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アマーリア・ハーバー。
ハーバー侯爵家の娘。恋愛シミュレーションゲーム「乙女の祈りは誰が為に」の悪役令嬢。
それがこの間までの自分の立ち位置だ。
父と母は政略結婚で、私が生まれてから二人の仲は冷え切っており、愛情もクソもない家で育つ。
本来ならそれでもまぁ、侯爵家の令嬢として育ち、王子様の婚約者兼、ヒロインと攻略対象の一人の義姉としてヒロインをこっ酷く虐めて虐めて虐め倒す役回りだ。
だというのに、現実に起こったのは母親が不審な病死をとげると、父親は喜色満面で愛人と子どもを呼び寄せ、嫌がる私を殴りつけ、私を妻の実家へと押しつけたみたいなやつである。
そうして母の実家へと送られた私は「お前のせいであの子は死んだんだ!」等というよく分からない理由で家を追い出され、更には人攫いに攫われそうになりながら必死に逃げて逃げて、ある子どもを亡くしたばかりの夫婦に拾われた。
何がお前のせいで娘が死んだですか、普通に考えてお前が嫁に出した男がクソだったんですよ。政略結婚だった以上、人を見る目がなかったお前が悪いわ糞爺。
幸いにも、父親にぶん殴られた時に成人女性だった「前世の私」の記憶が戻ったからアマーリアは辛うじて生き延びたけれど、これが普通の五歳児「アマーリア」ならば死んでいた。貴族ってやつはこれだからいけない。
そして、更に幸運だったのは私を拾ってくれた夫婦が「亡くなった娘と同じくらいの年齢だから」と私の両親になってくれたのである。女神様からの思し召し、とこんな訳有りっぽい子どもを拾ってくれたのである。女神とはこの母のことではないかしら。
そして、私が新たな両親に初めて強請ったのが「名前」である。二度と「アマーリア・ハーバー」を名乗ることがないだろう私は、私を愛してくれそうな両親のつけた名前を名乗りたいと泣きついた。
その結果、貴族令嬢「アマーリア・ハーバー」はいなくなり、平民「レオノア」が生まれたのである。
そして私は元気に畑を耕して野菜を育てている。最近では離れた畑で薬草の栽培も始めた。近所に住んでる薬師のおばあちゃんが煎じ方を教えてくれるのだが、薬草の生える森まではちょっと遠いのだ。見たことがない草を見つけるたびにおばあちゃんに聞いて必要そうなものを増やしている。
両親と私が拾われた後に生まれた弟とそれなりに愛されて暮らしていた楽しい毎日は私の十二歳の誕生日を機に終わりを告げようとしていた。
「レオノアには強い魔力があるようですね」
この世界には魔法があるのだ。
十二歳の誕生日に平民貴族を問わず神官が各地を訪れて鑑定する。
私は平民には使える子って少ないと聞いたので一切使わなかったが、やっぱり元がお嬢様なので魔力が強かったらしい。
……貴族の通う学校に通うことになってしまった。
誰に泣きついても、魔力が高い子は学園に通わなくてはならない。平民なんてほとんどいないところに行ったら虐められる気がしている。貴族がやることは容赦なさすぎて怖くない?意地でも行きたくはなかったけれど、行かなければ可愛がってくれる家族が国に捕まってしまう。
「こうなったら、お姉ちゃん……、立派な魔導師になって城で出世してみせるわ!」
「姉ちゃんならなれるよ!」
学園に行って好成績を修めれば、公務員への道が開けることを神官から説明されていた私は物事はポジティブに考えなければと家族にそう宣言した。
それから、畑の世話をしながら近くの町の教会で週に何度か勉強を教えてもらって、学園に入ることになった。
学園で高等部になる十五歳からがゲームの舞台だったけど、私強制的に悪役令嬢を退場させられているし、勉強と勉強と……勉強してれば良いよね!
国からの奨学金もあるし、冒険者ギルドに登録したらお小遣いも稼げるはずだしなんとかなるよね!実際、ヒロインもそうしていたはずだし。
まぁ、この人生の我が義妹たるヒロインは侯爵家乗っ取ってるからバイトの必要ないけどな!