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平民云々は置いといて、流石に、妹のために駆けずり回る少年は悪くない……はずだ。
いくら共通の祖父がクソでもな。
個人的には自分と血の繋がった人間……父がアレってだけで胃が痛い。
そんなことを考えながら私は王都で夏季休暇前に図書室で書き写したポーションのレシピを片っ端から見ていた。
見つけたレシピの材料と必要スキルを見て、なんとか作れそうだと頷いた。
……帰省してからもダンジョンに潜ることになるなんてあんまり思ってなかった。
弟に「お姉ちゃん、ダンジョンで欲しいものあるから隣町行ってくるよ」と言うと、「お父さんが野菜の出荷に行くって言ってたから一緒に行きなよ」と言われたのでそうすることにした。
私の肥料もあってか、商業ギルドでそこそこに売れる美味しい野菜になっているらしい。
うむ、良いこと良いこと!
借りた馬車で野菜と一緒に運ばれて二時間かかるところが半分くらい時間を短縮できてしまった。
そこから冒険者ギルドへ向かって、材料がどこで取れるのかをチェックする。
呪解ポーションに必要なのはフロード草っていう薬草を加えて月の光に当てながら光魔法を注いで作られる聖水と、ドロップアイテムである光の輝石だ。
聖水は大鍋で作る方が大量生産に向いているので、個人用でない限りは納品用に大鍋で作成している。光魔法の得手不得手で品質が変わるけど私は得意なので安心して欲しい。神殿の人も作ってるけど、儀式とかで使うらしくって市場には神殿製はあまり出回らない。あっちの方が品質は良いんだけどね。
輝石は光属性の魔物を倒すことで手に入るものなので必死に倒すしかない。
この……光属性では一番弱いらしいホーリースライムをね!
幸いというか、なんというかスライムは核を傷つけずに弱らせると増殖するので何体か増やしてから倒すことを心がけて、一時間半くらいでドロップを確認できた。
聖水は大量生産の余りがあるのでそれを使い、帰宅後にそれらとポーション用の瓶を錬金釜に突っ込んで魔力を通した。この中心についた赤い宝石がピカーっと光ったら完成である。
しばらく待つとできたので取り出してみる。鑑定に出さないといけないが、おそらくできたと思う。錬金スキルある人って大抵鑑定スキルもあるというのに、私は現状ないので鑑定人に頼むより他ない。
一応、魔眼疑惑はあるんだけれどなんだろう……レベルが足んないのかな?
魔眼も一族で伝わりやすいって聞くけど、これも産みの母関連かな。死ぬ前に教えて欲しかったけど、その時間もなかったのかもしれない。割といきなり死んだからね。
翌日、今度は徒歩で二時間かけてギルドへ向かい、鑑定人のいる部屋のドアを叩く。「はーい」という、少し高めの男の子?の声が聞こえてドアが開いた。
「何の御用かな、赤色」
「あかいろ?えっと、ポーションの鑑定をお願いしたいのですが」
「うん?自分でできるだろう?」
いまいち話が通じない。後、私はアカイロって名前じゃ……待てよ?赤の魔女疑惑あるんだっけか。じゃあ、もしかしてそれかな。
それをプラスで考えても鑑定なんてスキル画面に書いてなかったし……。
急に近寄ってきた少年が私と眼を無理矢理合わせた。
「話が通じないと思ったら、なんで君は魔眼を正式に継げていないのさ。先代は……ああ、殺されたんだったか。まぁ、ガルシアもハーバーもまともな当主ではなかったもんな」
「なっ!?なんで、そんな……!?」
鑑定ってそんなことまで分かるの!?
私の疑問を見通した様に「分かるわけないでしょ」と言って、彼は私の顔から手を離した。
鑑定で魔眼かどうかだけ見たらしい。えっ、じゃあ他の情報どこから持ってきたの?怖……。
「はじめまして、赤の魔女 アマーリア。俺は黒の魔法使い サミュエルだ。君とは同い年だよ」
「えーっと。私やっぱり赤の魔女だったんだ……?」
「そこからなの!?ああ、ごめん。君の情報を確認した時に察するべきだったね」
大きく溜息を吐いてソファに体を沈めた彼からは面倒そうな雰囲気がバシバシ伝わってきた。
もしかして、部下とか知り合いとかに色の魔法使い/魔女について調べさせたんだろうか。
「とりあえずコレ飲んで」
「え、やだよ」
何かよく分からない真っ赤な液体を注がれたグラスを渡されて固辞しようとすると、「いいから飲め」「なんで飲まないって選択肢が出るわけ?」「飲めっつってるだろうが」と恫喝されはじめたけれど、冷静に考えて何が入ってるか分かんない赤い液体とか誰が飲むんだ!?信頼関係があるならともかく、お前初対面だぞ!
そうは思ったものの、足払いされて体を転がされて無理矢理ゴッと口の中に入れられた上に鼻と口を塞がれたので反抗は意味がありませんでした。
目が、目が熱いー!?
喉から口に入ったものが即効で眼球に作用するんじゃない!!
目を押さえて苦しんでいると、「全く、手間をかけさせないでよね」という声が聞こえた。
私のことを暗殺でもしたいのか貴様。
「ねぇ、まだ目が開かないの?無理矢理開けて」
「おおおお前、あまりにも理不尽じゃないの!?」
それでも頑張って開くと、一瞬目の前が真っ赤だった。三度ほど瞬きをして漸く目の前の景色がクリアになる。
「ほら、持ち込んだポーション鑑定してみなよ」
だから鑑定持ってないんだってば、という言葉を飲み込んで、目の前のポーションに向かって「鑑定」と言葉を紡ぐ。
結果を言うとできてしまった。
なんで、と唖然としているとサミュエルは「魔眼解放おめでとう、アマーリア」だなんて口の端だけ上げて笑った。
「魔眼とか知らないし、今の私はレオノアなんだけど」
「別にどっちでもいいけど。まぁ、ガルシアの爺さんは新しい魔女が生まれて欲しくなかったから君を殺そうと放逐したんだろうし、完璧な継承が行われていなくても仕方がないけどさ」
先代も魔眼くらいなんとか出来なかったのかね、と足を組んだ。え、偉そう……。いや、黒の魔法使いなんだから偉いのか。
サミュエルいわく、ガルシア侯爵家は代々女系の血族に「赤の魔女」が出る一族なんだとか。そんで、婿入りしてもらって血を今まで繋いできたものの、私の祖父が「そんな古い慣習は捨てるべき」と言い張って産みの母……先代の赤の魔女を嫁に出してしまったらしい。侯爵である証の新しい「赤の指輪」とやらを作れるのが赤の魔女だけなので、自分の地位が落ちない様に赤の魔女を排除したかったらしい。新しい指輪さえなければ、自分は死ぬまで侯爵である、と。新しい指輪を契約者がはめた時、古い方は消滅するんだって。そ……そっかぁ……。
ついでに、色の魔眼を持つ者は分野にはよるけれど鑑定や特殊能力を持つ様だ。
「お互いに能力は内緒にしておいた方が身のためだと思わない?」とはサミュエル談である。教える気はなさそう。
「呪解ポーション作って、助ける価値がある?」
「呪われたのが爺さんだったら放置したんだけど、何の罪もないらしきお嬢さんだったから……」
「因果は子に、親族に繋がるものだと思うんだけど。何が起こっても自業自得じゃないか?」
「お陰で私は死にかけたねぇ。でも原因が肉親だったもんだから……。あの野郎が原因でさえなければ総スルーできたのに……!」
余計に面倒な事を知ってしまった。
「ところで、その話の内容だと、私が新しい赤の指輪とやらを作れば、間接的に報復できるんじゃないの?」
何となく言った言葉に、彼はニィと笑った。アルカイックスマイルって言うんだろうか。怖いぞ、その笑顔。
「楽しそうだね、それ?いいよいいよ協力してあげる」
私個人としては、破滅するしかなくなる様な家を離脱できてよかったとしか思えないんだけど、妙に報復に積極的な黒の魔法使いに引っ張られて軽く報復することになりそうです。協力してくれとは言ってないけど、それを指摘する雰囲気じゃないな。
あれぇ?