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ルーカス視点



血を吐いて、身体を抱え込んで「痛い、苦しい」と訴え出した彼女を抱えて、私達は必死に転移陣を完成させて「黒の魔法使い」の部屋へと転移した。



「こんなところに転移するなんてなんの……レオノア!?」

「覚醒が始まった。今の王宮よりもここ……お前の側が一番安全だろう」



転移陣の場所指定は「行ったことのある場所」に限られる。そこに「関わりが深い人間」がいれば成功率は高まる。

苦しむ彼女をサミュエルへと渡して、元からかかっていた結界魔法をより強固なものへと補強していく。今から三日は彼女の事を国にだってバレるわけにはいかない。


高熱を出す彼女の頬に軽く触れ、彼女の無事を祈る。


母上が亡くなられてから私を取り巻く環境は変わった。未来が分かる等という側妃……今の王妃が権力を持ち出してから、金の魔法使いであるらしい私は時代を逆行させるものとして疎まれ始めた。

それまでは仲良くしていたはずの弟は私を見下し始め、孤立しだす。


今の王妃もやはり自分の息子の方が可愛いらしく、弟が王位につくためにと動き出した。そのうちに毒殺されそうになった私はその毒を無意識に魔法で取り除いた際に身体から溢れる魔力と、自分を作り替えるかのような何かの力で今の彼女のように血を吐きながら苦しんだ。


そして、司祭である叔父によって、自分が命の危機によってより始祖と呼ばれる初代国王と同じ……生まれ変わりの色の魔法使いより一段上のステージへと足を踏み入れてしまった事を教わった。

前の金色の魔法使いであった祖父の遺した資料と自身の魔眼から、自分が「黄金の魔導師」と呼ばれる存在になった事を知った私は、生き残るために冒険者となって力をつける事を決めた。

いつ放り出されてもおかしくないと感じ始めたからだ。元々、王族に限っては金色の魔法使いが生まれ辛くなっている。私がいなくなればまた暫く現れないだろう。そして、その方が父達にとっては都合がいい。


そんな時だ。この少女に出会ったのは。


鮮やかな赤い髪に赤い瞳。

鮮烈なまでの存在感は平民であるなんて信じられないほどだ。あまりのそれに私は「冒険者ルース」として仲良くなった頃に、学園ではなるべくつけていて欲しい、と存在感を薄くするペンダントを贈った。

……彼女は貴族に平民への関心が薄いからというだけだと思っていたけれど。


私が「僕」であれる時間はとても貴重でかけがえのないものだった。


だから、彼女にはあまり自分の身分などを知られたくはなかった。それはウィルも同じなようで、自分たちの家の詳細については伏せておいた。少しくらいは話したけれど。

気がつけば、彼女の瞳は緑へと変わっていた。まさか、とは思った。


そんな彼女と学園でも関わるようになったのは、最近だ。一学年の最後、学園で魔法実技のメンバーが決まってから。

真面目に取り組む彼女の魔力は想定外に強かったらしい。

黒の魔法使いが酷く気にかけるから、彼女が赤の魔女だということはすぐに分かった。そして彼女があの女の異母姉であることも。


その後、春に弟が入学してくると、あの女は嬉々として弟を誘惑し、その心を得た。

それと同時に私の王城での立場もより悪くはなっていった。


だからと言って、アスール家は古くより王家を支えてきてくれた家である。まさか、ウィルを巻き込んでまで何かをするとは思わなかった。だから、学園はまだ安全だろうと油断していた。


その結果、私は二人の友を巻き込んでしまった。

そこは危険なドラゴンの生息地であったようで、憎いだろうとはいえここまでするだろうか、と唇を噛む。


ウィルとレオノアと一緒になんとかドラゴンを討伐すると、ドラゴンは最期の足掻きを見せた。力を振り絞って、灼熱の焔を私達へ向けたのだ。


それを彼女は虚ろな眼差しで手を出し……、一言、「分解」と言うと、彼女の下に美しい魔法陣が現れる。

赤い光に包まれた彼女の神々しさは言葉にできない。


焔を全て分解した彼女は倒れ込み、血を吐きながら苦しむ。

この様子に覚えのあった私は急いで彼女を本当は「黒曜の魔導師」である彼の元へ運んだ。

叔父上は既に亡く、私には後ろ盾は無い。


ああ、君を守る力があればよかったのに。

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― 新着の感想 ―
[一言] 死んだことにしてこの国出た方が平和に暮らせそうだなぁ…。
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