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災厄の獣を自国に置いて王太子と聖女が留学してきた。私は頭が痛い。
なんか、王太子と聖女が死なないようにってことらしい。ついでに「消えた色の魔法使いと魔女を探してこい」っていう理由もあるらしくって白目剥きそうになった。恥という概念をご存じでない……?
たぶん誰も協力しないし「ザマァ!」って言うと思うよ、私。
とはいえ、この国ではほとんどの上位貴族に私の作った対魔のアミュレットが渡っている。それ故にカイル様の庇護下にあるんだけど、もう恩人の頼み断れなかった私が悪いよねーそうですよねー!
皇族の皆様は魅了とかかけられる可能性がめちゃくちゃ高いらしくって、その点ではすごく便利使いされている。……仲間達がアミュレットとか便利魔導具を見て私の存在に気づいてくれないかな、っていう下心もあったんだよぅ!
そんな私達は今、ラファエル&マリアの出迎えをしている。友好的に微笑むカイル様の眼差しが値踏みするようなものなのは仕方がないよね!目の前でベタベタラブラブしている二人にちょっと殺意が湧いた。こっちは国を追われたときに仲間とすら離れ離れになってんだぞ。そもそも自国で処理できない案件があるって知らしめてるようなもんなんだからもうちょっと危機感とか焦燥感だとか持ってしかるべきじゃない!?私がおかしいの?
ところで悪役令嬢は恋愛に興味持っちゃダメなのかなぁ。破滅フラグではあるし。いやでも、お年頃なので私も羨ましくなったりもするのである。
ロンゴディア王国ロイヤルバカップルは皇族の療養用に作ってある離宮への滞在が決まっているので、彼らと護衛を見送って城に戻ると、「綺麗なだけの人形にどれ程の価値があるのか」とカイル様が冷めた声で言った。あれはあれで油断ならないタイプだと思うんだけど。
自室へ戻ろうとすると、皇太子殿下の宮の侍女様から「あなたに面会の申請があります」と言われて、そちらまで行く。カイル様のいる宮はカイル様を含めた皇帝・皇妃・皇太子以外の皇族が住まう月の宮殿で、皇太子殿下の侍女様に呼ばれたってことは陽の宮殿へと行かないといけないだろう。
手続きをふんで、応接室へと向かうとシュバルツ商会の現在の会長であるサミュエルの兄、サルバトーレさんがいた。
ようやく繋がった、と一息つくと「久しぶりだね、レオノアさん」と彼は微笑む。
「お久しぶりです。サルバトーレさん」
同じように微笑んで見せる。
どこか黒の彼に似た顔立ちで懐かしさを覚える。三年しか離れていないのにね。
「あまり皇子様の側を離れてもおけないんだろう?本題に入ろうか」
ロイヤルバカップルに近づきたくないから離れたいけどね、という気持ちを押し殺して頷く。
「まず、君の家族と僕の弟達は無事だよ。むしろ君だけ所在が分からなくて、皆気にしていたよ」
「そうですか……」
私以外みんな無事でよかったー!
……って良くはないわ、流石に私不運が過ぎる。
「それでだけれど、災厄の獣関連で面倒なことになっているらしくてね」
「はい」
「暫くそっちで頑張れ、とのことだよ」
何それぇ!?
呆然とする私に「弟からだよ」と黒い魔石のついたピアスを贈られた。わーおしゃれー……だけどこれで機嫌取ったつもりか!?何らかの魔道具かアミュレットかもしれないなぁ。後で鑑定しよう。
「一応、近々こちらに集まる予定はあるらしいから、期待せずに待っているといいよ」
「きたいせずに」
サルバトーレさんを見送り、陽の宮殿の人達にご挨拶をしてから部屋に戻ったら、逸れたのは自分とはいえ、やっぱりちょっとむしゃくしゃしたので早速ピアスの穴を開けた。鑑定はしたよ。位置がなんとなくわかる……みたいな機能がついてた。
翌日、ゲイリーに「ピアスの穴なんていつの間に開けたんです?」と聞かれた。
「昨晩です」
「……へぇ、珍しい色の石ですね?」
「ええ、気に入っています」
場所わかってるなら迎えに来いよな!
あんまり遅いとこっちから出て行っちゃうんだからね!……やっぱりそっちのが早いよね。ロンゴディアの連中が帰る目処がついたら出てっちゃおうかな。




