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残りの夏季休暇、何故かサミュエルが我が家に乗り込んでくることもあったけど、平和にすぎた。
お父さんと農業したり、お母さんと家事をしたり、弟と川に行って釣りしたりね!
そして、王都に向かわなければならない段階になって、サミュエルは一緒に王都に来たのだった。というか、本拠地は一応王都なんだって。それ以上は教えてくれなかったんだけどやっぱり私見張られてるのでは?
寮が開く三日前に王都へ到着したから、私は冒険者ギルドへ泊まる事にした。エヴァもいたから、一緒に遊びに行く約束もした。ルースとウィルは忙しいのかギルドに出入りしていないらしい。ノアはガンガン稼いでたっぽいけど。元々、そこまで裕福ではない分家から来ていたらしく、彼は教会の施設やら冒険者ギルドに馴染んでいる。……原作で精神を病んでた原因居ないし、病みそうな原因から離れたもんね。
着いた日の晩に、荷物を整理していると、サミュエルから部屋に来いと言われたから、鑑定室のドアを叩いた。返事が聞こえてドアを開けると、緑の髪に緑の瞳を持つ妖精的な美少女がいた。
彼女は私を見た瞬間に怪しげに笑い始めた。え、何。
「ふ……ふふ……ふふふ……。赤い髪に……あら瞳は緑に変えていらっしゃるのね素敵だわ素敵だわ!ああ……赤の魔女にわたくしの色が交じっているなんて興奮で夜も眠れなくなりそう!」
体を撫で始めた彼女に対して恐怖心が勝ち、小さな悲鳴が漏れた。周りを見渡してサミュエルを見つけると、その後ろに隠れるように走った。
「ああ……っ!何故そんな男の後ろへ隠れてしまわれるのですか!?わたくしの愛を受け止めてくださいまし!!」
「ねぇ彼女誰なのちょっと怖すぎないねぇ聞いてるのサミュエル」
呆れたような顔をした彼は、「碧の、大人しくできないなら出て行ってくれ」と言うと、彼女も「仕方ありませんわね」とソファに座った。切り替えが早い。
「碧のってことは……」
「彼女は碧の魔女だよ」
「アダムス伯爵家が次女、イザベラですわ。レオノア様」
様なんて呼ばれても困るので、「私のことはただのレオノアとお呼びください」と返すと、イザベラは嬉しそうに笑った。
「それでは、わたくしのことも……身内で集まるときはイザベラとお呼びくださいな」
外で伯爵家の御令嬢を呼び捨てにする訳にはいかないもんね。
「そろそろ、何か疑問でも出てくるんじゃないかと思って君を呼んだんだけど……なぜかこれも来てしまった」
「これとはなんですか。レオノア、この男ではなく、わたくしに聞いてくださっても良いのですよ?」
呼ばずに来るほど仲が良いと思うべきか、仲が悪いのかと思うべきか分からない。
「そもそも、色の魔女とか魔法使いって何なの?」
「建国の際にこの地に住まう悪しき竜を共に滅ぼしたとされる六柱の英雄……の血や才能を継ぐ者のことだ。後継の条件は各々で違う。赤の女系継承然り、黒の試練然り」
「碧の植物に愛される才能だとか、ですわね」
うん?黒は試練、緑は才能……じゃあ女系継承って。
「赤の女系継承って途絶えたらどうなるの?」
「女系で血が近いところに出るよ。今君が死んでもガルシアは伊達に長い歴史を持っていない。始祖から数えれば女系の子孫のどこかに発現するだろう。本当に居なくなった場合はおそらく、錬金術師の中で最も才能ある女性に赤が現れるだろうとは言われている。実際は君や他の人が死なねば分からないけどね」
伯父の子どもとかは男系だから資格がないし、始祖様から数えると嫁に行った次女以降の者もいるため把握はできないが、そう簡単には途絶えないらしい。とはいえ、疫病とかで死んじゃう可能性って0じゃないからね。
「実際、一応は血族で繋がっていく後継だが、橙の一族は一度滅びている。その後、同じ素養のある人間に発現した。黒の一族も直系は十三年前の戦争で死んで、俺は遠い分家筋から継いだ」
「どうあっても出てくるものではあるのです」
「先代の死と同時に完全に移行するが、継ぐ前だってそれなりに強い力を持つからな。誰が後継かはわかりやすい。魔眼に限って言えば、アレは先代や同類からなんらかの形で与えられた魔力で目覚めさせるものだから個人では目覚めさせることは難しいが」
……死んだのを確認もしないんだなぁ、とかは思ってた。
完全に継いでなきゃ良いし、生き方を知らない子どもだからそのうち死ぬだろうってことだったんだろうか。
魔眼の継承ができなければ、完全に赤の魔女が目覚めたとは言えないから、あの魔女の指輪が作れないって事で私は放置されてたのかも。
「同類同士が啀み合うことってあるの?」
「数代に一度、聖女の生まれ変わりが現れるのですが、その際は大方殺し合いになっておりますわ。先代の聖女の時に国が壊れかけまして……橙の魔法使いはその時に一族まとめて処刑台に上がりましたわ」
聖女ってそんな物騒職だっけ!?