風穴を開けるモノ
だと……したら……俺は誰だ?
「おい!兄さん、大丈夫か!?」
「う……ぐ……」
意識を取り戻していく。
そうだ、俺は占いを受けていたんだ。
「ぐ……大丈夫、です」
「あ、ああ……よかった。急に叫んで、倒れたから、驚いたよ」
「……見ましたか?」
「ん?見えたよ、お兄さんの運命」
これはどういう意味だ。
「……それで、どうでした?」
「西の森」
「え?」
「これから西の森に行ってみなよ」
「どうして、ですか?」
「ああ、西の森にお兄さんの運気を変える強烈な出会いがある、と出た」
「強烈な出会い?」
「ああ、もしかすると、”運命の相手”かもね」
「……別に興味ない、ですよ」
この身は既にお嬢様に捧げたつもりだ。
そんな出会いがあったところで、何かが変わる訳じゃない。
「ははは、年頃だね」
「……」
なんだか、勘違いされたようだ。
「でも、西の森に行ったほうがいいのは確かだよ、そこで、お兄さんの運気の奔流が生まれる、と出た」
「その言い方、必ずしも、良いことがあるって訳じゃないですよね」
「そうだね。でも、お兄さんの今までの運気……酷く淀んで停滞してるんだ」
確かに、お嬢様との出会いがあったとは言え、幸せな人生だったとは言い切れはしないが……
「そこに風穴を開ける必要がある。それに、死にに行くのはそれからでもいいだろう?」
「!?」
思わず、椅子を蹴倒し、距離を取った。
「おっと、カマをかけたのが、当たったみたいだね」
「あんた……」
「そう警戒しなくていい。冒険者としては経験が違うんだ。
覚悟を決めた……死にに行くものの目は見てきたつもりだ」
「……」
「どうせ、死ぬなら、やれることはやってみるべきだろ?」
「……死を覚悟しても、死ぬつもりはないです」
「だったら、尚更だ。ほら」
占い師は1枚のカードを投げてよこした。
「なんです?」
「カードでも占うと言ったろ?そのカードを見せてみな」
受け取ったカードを見せた。
「運命の輪の逆位置――ネガティブな意味が多いが、つかの間のチャンスという意味もある。
そして――」
占い師はもう一枚カードを引いてみせた。
「法王、だ。人生の転換だろうな、この場合」
「……」
「運命が言ってるのさ、ここしかない、とね」
「……行くだけ行ってみますよ」
「それがいい、選別代わりだ。そのカードはあげよう」
「いりませんよ。貴女もこれがないと占いが出来ないでしょう?」
「……そうか」
俺は占い師にカードを返すと、西へと歩いていった。
「……面白い運命。もう少し見たかったけど――」
『運命の輪』から目玉に羽根の生えた使い魔が現れ、消えた。
「――自分の目で見てみるのも一興かしら」