12
彼女に贈った魔石のピアス。
彼女に迫る危機とその居場所を教えてくれる機能を持ったそれを渡した事を、これほどに感謝することはないだろう。
そもそも、彼女が隣国で囲われていることを知るのに三年を要してしまった。嫌がらせのようにあの皇子が形跡を消していたのが痛かった。
冒険者ギルドと商人のコミュニティから彼女が王宮で働いている事を知った。
すぐに迎えにいってあの日、彼女の手を掴めなかった事を謝りたい気持ちはあった。だけど、災厄の獣がどうやら聖女を追いかけている事や、女神の力がレオノアになんらかの悪影響を与えているのでは、という案件が出てきたがためにそれらの件について調べる事を優先した。
結果、赤の魔女が女神の八つ当たりを受けて祟られている事が発覚した。
アストラがアウローラを愛さなかった原因を赤の魔女だとこじつけていたらしい。実際の伝承では、女神の性格がアレなので、神が疲れて逃げたというのが真相に近いようだが。
「こんな事になるなら無理矢理でも拐って逃げるべきだった」
右腕と左足が折れているようで、そのせいか熱も出ている。
懐に入れた人間には甘いのは知っていたが、そもそもが貴族令嬢であるはずの彼女が助けに入る必要なんてないはずなのだ。
腕利きの冒険者ではなく、アマーリアとして迎え入れたくせに、都合の良い時だけ冒険者として彼女を使う。本当にいい性格をしているものだ。
唇を噛むと、一緒に飛んできたグリフォンが宥めるように一声鳴いた。
「……悪いな。無様な姿を見せた」
見つけた洞窟の中に入り、異空間収納魔法で毛布を取り出して、その上に彼女を横たえる。首元のボタンを緩めてやる。
上級ポーションを取り出して飲ませようとしたが、うまく飲んではくれなかった。
仕方がない、とポーションを口に含み、口移しで与えると、ようやく彼女はそれを飲み込んだ。瓶が空になるまでそれを続けると、少し呼吸が落ち着いたように見えた。
三年ぶりに見た彼女は、かつての少女から一人の美しい女性になっていた。
眠る彼女の頭を恐る恐る撫でる。
安心したように緩む頬が、なんだか妙に懐かしく思えた。
「え、え、えっ?生きてる!?五体満ぞ……いだだだだだ!!」
「はは、相変わらずよく伸びる頬だね?俺がいないと無茶ばっかりやるようだから仕置きだよ、レオノア」
目が覚めた彼女が呑気な事を言うものだから、少し腹が立って頬を引っ張ってやると、昔のように涙目で「ごめんなさいー」と謝ってくる。
溜息を吐きながら離してやると、頬を撫でながら座り込む。
「というかサミュエル!?久しぶりだな!?」
「中身が変わってないようで安心したよ。本当、発言が残念」
「……そっちも変わってないみたいで何より」
少し頬を膨らませて、怒ってます、とポーズを取る彼女が微笑ましくて笑ってしまう。
「何笑ってるのよぅ!こっちはすっっごい寂しかったんだから!!」
「俺と離れて?」
「そうだよ!サミュエル、どれだけ私の世話焼いてたと思ってるのさ!……皇族の囲い込みホント洒落にならなかった。あと皇太子怖い」
理由がそこかよ、と少し呆れてしまうが即座に肯定が返ってくるのは悪くない気分だ。
そう思えば、グリフォンが同意するように喉を鳴らす。
「わ、グリフォン!?カッコいい!名前とかあるの?」
とりあえずはしゃぐ彼女に、「騒ぐな」と注意をしておいた。元気になったのは良いことだけどね?