はじまり はじまり
「こうして桃太郎は、おじいさんとおばあさんと共にずっと幸せに暮らしましたとさ。めでたしめでたし。」
パチパチパチパチ!
日の昇る昼下がり。太陽の光が窓から差すとある小さな図書館の中で、一人の若い女性が、目の前に並んだ椅子に自由な姿勢で腰掛けている子供達に、手に持った絵本の読み聞かせをしていました。
そして丁度彼女は桃太郎のお話しを読み終え、目線を本から子供達の方に向け、物語を読んでいたときと同じ優しい声で彼らに質問します。
「さあ、今のお話しが面白かった人!!」
「ハーーーーーーーーーイ!!」
大きくハッキリとした声で意思を示す子供達、微笑ましい光景に自然と女性は笑みをこぼしながら更に質問を飛ばします。
「どこが一番面白かったですか?」
子供達は各々正直に思った事を話してくれます。
「犬さん達つれてくとこ!!」
「きび団子美味しそうだった!!」
「悪い鬼を倒すのがかっこよかった!!」
「っ!! そうですか・・・」
子供達の誰かが言った返事の言葉にどこか思ったのか、女性の表情が一瞬揺らぎました。そこから彼女は元の顔に戻すと、読み聞かせていた桃太郎の絵本をしまって子供達にこんなことを聞きました。
「皆は、鬼さんが怖いですか?」
子供達はその質問に対しても、表裏がない素直な答えをくれます。
「だって鬼って悪いじゃん。」
「皆を脅かして怖いよね~」
「鬼は皆悪い奴だよ!!」
子供達が言うことに、女性はただただ黙って聞き、それぞれがしゃべり終わると、ようやく口を開きます。
「果たして、本当にそうでしょうか?」
女性の問いかけるような台詞に、子供達はよく分かっていないように疑問を浮かべて首を傾げる子がいたり、興味もなさそうに隣の子と話し出す子もいます。
そこにお姉さんはどこか醸し出す空気を変えて、こんなことを言い出した。
「それでは、続いてこんなお話しはどうでしょうか。」
「どんなお話し!! どんなお話し!!」
子供達が興味を持ってはしゃぎながら聞くと、お姉さんは答えてくれます。
「皆がさっき言った、『鬼さん』のお話しですよ~」
子供達は彼女の言葉を聞いた途端に落胆して文句を言い出す子もいました。
「え~ 鬼が主役~」
「また悪いことするの~?」
駄々をこねる子供達に、彼女は表情を崩してクスクスと笑いながら話を続けました。
「そんなことはないですよ。これは、今の皆にぴったりなお話しです!! さて、それでは皆さんの新しい冒険の時間です。皆は静かにしてくださいね。」
子供達はほとんどはつまんなそうな顔をしながらも、一部のワクワクしている子達に言われて黙り込みます。
そして子供達が聞く姿勢に入ったのを確認すると、彼女は落ち着いて、ゆっくりと語り出した。
「これは、かつて皆から怖がられていた『赤鬼』と
皆から無視されていた、『少女』による
ほんの小さな、絆の物語・・・」
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