夜の廊下で足音が1
夢は見ていなかったが、体が揺り動かされる感覚に、僕はふと目を開けた。
……ん?
真っ暗な中、かろうじて自分の部屋の天井が見える。
いや、凄く眠い。なんで僕は起きたんだ?
寝ぼけているせいか、よく分からない思考になる。
「ちょっとっ」
紛れもなく梨郷の声にはっとする。
顔を横向きにすると、梨郷が僕の体を揺さぶっていた。
「……トイレか」
やっぱり来たか。まったく、予想を裏切らないやつだな。
「そうだけど、そうじゃないのよ」
僕はゆっくりと体を起こした。じんわりと汗をかいていることに気づく。タイマーをセットしてたから、冷房は切れてしまっているようだ。
「そうじゃないってなんだよ」
「廊下で足音がしたの」
「……誰の」
「知らないわよっ、ていうかこの家には私とあんたしかいないんでしょ? なのにさっきから廊下を歩き回る音がするのっ」
歩き回る音……? いや、しないけど。
「夢でもみてたんじゃないか?」
「い、今はしないけど、私が寝るとするのよ! ていうか、トイレ付き合って」
トイレ付き添いの言い訳か?
まぁ、いいや。
僕は梨郷を連れて、自室を出た。
「おい」
腹周辺にべったりくっつかれると、動きづらいし歩きづらい。
「何よ、良いじゃない。ケチって電気をつけないから悪いんでしょ。知らない家の真っ暗な廊下を歩く身にもなりなさいよ」
キレまくってるなぁ。
「どんな足音だったんだ? 動物か? ネズミならたまにいるぞ」
「ネズミ……。とん、とん、とんて感じの音。後、なんか他にもよく分からない音がしてたのよ」
とん、とん、とん? じゃあ、歩き回ってるやつは靴を履いてるのか。ヒールとか革靴とか。
「あっ」
唐突に声を上げた梨郷は足元を見ていた。
「どうした?」
「なんか砂みたいのを踏んだわ……」
砂? 確かに廊下がざらざらするような。
はらしゃがんで床を触ってみた。何か細かいものが散らばってる?
今度こそ泥棒でも入ったか?
「きゃっ」
「今度はどうした?」
「む、向こうに……」
指を指す梨郷。
「赤い光が見えたわっ」
尋常じゃないくらい、声が震えていた。




