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りんごの怪談記録メモ~怪談話の謎を解け!~  作者: たかしろひと
第1章
8/91

血まみれカーブミラー1

暑い日だった。

 『エコール』の窓から見える外の景色は陽炎で歪んでいる。もうすぐ日入りだが、気温が下がる気配はない。日中よりはましだが、それでも、汗が滲む。

 まぁ、僕は冷房のきいた店の中で涼みながらバイトしてるわけだけど。


「カフェオレおかわり」


 相も変わらず、僕の前の席に座っているのは梨郷である。最近ではすっかり定位置だ。


「おかわりって、一気飲みすると、お腹壊すだろ。我慢しろ」


「いいの、喉乾いてるんだから。これでもお客なのよ?」


 今来たばかりの梨郷の額には、汗が滲んでいる。アイスカフェオレを出したのだが、一瞬で飲み干してしまったのだ。


 客か……。そう言われると言い返せない。


「まったく」


 僕は新しいグラスに氷を入れて、冷蔵庫から出したピッチャーから水出しコーヒーを半分ほど注いでいく。それから冷たい牛乳、梨郷好みにシロップを投入し、彼女の前へ。


「ゆっくり飲めよ」


「わかってるわよ」


 ようやく汗がひいてきたらしい。梨郷はストローをくわえ、さっきより上品にカフェオレをすすった。


「駅の裏手に三叉路があるでしょ?」


 梨郷が前置きもなく始める話といったら、いつものアレしかない。どういうわけか、ここ最近は妙な怪談話を持ってきて、僕に意見を求めるのだ。


「出るって噂の港衣トンネルへ続く道か。トンネルにお化けでも出たのか?」


 先手必勝、適当に思ったことを言ってみると、


「その手前のカーブミラー、ほら、露ちゃんが人魂を見た雨の日にわたしの担当のメイクさんも……見ちゃったんだって。同じ日にこんなことが二回もあるって何かあると思わない?」


 何を見たって言うんだ。いやそれよりも。


「あれは愉快目的の不審者が」


「でもでも、露ちゃんがそういうことをやるきっかけになったでしょ? ちょっとおかしな話もしてたし」


 あぁ、頭の中に声が響いたとかなんとか。ストレスによる幻聴としか思えないんだけどなぁ。


 

「で、そのメイクさんとやらは何を見たって?」


「カーブミラーが真っ赤な血で染まってたんだって」


「それで?」


「それだけよ!」


「それを僕に話してどうしろって言うんだ」


「もちろん、調査に行くんでしょ」


 僕は眉を寄せた。


「今さら、文句は言わないけど、誰の頼みで調査するんだ?」


「え?」


「首吊りの時はお前、人魂の時は露ちゃんの頼みだった。今回は? そのメイクさんが困ってたのか?」


 誰の頼みでもないならば、興味本意ということになってしまう。


「こ、困ってたわよ。帰り道だから、通るのが怖いって。だから、私にお願いしてきたの」


「へぇ」


 梨郷は僕から視線をそらして、吹けない口笛を吹き始めた。空気が抜ける音しかしてないんだけど。


 まぁ、いい。今居さんから相手をしてやってほしいと頼まれているので、梨郷のお守りは僕の仕事だ。適度に構ってやって、時間になったら家まで送っていこう。


「じゃあまず、最初から話してくれ」


「な、なんだ、尚も乗り気なのね。わかったわ、話してあげる」


 上から目線には時々イラッとするけどな。


「メイクさん、名前は藍沢さんて言うんだけど、その日は車でその道を通ったんだって。雨が凄かったみたい。道の先にそのカーブミラーが見えてきて、何気なく見上げたら……鏡の表面に血がだらだら流れてたらしいの」


 雨が振ってたなら、見間違えだと思う。さっき僕も言ったけど、出るという噂の港衣トンネルの近くだから皆気をはるだろうし。

 

 一先ず、細かいことを聞いていこうか。




バイト終わり。

 待っていた梨郷と一緒に店の外へ出た僕は空を見上げた。 まだまだ明るいが、夕暮れは近い。西の空にオレンジ色の光が覗いている。冷房で冷やされた体にはもわっとした生暖かい空気が丁度いい。


「交通事故?」


「そうなの、藍沢さんがその道を通った前の日にね。そのカーブミラーに突っ込んだんだって。だから、その事故が関係してるんじゃないかって昨日の現場の皆で話してたのよ」


「テレビの収録現場でそんな話してるのかよ」


「お昼の時に、そういう話の流れになったの」


「……まぁ、いいか」


 僕は顎に手を当てた。


「それで話を戻すけど、まさかその事故で死人が出たのか?」


「ううん。運転手さんは無傷だったらしいのよ」


「ちょっと待て、血で染まってたカーブミラーに関係してるかもしれない事故で死傷者が出てないなら、まったく関係ないんじゃないか?」


「カーブミラーに突っ込んだのよ?」


「それは聞いた。僕が言ってるのは、出血した人がいないのに」


「カーブミラーの血かも知れないじゃない」


 僕は口を半開きにした。


「あ、ああ。うん。そうだな。そうかもな」


 梨郷は首を傾げた。


「何よ? なんか心の中でバカにしてない?」


 僕は梨郷の頭に手を置いた。


「まぁ、大体わかった。明日、そのカーブミラーのところに行ってみるか」


「なんで急に優しくなるのよ!?」


 純粋なのかバカなのか、はたまた小学生の思考だからか。ちょっと可愛く見えてきた。


 付き合ってやろうじゃないか。

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