分かれ道の先で4
そこは看板通り見晴台だったのだ。丘の上にあるそこは平らにならされており芝生が敷かれている。矢倉付きのベンチがいくつか設置されていた。遠くに見えるのは晴れ渡った青空とのコントラストが綺麗な、町並み。
僕達はいつのまにか、町を一望できる場所にたどり着いたらしい。
「へ?」
梨郷が間抜けな声を上げる。
「……看板、イタズラでしたかね?」
さすがの秋野さんも戸惑っているよう。
「で、でもそんなはずないわよね、だって」
梨郷は口ごもった。確かに僕も『そんなはずない』という思いが強い。その原因はなんだ? なんでそう感じるんだ?
「一度イタズラ看板の分かれ道へ戻りましょうか?」
「そう、だな。もう一度見た方がよさそうだ」
僕達は元来た道を戻り始めた。
数十分後、二番目の分かれ道へ到着。
当然だが看板はそのままになっている。
僕達は『碧華池↑』の看板に従って右の道を選択したわけだが、結果は『見晴台』へと行ってしまった。
「どういうこと? 看板が間違ってるのかしら」
「左の道へ行ったらどこに着くんでしょうか」
「ねぇ、どうせだから行ってみない!? 徹底的に調査しましょ!」
「わくわくするな」
調査って、この暑い中歩き回ったら熱中症になるぞ。ところどころ日向があるんだし。
「とりあえず、左の道を調べましょうか」
無表情なんだけど、秋野さんは梨郷寄りの考え方なんだよなぁ。
仕方なく僕達は二番目の分かれ道を左へ。分かれ道に看板案内がなかったわけだが、
「これ見て!」
しばらく歩くと、道の脇に看板があった。
『←ハイキングコース』と。
「ハイキングコースって……?」
「多分、見晴台のふもとをぐるりと一周するのではないかと」
秋野さんの予想通り、その道を進むと、数十分ほどで最初の駐車場へとたどり着いた。つまり戻ってきてしまったのだ。
「えーっと……どういうこと?」
僕に聞くな。でも、そうか。なんか妙な感覚になるな。
「ふむ。じゃあ、次は見晴台へと続く道を歩いてみましょうか」
「賛成!」
わかってるよ。多数決なら負け確定だ。
と言うわけで、一番目の分かれ道を右へ。
「あっ」
しばらく歩いたところで梨郷が道の脇で足を止め、しゃがんだ。
「綺麗。何かしら」
僕は近づいて覗き込んだ。それは高さ五十センチ前後の楕円形の真っ白な石だった。表面はつるつるで日射しが当たっているためかキラキラ光っている。
「げいじゅつ作品とか?」
まぁ、意図的に置かれているんだろうけど。と、僕は目を見開いた。石の周りに白い靄が見えたのだ。水蒸気? いや、違うか。
妙に背筋が冷える。これは悪寒?
「なんか卵みたい」
梨郷が触ろうとしたので、僕がとっさに手首を掴んだ。
「へ?」
ぽかんとして見上げてくる梨郷。
あれ、なんで僕は止めたんだろう? なんか嫌な感じがしたから?
「ちょっと、何するのよ!」
「あっ、こらっ」
梨郷が手首を動かしたせいで僕の指が石に触れてしまった。
「っ!」
しかしその瞬間、白い靄は消え去り、悪寒もなくなったのだった。
日射しに当たっていたせいか、かなり熱かった。
「もおぉっ、なんなのよ、いきなり」
「火傷するから止めろ」
僕はとっさに思いついた言い訳を口にする。
あれ、なんかぼんやりしてきた。




