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カイル様の後ろをゲイリーと歩いていると、マジで貴族令嬢になった気分である。元々侯爵令嬢でしょって?私侯爵令嬢期間よりも平民期間の方が長いのよね……。この国では皇族の側仕えといえば貴族の子女なので気が抜けはしないけど、身分を振りかざすのをやめさせるために家の名を出すことを禁止しているのが救いである。
優雅に皇子様スマイルを振りまきながら生徒会室まで戻ったカイル様……彼は思いっきり舌打ちしながら乱暴に制服のジャケットを椅子に叩きつけた。
「チッ、どうして女共は媚びを売りながら近づいてくるんだ」
「婚約者のいない公爵になるのがわかっている皇子様がいればお近づきになりたいでしょう」
「殿下が婚約すればおさまりますよ」
ゲイリーと私がそう言うと、求めていた答えじゃないとでも言うように目を背けた。
「いっそのことリア、お前が妃となれば良い」
「絶対ヤです」
「なぜだ!?」
何でって、ただの侍女だとみんなわかってるから何もされていないだけで、皇子の恋人だとか思われたら即殺されるでしょ。身分が貴族令嬢で優秀な錬金術師だから側に置いているのだと思われているからこそ皇帝陛下や皇妃様、殿下のご兄弟にもお目溢し頂いているのだ。アンタの姉ちゃんが私は一番怖いよ。
ちゃんと私に優しいのってゲイリー父ことオルコット辺境伯くらいのもんだよ。……冒険者としての腕を見込まれているところあるんじゃないかと思っちゃうけど。
「なぜって、殿下はご自分の市場価値を分かっておられないようで」
「リアを戦場に一人追いやるつもりですか」
「お前ら……。まぁいい。ところでリア、ラファエル・ロンゴディアとマリア・ハーバーという二人について知っている事はあるか?」
唐突に問われて首を傾げる。
「三年近く国を離れているのですよ?知るわけがないでしょう」
「最近の事でなくとも良い」
「……それでは、少しなら」
三年前の見た感じのマリアと噂しか知らない王太子ラファエルの話をすると、カイル様は面白そうな顔をした。
「聖女などと分不相応に言われているとはいえ、娼婦を妃にと望むとは面白い国よなぁ?滅びの近い国であるわけだ」
「滅び、ですか?」
「ああ。災厄の獣……邪竜ファニールが目覚めたらしい。聖女が祈って力は弱まっても倒す者がいなかったとか」
滅びかけてはいるのね。それにしても、攻略対象二人と続編の攻略対象である婚約者がいるのに倒せないってそんなことあるのかな。
「そも、強い女神信仰故にロンゴディアには伝わっておらぬのだろうが世は女神アウローラと男神アストラの加護を得た人間と聖女によって邪竜より守られたとされている。特に女神の影響を受けているのが聖女であるらしいが……聞いた通り清さの欠片もない能力であることよ!」
「そうであれば、加護を得た者達は……」
「加護を得た人間達は強い力を持ったが故に守ったはずの人々に恐れられ、自分達で国を建てたという。それがロンゴディアだ」
なんで我が国の興りを隣国で詳しく聞いているのかはわからないけどそういう感じだったのね。強い力を持つとヤバい、はっきりとわかる。
「持て余された連中が多様性と多くの人々に受け入れられることを願い作った国が、今やその魔導師?だったか。そいつらに守ってもらえぬ等、余程国の中枢の連中が驕っていたのだろうよ」
まぁ、親は子にとって良い存在でなくなる時が来たって話な気がする。
それにしても腐りすぎだなって思うけどね!
「それにしても、なぜそんな人達の事を聞きたがるのです?」
「ああ、留学してくるそうだ」
「は?」
おっと、淑女らしくない声が出てしまった。ジト目で見てくるゲイリーと机に頬杖をついてニヤニヤとしているカイル様。
「王太子ラファエルとその婚約者のマリアとやらが、我が国の魔法学園へと留学してくる」
「退学しても構いませんか?」
真顔で言うと、「ならぬわ、たわけ」と怒られてしまった。
災厄の獣って竜じゃなくってあの女のことじゃないの?