茅部家と大浴場の怪4
茅部家居間。
テーブルに肘をついてテレビを見ていた梨郷は大きなあくびをした。
部屋着に着替え、足を伸ばしていた僕はちらりと様子を伺う。
「眠いのか? さっさと風呂入ってこいよ」
「眠くなんかないわよ」
浮かんできた涙を拭いながら、頬を膨らませる。
「なんでそこで強がる」
僕が相手だとなんでも反抗したがるんだよな、こいつ。
「もうっ、うるさいわね。そんなに言うなら入ってくるよ」
不機嫌過ぎる。
「風呂で寝るなよ」
「言われなくても大丈夫よっ。言っておくけど、覗いたら殴るわよ」
「土下座して頼まれても覗かないから安心しろ」
「バカ尚っ」
そう言って、大浴場へと向かって行った。
疲れと眠気で不機嫌MAXだな。
梨郷は大浴場へとやって来た。長めの暖簾を手で避けて、木戸の取っ手に手をかける。
「あれ?」
木戸が少し開いていた。赤津さんが入ったのかもしれない。そう思って中へ。
脱衣場は温泉旅館並の造りだった。もちろん、それより狭いが五人一緒に入っても問題なさそうだ。広い棚には脱衣籠がいくつか。その一つにタオルとバスタオルがたたんで置かれていた。
「凄い……」
恐る恐る籠のバスタオルを取り出して、服を脱ぎ、タオルを持って曇りガラス戸へと歩み寄る。
と、その時。
「ひっ」
水を含んでひんやりと冷たいお風呂マットに驚いたのだ。曇りガラス戸の前に置かれていたので、もろに踏んでしまった。
「だ、誰か入ったのね。あー、びっくりした」
赤津さんはなんとなくまだ入っていなさそうだが。
「そういえば、尚には妹がいるのよね」
何故か言いたくないようだったが。
梨郷はそんなことを考えながら、浴室へと入った。ちなみに浴室への戸も少し開いていた。
「わっ」
そこはやはり、温泉旅館のようだった。もちろん、旅館の風呂よりは狭いが。個人宅の風呂とは思えない。
「え、露天風呂まであるの?」
入り口の向かいの戸に『露天風呂』と書かれたプレートがさがっているのだ。
「尚……何者なのよ」
梨郷の偏見だが、普段の彼からは想像も出来ない自宅だ。
気を取り直して体と頭を洗い、浴槽へ。
足の指で熱さを確認してからゆっくりと湯に沈める。
「はぁ~……」
丁度良い温度だった。
「悪くないわね。……あれ?」
水の音がしたような。それは露天風呂の戸の方から聞こえてくるようだ。




