絵の中からの視線3
壁の絵の男性は眼力が半端なかった。怖いくらいだ。
顔を近づけて見ると、確かに目の部分は少し違う……いや、これはもしかして、
「何か埋めてあるんじゃないか?」
「え?」
素人の描いた絵ならなんでもありだろう。宝石かガラス玉か。
光った原因はやっぱりライトの光が反射したんだろうな。でも、常に反射してるわけじゃない。なら、さっきはどうして光ったように見えたのか。
僕は近くのイスとテーブルへ視線を向けた。その上のろうそくにも。
ちらりと見ると、カウンターやレジの前に店員はいなかった。客が少ないため、奥へ引っ込んだのだろう。
「梨郷、そこに座ってみろ」
「ここ?」
さっきまで客がいたイスを引く。絵に背中を向ける形だ。
しかし、座ってもらったは良いが、座高が足りないな。これ。
「何か分かるの?」
「うーん」
僕は梨郷の頭に手を置いて、四十センチほど上へ上げてみた。
「なんか、喧嘩売られてる気分だわ」
「お前、短気過ぎるだろ。……よし、もう良いぞ」
イスから降りた梨郷を連れて、自分の席へと戻る。
「何かわかった!?」
「そうだな……」
決定打にかける。
と、僕が考え込んでいると、店のドアが開いた。カランカランとベルが鳴り、客が入ってくる。男女のカップルのようだ。
「いらっしゃいませ」
店員が対応し、奥の席へと促す。水のグラスがテーブルへ。僕はとあることに気づいた。いつの間にかカップルが座ったテーブルのろうそくの明かりが強くなったのだ。途端に揺らめきだす。
「……わかった」
「えっ」
うん、わかった。
「わかったの!?」
「ああ。やっぱりライトの反射だな。それで、なんであの一瞬だけ光ったのかってことだけど、タイミングの問題だ。まず、このろうそく」
僕はろうそく型照明を指で示した。
「席に客がいる時は、明るさが変わるんだ。いない時は省エネモード」
「確かに違うわよね」
「明るさだけじゃなくて、炎が揺らぐようにもなるらしいな」
「そうなの!?」
ちなみに省エネモードの時は揺らがないようだ。
「自動的なのか、店員が操作してるのかわからないけど。それで、あの絵のそばの席に客が座ってただろ? 客がろうそくの光を遮ってたから揺らいでも目が光ってるようには見えなかったんだ。だけど、客が帰って、省エネモードへ移行する間に」
「移行?」
「ああ、悪い。省エネモードになる前に揺らいだからお前には目が光って見えたんだ。それだけだ」
「あ、そっか。ろうそくが揺らぐのはお客さんがテーブルにいる時だけだから今は反射して光らないのね。なるほどー」
この事実、本当にどうでも良い。何か落ち込んでる風だったこいつを元気づけてやろうかと思って連れてきたのに、平常運転だったな。
なんか疲れた。
「はあ……」
「やっぱり」
「ん?」
「尚は、その、凄いわよね」
梨郷は頬を赤らめ、そう、口にした。
「……別に無理に媚びなくても、ここは僕が奢るぞ」
「んもうっ、そうじゃないわよ! ……仕方ないわね。言うわよ。それなら文句ないんでしょ?」
「なんの話をしてるんだよ」
「この前の、こと」
多分、廃墟でのことだろうな。
「ありがとう、来てくれて。助けてくれて」
「なんだ、そんなことか。感謝の言葉を言えないから僕のことを褒めてたのか?」
「バカっ」
あー、図星か。不器用だな。
「気にするな。子どもが気を遣うもんじゃないぞ」
「もうっ、子どもって言った!?」
「言った」
ぎゃーぎゃー騒ぎ始める梨郷の様子に内心ほっとしていた。もしかすると僕は、梨郷に大人になってほしくないのかもしれない。




