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こんなので聖剣ができるのだろうか?
背中の方で返り血を浴びて衣服が赤黒くなっているゲイリーを思い出して、溜息を吐いた。これでできる聖剣に聖なる要素はあるのか。
殿下二人に「君達ちょっと聖剣の材料取ってきて(意訳)」と言われた私とゲイリーはこの国の難関ダンジョンの一つ、聖なる白と呼ばれる洞窟に入っていた。
許可証がある冒険者や戦士しか入れないこのダンジョンは強い魔物や聖獣が生息している。難関と呼ばれる理由は出没する奴らが強いから……というだけではなく、ここで出る魔物や聖獣はほとんど殺してはいけない生物だからである。
基本的には力を示せばいいだけなのだけど、ゲイリーは気が付いたら血生臭い解決方法を取ろうとするので精神的に疲れた。
言い訳をしておくと、返り血の元となった人魚三名は治療をしてあげたし(泣いて感謝された)、妖精はいる階層に行く前に殺さぬように言い含めておいた(基本無力化するまで見ていてもらった)。この連中は希少生物であると同時に聖魔法を使えるものなので殺してはいけない事になっている。本当にバーサークされると困る。胃薬が足りない。
ゲイリーがこのダンジョンに来たがらない理由も「自分、相手がなんであれ、敵対生物に遭うと殺してしまうので」というものなのだ。要するに殿下達が悪い。でも私一人も困るんですよね。
「あとは聖竜の鱗ですね」
「メイン素材だけど、これ素直にポンとくれるものなの?」
「そもそも遭遇したことがありませんので、何とも言えませんね。自分、悪いことをする竜を殺すか、飼い慣らされた竜に騎乗するか、しかしたことがありませんので」
ですよねー、と心の中で同意する。私だってそうだよ。聖なる竜だとか言われてるけどヤバい竜か飼い慣らされた竜しか見たことないもんね。
まぁ、だから何があってもいいように私とゲイリーをここに送り込んだろうけど。
「何がいようと、あなたになら自分の背中を預けられます。あなたにも、自分を信じて頂きたい」
「ン゛ッッッッッッ!」
好感度MAX時のセリフを私に使うな!
という気持ちを必死に押し込めたら変な声が出た。同時に、このセリフが聞けるくらいの腕っ節があるのを考えるとちょっと切なくなる。
私だってちょっとくらい守られるだけのお姫様に憧れだってあるのだ。いや、実際にそうなったら気持ち悪いとは思うけど。……性格がそもそもお姫様じゃないんだなぁ。
「どうかしましたか?」
「何でもない……」
ところで私、好感度上げた覚えないんだけど何かあったっけ?ゲームと違って三年も一緒にいるから、別にヒロインに限っていう言葉ではなかったのかもしれない。
そのまま最下層まで行くと、大きな扉がある。何か書いてあるな、とその文字を読む。
「えー……何々?」
偽りを持たざる者のみが通ることができる……髪色と瞳の偽証ダメ?
試してゲイリーに何かあってもなぁ。
「自分にはそんなものはありませんので、この文が正しければ通れるはずですね」
そう言ったゲイリーが、私が止める前に扉を押しても引いてもびくともしない。
なるほど、と二人で溜息を吐いた。私がこれを解かない限り先へは進めないらしい。
「リア、二人ともそうでないといけないようです」
「うん。今髪留め外す」
魔道具の髪留めを外すと、頭の上から流れるように明るい赤に染まっていく。
閉じた瞳を開くと、これも赤い瞳になっているのだろう。
普段は髪留めと魔法で二重に色を変えているのだ。これを知っているのはこの国ではゲイリーだけだ。
カイル様?私が止めたのもあるけどゲイリーも「必要にならない限りは黙っていましょう」とか言ってたし知らないと思う。いいのかそれで。
「これで、私とあなたの間には偽証なし!え?無いよね?」
「不安そうにしないでください。自分にはないのであるとしたらリアですよ」
それじゃあ、と二人で扉を押す。
不快なキィーという音を立てて扉は開いた。
「行こっか!」
「はい」