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学園にも週に二回はきっちりお休みがある。そんな日はだいたい依頼をこなしたりしてるんだけど、今日は市場に来ていた。新しい服とか学用品を買って、ホクホクとした気分で帰り道を歩いていると、明らかに良い身形の少年が倒れていた。うーん、一つか二つ年が上かもしれない。長い銀の髪の綺麗な少年である。
とりあえず、道で行き倒れているのはあんまりよろしくないかなって思ったので、冒険者ギルドが近くだったからそこでお部屋を借りた。
ベッドの上に放り投げて、医者を呼ぶ。
……来てくれた医者いわく、過労と風邪とのことである。HPポーション飲ませたら治らないかなーってさすがに病気は無理だわ。体力はあった方が良いかと思って飲ませた。
仕方がないので、内職をしながら起きるのを待つ。起きたら薬を飲ませてって言われてるし。
たまたま来ていて見つかったルースには「君は厄介事を見つける天才なのかな……?」とか言われちゃったんだけどコイツ一体何者なの……。ルースはその後すぐにウィルと一緒に急いで帰っていった。用事があったみたい。誰か聞いとけばよかった。
朝まで彼の世話を焼きつつ、黙々と課題をしたり、次の階層からの攻略に使おうと思っている中級ポーションの材料の処理とかをしていた。
そのまま錬金釜に放り込んでもそれなりのものは作れるんだけど、処理をきちんとした方が効果が高くて高品質のものができるのだ。自衛用なので手は抜きませんとも。
なお、HPポーションが体力だけ回復するやつ、MPポーションが魔力だけ回復するやつ、ポーションとだけ呼ばれてるのが体力と怪我を治すやつである。後は特化型(呪解ポーションとか欠損回復とか)もある。ポーション奥が深いよね。
処理を終えて一息ついた頃、僅かに声がして少年が目を覚ました。
「あ、起きました?」
「……ッ!?ここはどこだ!?」
「冒険者ギルドの貸し部屋です。ホントは馬車とかでお家まで送っておしまいにしたかったんですけど、私あなたのお家知らなくって目を覚ますまでここで寝てもらってました。昨日の夕方前に拾ったので半日くらいは経ってますね」
取り敢えずそう言って窓を開ける。まだ青い顔をした彼に、馬車呼ぶから自分で帰ってを丁寧に言うと、お礼を言われた。ふふ、ルースの発言に抗うためにも面倒なく帰宅して欲しい。医者代とかもう全然いいから。ルースの厄介事発言に非常に警戒心が湧いている今のうちに早く自力帰宅をしてくれ頼む。
「看病をしてくれていたのか。すまない、助かった。私はジェームズ・デイビスだ。この恩はいつか返そう、レオノア」
なんで公爵子息が行き倒れてたの。
なんで公爵子息が平民の名前覚えてんの。
「何故君の名を知っているのか、というような顔だな。平民でありながら学園の成績上位というのはそれなりに目立つものだよ」
呆れたようにそう言うジェームズ様に「そういうものですか」とだけ返した。そ、そっか……成績気にする貴族いたんだ……。誰も見にこないから無関心なんだと思ってたわ。
「とりあえず、待合馬車乗り場はギルド出て右です」
「ああ、ここから使いを出して迎えを寄越してもらうからそれは結構だ。ところで、身体が軽いが私に何かしたか?」
「医者呼んで薬飲ませたくらいですよ」
HPポーション突っ込んだとか言うと面倒そうだと思ってそれは言うのやめた。どうせ自作である。足はつかない。
そんなことより早く出て行こう?私も帰るから。
「それで、何か聞きたいことはない?」
「いつ帰るんですか?」
「……もしかして、君は私にこれっぽっちも興味がないね?」
ないよ、という意味を込めて頷いた。貴族との穏便な付き合い方(公務員になる的意味合い)は知りたいし、多分コネはあった方が良い。けど、男女として貴族に近づくつもりはない。だって、絶対苦労するもんね。
「あ、王宮魔導師とかになれたときのコネとしては興味があります!」
「……有難いはずが複雑な気分だよ」
「だいたい、平民が貴族に囲われても良いことなんて基本一個もないですよ。特に歓迎されない恋なんかは寿命とか縮めるんですよ」
貴族同士ですら歓迎されない妻ならサクッと殺されたりするのに、平民が無事に済むわけないんだよな!
「まぁ、それならば良い。愚かでないようで何よりだ。事情も……聞かれない方が私は都合が良いしな」
公爵家の坊ちゃんは考えることが多くて大変だな。
「それはそれとして、君に聞きたいことがある」
「なんです?」
「この魅了特化の抗魔のアミュレットを作った人物を探している。冒険者だという噂があるが心当たりはないか?」
「ありませんね!」
私が作ったやつを見せられたけど秒で嘘を吐いた。サミュエルとルースからのお説教はやったことを心底後悔するレベルなので回避するためならこのくらいの嘘吐き通す。
……レベル爆上げがバレた夏季休暇明けのルースの黒い笑顔は思い出したくない。