15
数日をかけて王都まで行くと、人が王城に詰めかけていた。
……訴えを聞くところによると、私がこの国を離れてから、たくさんの人が彼女のために死んだのだろう。
それは、誰かの夫であり、父であり、兄であり、弟であり、息子であり、恋人だった。
加護が弱まったことで一部は逃げられたようだけど、死んでしまった人間は帰らない。おまけに、国は伝説上の災厄によって脅かされていて、国はそれに対応ができない。
怒りは当然、貴族や王族へ向かう。
その中でも、ハーバー侯爵家は対応が酷かったようで大層恨みを買っているようだ。
反面、ガルシア伯爵家とデイビス公爵家含むいくつかの貴族は早々に領地へと戻り、民を守ろうとしているため、そちらの領地へ旅立つ者もいるようだ。
けれど、王も王妃も王太子も、その婚約者も、民を救おうとはしていない。
「住んでた時はこんな事になるなんて思ってなかったけど」
「国の毒がここまで回ってしまったんだよ。どうしようもない」
そう言って顔を歪めるルースだって、こんな場面見たくはなかっただろう。
王城の結界が弱り、ファニールが近づいて来ている今は彼らを安全な場所に誘導しなくてはいけないだろうけど。
どうしたものかと思案していると、空から一匹の飛竜が降りてくる。そして、城門の前に降り立ち、二人の青年は叫ぶ。
「聞いてくれ!ここに災厄の獣が迫っている!王城近くは危険だ、今すぐ冒険者ギルドのシェルターへ避難してほしい!!」
「怒りは当然です!ですが、今はあなた達の命を守ってください!!」
ふざけるな、あの子を返して、あの人はどこ。
そんな悲鳴のような怒号が飛び交うが、彼らは叫び続ける。
「エイダンとノアか」
「強いな、アイツらは」
その二人を見た王子様と騎士様は「行ってくるよ」と私達に手を振った。
それを見て、止める事は出来なかった。きっと、どこまで行ってもルーカスは王子様であり、ウィリアムはその騎士なのだろう。
「聞いてくれ!皆の者!私は……」
ルーカス、ルーカス・ロンゴディア。
王国を建てた黄金の魔導師の子孫。
そして、国民からの人気が高かった前王妃唯一の子であり、計られて国を去らねばならなかった王子。
危険を冒してでも帰ってきた彼の演説に、民は涙する。
「あなた達にはきっと、信用してはもらえないだろう。だが、私に!この国の王族として、この国を愛する者として、民を、国を守らせてほしい!!」
そう宣言する。
「……王子様の決断が吉と出るか凶と出るか」
それはわからないけど、ルース達にだって……私達にだって。
ハッピーエンドがあると信じたい。