分かれ道の先で7
「私もなんとなくそう思うのよね。なんでかしら」
奈々姫は少し考えて、
「看板以外で何か、道が正しいと思い込むようなことがあったのかもしれません。最初の分かれ道を左に進み、二番目の分かれ道で迷った時、わたし達は揃って右の道を選択しました。何故右の道だったか、覚えていますか?」
「えっと、やっぱりなんとなく?」
奈々姫は頷いた。
「その原因が分かれば、何か見えてくるかもしれません」
「やっぱり現場で捜査した方が良さそうね!」
「あ、梨郷さん」
梨郷はたたっとベンチに座っていた尚へ駆け寄った。
「これから分かれ道の捜査に行くんだけど、あんたはここで休んでて良いわよ。後で迎えに来るから」
尚はぽかんとして梨郷を見上げる。
「迎えってお前がか? 戦力外だろ」
「どういう意味よっ」
すると、奈々姫が歩み寄ってきた。
「心配してるのですよ。それで、どうします? ここで安静にしているべきだと思いますが」
尚は少し考えて、
「大丈夫だ。一緒に行く。別に体が辛いわけじゃ」
そこで押し黙った。梨郷と奈々姫は顔を見合わせる。
「ちょっと、ほんとに大丈夫なの? 倒れても起こせないわよ?」
その梨郷の忠告に反応はない。 尚はぼんやりと池の反対側を見つめていた。
数十分後、二番目の分かれ道へと戻ってきた。
設置されている看板は『碧華池↑』である。これに従って右へ行ったら、見晴台へ着いてしまったわけだが。
梨郷は右の道の前に立った。
「うーん」
眉を寄せる。
「ねぇ、奈々さん、やっぱり池に繋がってそうじゃない?」
「ええ、なんとなくそんな気がしますね」
道の前に立っただけでそう感じるのには理由があるはずなのだが。
梨郷は看板に顔を近づけた。
「その前に、この看板はイタズラっぽいわよね。もしそうなら……あ、でも道が池に繋がってるような気がするんだから……んん?」
「つまりこの看板が偽物で、実際は見晴台への案内看板が立っていたとしても、続く道の先には池があるような気がする、ということですね」
「な、なんで?」
「茅部さん、どう思います?」
尚は、声をかけられてはっとした様子で奈々姫を見やる。
「え?」
奈々姫は梨郷へ視線を向けた。
「梨郷さん、残念ながら今日の茅部さんはまったく使い物にならなそうです」
「本当に調子が悪いのね……。謎解きが唯一の取り得なのに」
「お前ら……。付き合ってやってるのに随分な言いようだな」
「別にけなしているわけではないですよ? 誰にでも調子が悪い時はありますから」
尚はむっとしたようだったが、それ以上言い返しては来なかった。
「仕方ないですね。もう少し考えましょう。状況整理です。まず解かなくてはならない問題は二つです。一つはどの看板が本物で、どれが偽物かということ。二つ目は道に対する微妙な違和感の正体。迷う原因は恐らくどちらにも関係しているはず」
「うんうんっ」
梨郷は嬉しそうに何度も首肯く。
「看板に関しては、有志で地元の方が立てたりすることもありそうなので、偽物っぽいだけで偽物とは決めつけられませんね」
「そう、よね。迷っちゃって危ないから、近所の人が立てたのかも」
「では、道の違和感について。恐らく、視覚情報が関係しているのでしょう」
「視覚……?」
奈々姫は人差し指で目を指す。
「目で見た光景のことです。人間の五感は触覚、聴覚、視覚、味覚、臭覚ですが、この場合は目で見て感じたことが原因の可能性があります。判断材料は空、地面、道の周りの木々。それらに何かそう感じさせるものがあるかも知れません。調べてみましょう」
「了解!」
梨郷は元気よく返事をして、地面に視線を落とし、観察し始めた。




