調子を取り戻したフィフスの動きによって鈴音は物理攻撃を全てかわされ、更に苛立ちます。
「アァーーーーー!!」
追い詰められた鈴音は、また両手から火炎術を出します。
『速い! ・・・が、適当に出してて方向がまばらだ。防げない程ではない!!』
フィフスは彼女に当たらないギリギリの範囲に制御して放射炎を繰り出しました。それによって鈴音の炎は相殺されます。
それを見ていた経義はなんとも歯がゆい気持ちになりました。自分が動けていないことのそうでしたが、目に見えるフィフスの動きは、自分と戦ったときに見せていたときのものとは全然違うほどのキレがあったのです。
『力をひた隠しにしていたのか・・・ クソッ・・・』
するとフィフスは広い場所に出、鈴音もそれにつられます。そこから彼は距離を取ると、今度は猫だましをする感覚で爆破裂をしました。
「ウガッ!!?」
戦闘中のこれにはかなりの効果があり、鈴音は突然目の前で起こった爆発にひるみ、身を縮込ませています。フィフスはこれを見逃さず、両足を一度踏ん張らせて剣を持つ手を胸に引いて構えます。
『これでイケるかは分からない・・・ だが、アイツに殺人者にしてはいけない・・・』
「鈴音! あと少しだ、我慢しろ!!」
『信じるからな、剣のことを!!』
フィフスが一つ覚悟を決めて瞬きをすると、視界が変わってまた光の曲線が見えました。
『目が、白く・・・』
経義が遠目で見ていると、次の瞬間にフィフスは足を踏み出しました。体の苦しみとさっきの目くらましで動けなくなった鈴音に、彼は剣の攻撃範囲内にまで入りました。
「ハァーーーーーーー!!」
鈴音は身の危機を感じてまた火炎術を放ちますが、光の曲線通りに動くフィフスは軽々とそれをかわし、彼の剣によって胸の部分を切られました。
「グガァ!!・・・ アァ・・・」
すると、彼女の体から黒く、濃い邪気が煙のように抜けていき、それが晴れて経義が見ると、怪物ではなく、人間に戻った鈴音の姿が見えたのです。
「元に、戻ったのか?」
気を失ったように彼女は地面に倒れ込みます。目の色が戻ったフィフスはその音を聞くと、剣を鞘にしまい、体を反対に向かせて彼女の元に駆け寄りました。
「どうにか上手くいったか。」
剣の力を使ったことで、フィフスはどこかしんどそうにしています。しかし、彼女の姿を見た途端にその疲れは一瞬にして吹っ飛びました。
「ウオッ!!」
彼女は魔人に変化したときに肉体がごつくなり、それによって衣服が破れて現在彼女は裸だったのです。彼女はうつ伏せに倒れていたので上半身は見えていませんが、それでも見える物はあります。
『うぅ~・・・ 流石にこれはマズい。』
フィフスは気まずくなり、すぐに彼女の痴態を晒さないように何か隠す物を探しました。
「あぁ~・・・ なんか隠す物は・・・ オッ!」
すると彼は動けなくなっている経義を見つけ、悪い笑顔になりながら近付きます。
「な、何だ? どうした・・・」
「牛若、それよこせ。」
「は?」
次の瞬間、フィフスは経義のヘルメットをガッと掴み、動けないことを良いことに無理矢理剥ぎ取りました。
「何すんだお前!?」
「ちょっと借りる。」
そう言ってフィフスはすぐに去って行きます。経義は叫んで頼みを言いましたが、聞く耳は持ってもらえません。
「オイ鬼! ついでに腕輪のボタンを押せ!! ったく、聞いてないな。」
経義はフィフスがヘルメットを鈴音の隠すべき場所に隠すのを見ると、彼は仕方なさそうに腕輪に向けて声を出しました。
「タウロスよりドクターへ、タウロスよりドクターへ・・・」
少しすると回線が繋がり、腕輪から信の声が聞こえてきました。
「やあ、経義君。任務の報告かい?」
「ああ・・・ とは言っても、予想外が多発して何から離せば良いのかわかんないがな・・・」
「ハイ?」
信は経義の言うことに声の咲で首を傾げていました。
<魔王国気まぐれ情報屋>
・契約の魔道書の真相④
魔人になった人間は元の記憶を持たず、ただその本能が求めるままに暴れ出す。生き残った人類はその対処に追われ、三択に別れた。
・戦って、もしくは逃げて死ぬパターン
・戦って勝ち残るパターン
・そして、逃げて生き残ったパターン
その逃げてった中には、異世界に行った奴もいたらしい。