21
申し訳なさそうな顔で「すまない。王位争いによる謀略に巻き込んでしまったようだ」と言うルーカス殿下。
いやマジでこんなことってある?あ、平民は塵芥だから巻き込んで死んでも別にいっかみたいなアレでしょうか?そういう考え方マジで良くないと思う。
「とりあえず帰る方法探しましょう!何かしらあるはずですよね!」
幸いにも教科書はある。転移陣の書き写しは可能だし、三人いれば文殊の知恵とかいうからやったことないけどなんとかなる……ような気がする!わっかんないけど!
「そうだな。まずは三人用転移陣の作成をするとしよう。陣を描くための魔法ペンは私が持っている」
「闇魔法の魔石は私が持ってます」
「あとは開けた場所があればなんとかなるか……」
大きな布があればよかったんだけど、まぁこんだけ汚れてたらどうにもならないな!帰還用の転移陣配布とか言いながらただの汚れた布渡してくるあたり最初からまとめて殺しとくつもりだったのかな?殿下、厄介な問題抱えてるなー。
山っぽいところを三人で少し登ると、ちょっと開けた場所まできた。
その場所に、飛ばした連中の「目的」があった。
「ドラゴン……だと……!?」
アスール様が掠れたような声で呟く。
そう、この世界にはドラゴンがいる。災厄の獣なんて言われる世界の災害クラスのものから人と共に生きるものまで様々ではあるけれど、強い種族であることに変わりはない。
その中でも、これは……。
「人も食べる種類か……厄介な」
「目をつけられてる感じですねぇ」
ドラゴンは火山の火や特殊な草花、一定の動物など種によって食べ物が違う。
この青黒いものはその中でも「動物であればなんでも食べる」種のものだ。無論そこには人も含まれる。
転移陣の故障で何処かへ飛んで戻ってこなかった。山中から亡くなった者達のものと思われる品が数点見つかったけど、恐らく王子達はドラゴンに食われたのであろう、という筋書きだろうな。
「ウィリアム、私達で倒すしかないと思うのだが」
「見つかっている以上そうするしかありますまい」
舌舐めずりしてるもんね。
幸いというか冒険者セットは異空間収納魔法の中で取り出せるから即死なんてことは避けられる。ある程度の魔法が使えると知られている殿下達の前でなら魔法も使える。
とはいえ、だ。
後脚で立ち上がり、こちらを餌として認識してその牙を、爪を私たちに向けようとするソイツはちょっとどうこうしたくらいで逃げられる代物でもなさそうだ。
後脚を踏み締め、こちらへ飛び出してこようとしているドラゴンを見て、アスール様が「来るぞ!」と叫んだ。
これは……容姿を変えてる魔力すら勿体無いレベルかもしれない。
戦い始めてそう経たないうちにそう判断して、微妙に色を暗くしていた髪と、緑へ変えていた瞳の色の分の魔力を遮断して戦闘に回す。
殿下達もそういう判断になったのか殿下は明るさを増した金の髪と金の瞳、アスール様は花紺青の髪に深海のような深い青の瞳へと変化している。
私と殿下がサポートをしながらアスール様がドラゴンに斬りかかっていくという……これ、いつもルースとウィルと一緒に戦っているときの感じに似ているかもしれない。
そう思った私は、少し強めの魔力を練り、即席の薬物とそれを注入するから注射器の錬成を行う。アミュレット製作を通して錬金のレベルが高くなったからか、簡単なものなら即席錬成が可能になったのだ。自分の赤の魔女としての才能に感謝する。
「君は……。いや、それは後だ。“ウィル”!避けていろ!」
「はっ!」
アスール様が飛び退いたのを見て、六本ほどの注射器をドラゴンへ投げつける。
細い針のそれを避けるほどでもないと考えたのか、ドラゴンはそのままこちらへと走ってくる。
殿下が風魔法でプランジャを押し込む。一瞬、動きが鈍ったドラゴンの胸を、アスール様の長剣が貫く。
「仕留めた……か?」
ホッと息を吐いた瞬間だった。
「殿下、“レノン”、避けろぉぉおおお!!」
最期の足掻きというべきだろうか。
ドラゴンは血を吐いたその口から灼熱の炎を吐いた。
私は、「ああ、これは“分解”できる」と思ってそれに手を翳した。