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「なんで盗まれるんですか、そんな大事なモノ!!」
王宮の人達に対してあまり声を荒げることはない私だけれど、つい怒鳴ってしまった。
気まずそうに顔を背ける兵達の様子と、女官達からの冷たい視線、後ろに佇む皇太子殿下の凄み。
───魅了か!?
「申し訳ございません!王家からの通達があったはずであるのに我が愚息達が装具を外し、あの女に誑かされるなど……!!」
現在、国境へ迫る邪竜の件で東の共和国にて会談を行っている陛下の代理の皇太子殿下に、騎士団長が土下座をする。この世界にも土下座なんてあるんだなぁと現実逃避をしていると、いつもにこやかな皇太子殿下が厳しい表情で「責任の取り方は分かっているか」と問う。
「爵位と領地の返還、騎士団長の職を辞し、命を……」
「それは後でいい」
後でいいときましたか。
「貴殿も息子を喪った身だ。関与した者達の末路を知らぬわけではあるまい。……だから私はロンゴディア王国のことはロンゴディア王国で片付けてもらおうと陛下に進言していたのだがな」
そういえばこの人はあの二人を「追い返しましょう」「我が国の毒にしかなりますまい」とか言ってたんだった。私が拾われた時も研修に行かされたのは皇太子殿下のとこだった。……だから害がないって思ってもらえてたんだけど。みんな、この人への信頼感が厚すぎる。
「アマーリアは休暇を取っていた故、知らなかったと思うが、この度の事件への協力者は全員自死している」
「自死……」
なんかヤバい話になってきたぞ!?
「それもとても穏やかな笑顔だったそうだ」
「違法薬物でもキメてたんでしょうか……」
「違法だけれど、薬物ではないよ。女神の魅了だ」
話に聞く昔の聖女が狂った原因では!?いや、そんなヤバい代物なんです!?
神様、女神アウローラの加護全面的に切ってくれないでしょうか……!
「というかやっぱりその女って……」
「ロンゴディアの王太子の婚約者だよ。他国でよくやってくれたよね?こうなっては戦争もあり得るよ」
そら王家のお宝盗んだんだもんなー!
「カイルが兵を率いて追っている。それでだ、“レオノア”」
殿下が私を都合良くレオノアって呼ぶ時って、割とドギツイ任務なんだよね……。しかも、いつもの扱い無視して冒険者として扱ってく……皇太子元々私の事令嬢扱いした事なかったわ。
顔が引きつっているような気はしたけど、返事をする。
「君は単独でカイルを追って欲しい。飛竜の使用も許可する」
「かしこまりました」
「アレさえ回収できれば、聖剣も犯人の確保も後回しでいい。……難しい任となるが無事に帰って来い」
難しい顔をした彼は、次々に指令を出していく。その光景を背に、私は歩き出した。
……この分なら、代替わりは早いかもしれない。
飛竜のいる小屋に入り、一匹を借りて外に出る。
私もあんまりいい予感はしないんだよねぇ。
「よーしよし、お前に魅了避けのアミュレットをつけてやろう。……何かあったら、私じゃなくてあのバカ皇子達を乗せて帰ってくるんだよ」
私は悪運が強いから平気……なはず。
あと、アイツに会うまでは死ねないし。
逸れたお説教でも直接会って聞きたいものだ。いや、どうせなら褒められた方が嬉しいけどね。