クロードの過去
俺には、幼少期の記憶がない。
気がついた時、凍えそうな真冬の寒空の下で、ただ一人力尽きようとしていた。
それを救ってくれたのが、お嬢様だ。
お嬢様の名はセレナ=クリスティーン
300年続く、グリブオンという地の大地主、
名門貴族・クリスティーン家のご息女だった。
俺のクロードという名の名付け親でもある。
セレナお嬢様は死にかけていた俺を保護し、
身元のわからない俺を使用人として、屋敷に置いてくれた。
孤児が貴族の使用人となれば、生活は激変した。
空腹で飢える事はない。
夏の暑さも、冬の寒さも、野ざらしのまま、耐える事はない。
使用人の仕事はそれなりに大変ではあったが、
食べ物の為にゴミを漁る必要も、
物乞いをする必要もないと考えれば、耐えられないということはなかった。
ましてや、グリブオンのあるランドグリーズ王国は、
亜人差別が根強い国だ。
亜人とは人とは違うモノ。
人の形はしているが、獣や鬼のような要素を持つモノを指す。
俺、クロードは猫人族と言われる、人とは違う耳と、人にはない尻尾を持つモノだ。
通常、亜人は魔法力を持たないモノが多い、とされていたが、
俺は僅かながら、使えることから、ハーフなんだと言われている。
そう、言われている、だ。
孤児で身元もはっきりしない以上、はっきりしたこともわからない。
だが、セレナお嬢様は屋敷に置いてくれた。
生きる術を与えてくれた。
そこには感謝しかない。
――――だからこそ。
セレナお嬢様を不治の病なんかで、死なせる訳にはいかない。
それが、俺がセレナお嬢様の傍を離れてまで、冒険者になった理由。
冒険者になれば、ダンジョンや異国の地に踏み入れることが出来る。
ランドグリーズ王国では、不治の病とされる『霊死病』の治療法や特効薬が見つかるかも知れない。
それを探すことが、俺の目的なのだ。
ハーフ、という表現は差別だと言われていますが、
実際にクロードは差別を受けてきた、という意味でダブルではなく、ハーフと表現しています。