守羅村かぐや伝説─2
同じのかも?
そうして、村の入り口に着くと髭を熊のようにはやした大男が待っていた。
そう、彼こそがこの村の村長であり、俺の親父である。
「お疲れ秀久、大変だったろ」
「本当だよ、あれ絶対一人でやる量じゃないからな?それをやらせておいて親父は昼間っから酒かよ、良いご身分だな。」
頬がうっすらと赤みがかっている親父を睨みながら嫌味を言う。
「だろうな、俺もお前と同じ頃はやってたからな。それで酒を飲んでたのは仕事も終わったから坂谷の家に様子を見に行ってみたら準備が終わったみたいだったからな、前祝いとして軽く飲んできたんだよ」
しかし、親父には効果がなかったようで開き直られてしまった。
そして、今出てきた坂谷さんはこの村の守羅神社の神主の一家だ。かぐやが入水した時のお祓いもこの家がやったそうで、かぐや祭では毎年巫女をやってもらっている。
そのため、今回のかぐや祭でも舞を踊るため着替えだったり道具だったりを用意しなければならないからその準備を見に行ったのだろう。
「そうだ、沙羅ちゃんも今年から巫女として参加摺るんだとよ」
「そうか、もう19になるのか沙羅も」
この村では19歳になると成人と認められる。そのため、坂谷家では成人式も兼ねたかぐや祭になっているのだ。
あんなに小さかった沙羅がねぇ、何だか感慨深い。何せ沙羅のおしめも換えたことがあるくらいだ、娘が成人したような気持ちだ。まぁ、娘どころか妻も居ないがな。
それはそうと、なら何かプレゼントを用意しておかないとなぁ……あ、そう言えば
「なぁ、親父」
「なんだ?あぁ、沙羅ちゃんの千早姿なら似合ってたぞ」
「んなことじゃない」
全く、この酔っぱらいは……
先ほど湖でみた銀髪の少女がこの村にいるか、またはとなりの村にいるのかを聞いてみたが
「銀髪の少女?いや、知らないぞ?村で銀髪の奴は全員男だしな、商人も黒髪のいつもの奴だったし、隣の村だったらいるかもしれんがわざわざ一人でこんなところまで来るか?」
「だよなぁ」
そうなのだ、隣の村に行くのにも3時間以上歩かなければならい。それもさほど整備されていないため、車も走ることができない。そんなところを女性が一人で来るだろうか?
親父と二人して頭を抱えていると親父の後ろから一人のブラウンの髪をし、千早を纏った女性がやって来た。
「秀久さま、秀則さまおはようございます。こんな入り口で何をやっているのですか?」
彼女が先ほどから話題に出ている沙羅だ。見た目は清楚だが、中身はおそらくこの村で一番腹黒い。
「秀久さま?どうかなさいましたか?」
ほら、顔はにこやかなのに声が怖い。腹黒い上に心も見えるのはずるいよなぁ
「私が心を読むかどうかなんてことよりも秀久さま、この格好似合ってます?」
心を読んでおきながらそんなことですませよったぞこいつ。
まぁ、でも
「(中身を気にしなければ)似合ってるぞ」
そう答えたが、沙羅の顔は不機嫌そうに頬を膨らませていた。
「一言余計です!!ですが、似合ってるという言葉は嬉しいですね。」
でも、すぐに冗談と分かっているからか嬉しそうに微笑んだ。うん、やっぱり可愛いな。
「まぁ、でもどうしたよ。これから舞だろ、大丈夫か?」
「いえ、用と言うほどではないのですが」
そう言って俺を頬を赤らませながら上目遣いで見つめてきた。しかし、その瞳の奥にはからかうような雰囲気があった
「初めて皆様の前で舞うので緊張してしまってしっかりとお役目を果たせるか不安で……」
そんな風に言いながら裾をちょんと摘まんでくる沙羅の顔を見て
「……ふんっ、からかうのはそろそろやめろ、目の奥が笑ってるんだよ」
そう言って額を弾くと沙羅はクスクス笑いながら離れた
「フフ、本当に用は無かったのですが、秀久さまを見つけたのでつい思わずからかいたくなってしまいまして」
なんでこの娘はいつも俺ばっかし、からかってくるんだろうな、でもそんな沙羅とこうやってふざけあったりするのが俺はやっぱり好きだな
そして、背伸びして俺の耳元で「私も好きですよ?」と言った沙羅はお辞儀をして屋敷の方へ帰って行った。……懲りないなぁあいつも
「おい秀久、にやけるな気持ち悪い」
おぉう、顔に出てたか
その後も村の重役の人たちと式の進行の最終確認をしたり、終わった後の飲み会の支度をしたりしていると夕方になり、かぐや祭の開始の時間が近づき村人たちが守羅湖へとやって来た。
「親父、今年の祭もようやく始まるな」
式場に先に着いていた俺と親父はその様子を見ながら感慨深い表情で頷いた。
「あぁ、今年も豊作だったしからな、それに来年のためにも、一年の苦労も今日が最後だ。今日は張り切って頑張ろうな」
そうして、村人が全員集まり終えると遂にかぐや祭の儀式が始まった。
昼に完成した櫓の上に現守羅神社の神主、坂谷充さんが立ち厳かに話始めた
『これよりかぐや祭を開催する、皆先ずは黙祷を捧げる──黙祷』
黙祷が終われば巫女による舞と共に今年とられた農作物が奉納される
そう、沙羅の初めての舞である。
『それでは、これより作物と舞を奉納致します。』
充さんの宣言と同時に作物を湖に流すことになっていた奏と千早を纏った沙羅と彼女の母親である美羽さんが祭壇へ上がった。
奏は神衣に似せた薄い生地の服を着て湖の方へゆっくりと歩いていく。やる時はやる奴だから大丈夫そうだな奏は、心配なのは──沙羅だ、舞を行う二人の方を見てみると美羽さんは既に20回程やっているので落ち着いているものの、沙羅は初めてなだけあって表情が硬く、緊張しているのがわかった。
沙羅、緊張とは無縁そうな雰囲気しておきながら本当はこう言うのめっぽう苦手だからなぁ、だからさっき俺のところに来たんだろうな
沙羅は目線だけキョロキョロさせていた。恐らく俺を探していたのだろう。俺と目が合うと表情がいつもの落ち着いた雰囲気に戻った。
二人は静かに湖の近くへ行き、右手を合わせ一拍置いて左右対称に滑かに動き始め二人の舞が始まった。