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割とボロい平民用とかいう寮。

まぁ、鍵がかかって寝床があり、食事が出るんだから文句はない。

それに貴族がいる寮で薬を煎じていたら臭いに文句を言われることは必至だし。ここは左遷されてこちらで料理作ってる気の強そうなおばちゃんが朝晩ちょろっと来てるだけだから文句言われても別にそこまで気にならない。まぁ、おばちゃん居ても居なくても学生証で寮の退出管理してるから帰らないとバレるのでちゃんとしますよ。



「ふふー、納品分MP用ポーション完成!」



錬金釜用の貯金のために、お土産貯金・学用品貯金とは別にしている貯金箱を見る。だいぶ溜まった気がする。

冒険者ギルドで登録した時に、薬学スキルと錬金スキルがあることが分かり、それで薬学の本と薬草図鑑を受付のお姉様に渡された私は時たまポーションなどの納品を依頼される。材料がある時とかはちゃんと受けている。


寮内でできる依頼としては実入りが良いし、私の薬学スキルは32とそれなりなので品質に問題は無い。MAXは100だけれど、30を超えるとちょっと寂れた街や村のお薬屋さんレベルではある。小さい頃からおばあちゃんに教えてもらった成果が出ている。

おばあちゃんは元気だろうか。


錬金スキルは御本家の悪役令嬢様が使えたのだ。確か見事に悪事にしか使ってなかったけど。爆弾作ったりとかね。


実際は錬金釜でしか作れないポーションとかアクセサリーだとかを作れるマジカルスキルなので、爆弾作ったりとかはしない方向で行きたい。


あと、鍋でグルグル作るよりも短時間で簡単に作れる上に、錬金釜使うと材料放り込んで魔力を注ぎ込むだけで作れてしまうしなおかつ対応した薬学等のスキルも上がるので、こればかりはお金を持ってないことが悲しい。



「さて、そんじゃあ換気して勉強!」



窓を開けると、熱を孕んだ風が吹き込んできた。もうすぐ夏だな。

前世の日本の様な湿度の高い暑さではないものの、やっぱり夏の暑さは少し苦手だ。まぁ、この寮日当たり悪いせいで多少は涼しいけど。

動けなくなるほどではないのが幸いだけれど、貴族寮には冷風が出る魔道具があるって聞いた。ここにはないけど。

……熱中症にならない様に気をつけないとね。


教科書を開いて注意深く授業内容を写したノートと照らし合わせていく。

大事だと言われたところを口に出して、内容を脳に刻む。


気がつけば外は暗くなっていて、グッと背伸びをして魔道ランプに魔力を通した。ほんのりとオレンジが灯ったそれを持って食堂に行くために部屋を出た。

無駄に二階建てだから移動が面倒だけれど、空いてる部屋を勝手に使っていたりするから文句は言っちゃダメだと思う。


食堂に入ろうとしたところで、寮の入り口を激しく叩く音が聞こえて、マジックミラー越しに真っ青な顔の少年が見えた。

慌ててドアを開けると、彼は急いでいるのか激しく音を立ててドアを閉めた。



「ランプの火も消してください!」



悲鳴の様な声に、まぁ落ち着くのならいいぞ、と思いながら魔力を流すのを止める。ビクビクしながら膝を抱える彼を宥め賺して近くの部屋に押し込む。


近くでバタバタと足音がするものの、十分ほどで去って行った。押し込まれたらどうしようかと思っていたからさっさと去ってくれて助かった。



「足音、どっか行ったみたいですよー」



ドアを少しだけ開けて伝えると、震えた少年がドアの前までやってきた。



「ありがとう、ございました。僕はノア……ノア・ハーバーです」



うっわ。

絶対関わるものかと避けてきた家名が聞こえた。


ノア・ハーバー。

私が追い出された後に引き取られたであろう侯爵家の養子だ。遠縁の親戚だったと思う。

本来なら義姉に虐め抜かれてその美しい容貌は常に暗い顔に沈み、ヒロインと一緒にいる穏やかな時間だけが救いとなるとかいう暗い設定を持った少年だ。


……私居ないのに何でこんな震えた子ウサギちゃんみたいになってんの?



「ハーバー様ですね。私は平民の奨学生でレオノアっていいます!」



あんまり震えて可哀想だから、どうしたもんか分からない。

とりあえず、寒いんだなってことにして、すでにおばちゃんが帰った厨房で安物の紅茶を入れて出してあげた。


安物って言ったの私じゃなくておばちゃんだから。「あーこんな安い茶葉しか置いてもらえないなんて平民って嫌ねぇ」って言われた。

おばちゃんには言わないが、それでも私が育った村なんかで手に入るものよりは良い物に違いない。前世でやってた「美味しい紅茶の入れ方」とかいうのをやってみたら普通に美味しかった。



「ありがとう」



恐る恐る、両手で包んだカップを口に運ぶノア。そんなビクビクするなよーとは思うけれど、それは私にはどうしようもない。


不味くはないのか、紅茶を飲み切った彼は……。



「う……うう……うわあああぁぁぁぁん!!!!!」



号泣し始めた。

えー、どうなってるのこれー。


仕方なく背中をさすって、泣き止むのを待つ。

紅茶のおかわりを二杯ほどカップに注いだ頃、ようやく彼は泣き止んだ。



「情けないところをお見せして申し訳ございませんでした、レオノアさん」

「いえ、ハーバー様が落ち着かれた様で何よりです」



うん、だから元気に男子寮に帰れよー、って言いたかったんだけど「僕の話を聞いてください!」と腕を掴まれてしまった。おう……逃げられそうにないし聞いてやろう……。


「実は」と彼が話し始めた内容は控えめに言っても地獄の様相を示していた。


私を追い出し、愛しい恋人……愛人でいいや、と娘を家に引き入れた父は、親類の魔力の強い少年を養子に迎えて後継者とすることを、父方の祖父に命じられて渋々了承した。

そうしてハーバー家に引き取られたノアは美しい容貌をしていたが故にその……愛人と義妹に目をつけられて性的虐待を強いられていた様だ。逆らえずに怯えながら過ごしていたある日、愛人が子を身籠り、生まれたのは男の子。

ノアは途端に父から殴る蹴る等の暴力を振るわれる様になり、やっと学園に来て離れられると思ったところ、義妹……いやなんというかもうヒロインとか義妹って言いたくないから名前でいいか。マリアとかいう名前の糞女に性的な接触と思い通りに動く道具となる様に求められ、えーっと、最後までいく前に気持ちが悪くなってここまで逃げてきたらしい。



「どうして、どうして僕ばかりこんな目に……!」



あー……いや実家の連中がすまん。私捨てられたからこれっぽっちも関係ないけど一応アレらと血が繋がってるのかー心底やだなー!



「つまり、ハーバー家には跡継ぎができて、親類から跡継ぎを選べと言った前当主は君を守る事もできない」

「そうです!」



何でノア、悪役令嬢のノーマルモード時以上に不幸になってるの?マリア、疫病神か?



「恐れながら、あなたがハーバー家を御するか、それとも平民になって家を出るかしかないのではと愚考いたします」



十二か十三歳の男の子に厳しい事を言っている自覚があるけれど。

というか、まだ身体の出来上がっていない男の子に成人男性を御することは難しいと思う。


実際は平民になるしか手がない。

父は喜んでサインするだろう。

コツは愛人とマリアをいかに関わらせずにサインさせるかだ。



「平民になって、どう生きていけば……?」

「そりゃ、自分で考えるか先生とかに聞くしかないですよ。私は教会の支援でここ通ってますけど」



それができないなら愛人やマリアの男娼として、父に暴力を受けながら生活するしかない。

まぁ、私みたいに準備する期間が皆無なわけじゃないからどうとでもなりますよ、うん!

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