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成長したら目付きがキツい悪役顔な上に、微笑むと何かを企み人を惑わせる悪魔みたいだなんてなんとも悲しい話である。幼女時代から目付きがキツくはあったけど。でも、キツくもなるよね、あの家庭環境。美人には育つみたいなので許して欲しい。
あんな悪魔の誘惑の様な提案に、伯父は秒で頷いた。何にでも良いから縋りたかったのかもしれない。
ここまでくれば私はもう囁くだけである。
指輪の消滅だとか、サミュエルが集めた情報で知った不正の証拠の場所とかそういうのを囁けば伯父は悪魔(私)に魂を売ってくれるのである。
かなり後味は悪いものになるかもしれないけど、血の繋がった馬鹿の暴走は止めるべきだろう。
黒いのチートが過ぎる気がするんだけど、私もそういうのあるのかな?
神に祈る様に膝を折って、礼を言ってから彼は証拠の確保をしに行き、部下に祖父の身柄を押さえるように言い付ける。
私は扉が閉まってから新しい指輪を左手の中指につけた。これで例の指輪は消滅してると思う。
ちなみに消滅してなかったら偽物だから、黒の魔法使いの怒りが増す。
その後、同じような侵入方法で呪いに侵された少女の部屋へ行く。侍女等は側にいないようだ。この間の少年が手を握っていた。
「だ……っ誰だ!?」
無視をして青白い顔をした少女の枕元へ行く。少年に拘束魔法をかけて、小さなポーション瓶に入れたそれを少女に飲ませる。
胸を押さえて苦しみ出した少女を見て、「シャーロット……!クソ、妹に何をする!?」と拘束を振り解こうとする少年。黙っていて、という意味で唇に人差し指を当てる。
シャーロットという少女が黒い「何か」を吐き出して、それが霧散すると、彼女は気を失うように再び眠った。
「これで呪いとやらは無くなった。貴様らはこれから我が加護を失うが、正しく生きるがいい」
努めて興味なさげに告げると、信じられないというように少し頬に赤みがさした妹を見つめる少年。
去ろうと窓際に足をかけると、「待て!」と声がかかる。
「わ、私はエイダン・ガルシア!この恩は忘れぬ、お前の名を名乗れ!」
涙目のエイダン少年よ。やってる私が言うのもなんだけど見知らぬ女信用していいのか?
というか、名乗る訳にもいかないんだよねぇ。
返事をせずに出来るだけ微笑みを心がけて、窓から飛び降りた。烏みたいな魔物達が私を合流地点近くまで運んでくれる。
合流地点まで行くと、我が同志サミュエルは梟の魔物を飛ばしているところだった。
「あの家で一番始末したかったやつは潰せたみたいだよ」
「そっか。亡くなった命が返ってくる訳じゃないけどこれ以上あんな理由での死はないだろうし、これでよかったのかな」
「ああ。それに、呪いは成就せずに解除されると倍になって術者に返るものだ。向こうも面白い事になってるんじゃないかな」
鼻歌でも歌いそうな雰囲気だ。
「あんまり嬉しくはなさそうだね」
「なんかこのまま終わる気もしないっていうかさ」
こういうのってヒロインがいる以上ある程度補正がかかりそうなものだし。
そうなると何で私が追い出されたのか、とかも考えないといけなくなるけど。
「何にしても、君はもうあんな連中に関わらないようにしてもいいと思うよ。救いの手など必要ない。切り捨てられた自覚を持ってくれ」
切り捨てられた。
それは正しい。
「普通ね、より苛烈さを増して憎んで便乗して全てを滅ぼす事はあっても、助力なんてしなくても良いと思うんだ。これ以上はきっと君のレオノアとしての人生を棒に振ることになるよ」
そういうものなんだろうか。
なんとなく、親類が悪いことをしている以上、自分がなんとかしないと悪いと思っていたし、まともな人間がいないなら止めるのは役目なのかとも思っていたけれど。
彼が言うにはそういうものではないらしい。
「君にとって大事だと思うのはアマーリアとレオノア、どちらなんだ」
それは、断言できる。愛してくれたのは、慈しんでくれたのはハーバーでもガルシアでもなかった。
であれば、選ぶのは当然そちらだろう。