夜の廊下で足音が2
「赤い光?」
梨郷の視線の先を追うが、何も見えない。
「もうっ早く見ないから、消えちゃったじゃないっ」
僕はため息を吐いた。
「わかったよ。見てきてやる。でもちょっと待て」
この散らばってるものが気になる。電気をつけるか。
僕は近くの壁のスイッチを押した。何度か点滅して、証明が廊下全体を照らし出す。暗闇になれていた目には刺激が強い。
「ま、眩しいわよっ」
梨郷の訴えをスルーして、散らばっているものをつまむ。
「……葉っぱ?」
それは濃い緑色の、おそらく植物の葉で水分を抜かれてぎゅっと縮まっているように見える。
乾燥ワカメみたいだ。
「なんだろうな」
明るくなった廊下を見渡すと、そこまで量はないものの、あちこちにそれらが落ちていた。
「ちょっとこれ、掃除するの大変じゃない? 明日赤津さんに頼むの?」
見ちゃった以上放置して寝るのも気が引けるな。
「自動掃除機があるから、電源入れとくか」
「それって、ルン……なんとかってやつ?」
円盤形で、床を移動し、勝手にゴミを吸い取ってくれる便利な掃除機だ。
さて、トイレを済ませた梨郷と一緒にやって来たのはキッチンだった。基本的に赤津さんが管理している場所。物が多いものの、きちんと整理されている。ふと、床を見ると、何やら筒上の缶が無造作に転がっていた。
「何かしら?」
僕は台所の明かりを点ける。
「……茶筒だな」
お茶の葉を保管しておくものだ。蓋は開いているが、中身は空っぽ、それより気になるのが棚の扉が開いていることだ。茶筒は手前に置いてあったせいで、弾みで落ちたのだろうが、赤津さんが開けっぱなしで帰るとは考えられない。
「幽霊かと思ってたけど……これって泥棒なんじゃない!?」
「うーん」
と、その時。
とん……とん……とん。
静かな家の中に妙な音がし始める。同時に、ウィーウィーというような機械音も聞こえた。
「こ、この音!」
これ、足音じゃないな。
「行くぞ」
「え、あっ、何か武器は!?」
そんなのいらないだろ。
音を頼りに、梨郷と夕飯を食べた客間へ続く廊下を行く。
そして、
「!」
廊下を移動中のそれを見つけた。
「これ、さっき言ってたルンなんとか?」
円盤形自動掃除機。今は青いランプが点灯しているが、ゴミを感知すると赤色に変わるのだ。梨郷が見たのはこれだろう。
電源を切って裏返してみると、お茶の葉を吸い込んだあとがある。そして茶色い塊がローラーに引っ掛かっていた。
それを取ってみる。
「なんなの?」
これが音の正体か。
「キャットフードだな。赤津さんがこっそりあげてたみたいで」
僕もキッチンで踏んだし、他にも落ちてたんだろう。
「ローラーに挟まってたこれが、移動する度に変な音を立ててたんだろう。茶筒が床に落ちた時に散らばったお茶の葉を掃除してたんだろうけど、限界量を越えて廊下に少しづつ吐き出してたってところか」
うん、解決。また眠くなってきた。明日は何かあるわけじゃないけど、早く寝たい。
「ねぇ、それはわかったけど、なんで棚が開いてたの? それにこの掃除機って勝手に動くものなの?」
梨郷が怯えた表情で僕を見ていた。




