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飛竜に乗ってロンゴディア方面へ飛んでいくと、崖近くでカイル様とゲイリーvsその他というヤバい光景が見られた。
その崖、ラスボス(アマーリア)戦が起こるとこじゃないですか、やだ。
どうやら、ばら撒いたアミュレットの強度を彼女の魅了が超えているようだ。
カイル様とゲイリーのものは特別製だから二人は無事だったわけね。不幸中の幸いというか。
飛竜に降下してもらって飛び降りついでに、寝ぼけた事してる兵を蹴り飛ばして気絶させておいた。
「無事ですか?」
「無事なわけがなかろう!対策を施したはずの我が国の兵をいとも容易く操り、あのように狂わされるなど、どうなっている……!」
「やはり自分、皇太子殿下の指示は仰ぐべきだったと思います。カイル殿下」
「仲間をあのように殺された連中だぞ。放っておくより私が率いた方が被害が減るし、取り戻すには時間が勝負だろう!?」
「まぁ、皇太子殿下は聖剣と犯人の確保は後回しでも構わないからカイル様は回収しろと仰せでしたけどね」
あの女に操られて皇族の血をばら撒かれたり、その血を使って乗っ取りを企まれたりすると酷いことになりそうだもんね。実際、ちょっとやりそうなのが困る。
「ええい、避難してきた身の癖に我らの対抗策を盗みよって!おまけに剣を向けるなど盗人猛々しいとはこの事だ!!」
「あら、困っているのはロンゴディア王国よ?対抗策があるならわたくしたちの方が有効に活用できるに決まっているではないの」
こんな太々しい「私が困ってるんだから助けてもらえるのは当たり前」を聞くことになるなんて誰が思う。
普通思わなくない?助けて。
「では、そちらの国で新しく作るべきでしょう。その剣は姫が描き、自分達が素材を集め、腕の良い鍛治職人と錬金術師を雇って、我が国が作り上げたもの。断じて貴様等への貢物ではない」
「なぜ?わたくしとラファエル様が困っていたら助けるのは当然ではないかしら?」
「それはロンゴディア王国でだけ通じる話だと言っている!」
これ、ヤバい。何がヤバいって我が異母妹殿……これを本気で言っている。
そして、その後ろではとても人とは思えない動きでどんどん襲ってくるロンゴディアとエデルヴァードの兵達。
いくらゲイリーが強くても、この地盤でカイル様を守りながら聖剣も取り戻すなんて不可能に近い。
「せめて、いつもの連中なら“強行突破頑張ってみちゃう?”とか言えたんですけど」
「分かっておるわ!アレの虜になるような事になっては、戦況が一層悪化するのだろう!?こちらは出来る限りの対策をしてきたというのにこの様だ。早急に新たな対策を練らねばなるまい。撤退だ!」
カイル様、兄上大好きっ子だからめちゃくちゃ悔しそうな顔をしている。
小声で「機会があれば八つ裂きにしてくれる」とか言ってるんですけど、それゲームパッケージの真ん中辺りを飾る男が言うセリフじゃない気がする。
でも気持ちは分かるよ!
そうカイル様が決心してくれたのなら話は早い。
口笛を吹いて飛竜を呼ぶと、ゲイリーへ向かう兵の数が増える。それに煙幕を投げつけて、カイル様の方へ引っ張ると、彼は飛竜へ向かっていった。
私にとって計算違いだったのは、彼女達が「手に入らないなら纏めて消えてもらおう」と考える時間が早かったことである。
的確だったと言い換えてもいい。
「大地を裂け、アースクエイク」
ラファエル殿下の声だった。
飛竜に飛び移る前に崖が割れて、身体が落ちて行く。叫ぶような声は聞こえたけれど、カイル様とゲイリーの役目は私を助けることじゃない。
割れた地面にぶつかりながら、共に落ちていく途中、懐かしい声に名前を呼ばれた気がした。
「君ってやつは、どうしてそんな無茶ばかりするんだ!?」




